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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
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第九章「初恋」第百五十八話

サートゥルナーリア祭四日目 朝。

生牡蠣食べて腹痛の兄一人、食べさせた張本人の祖母一人。そしてカタツムリの夢にうなされる妹一人。


「ネロお兄様?!」

「やぁアグリッピナ。元気だったか?どうした?その包帯?」

「ちょっぴりガイウス兄さんを怒らせちゃって。」

「あーあ、ついにやっちまったか。お母様から言われてると思うけど、ガイウスは激情すると何でも投げてくるから気を付けるんだぞ。」

「はい。」

「でも、そのガイウスの奴は生牡蠣食べて寝込んでるそうじゃないか?普通は出されても食べないだろ。あいつは昔から食い意地が張ってるからな。」

「ははは…。」


まさか、アントニア様に食べさせられたとは口が裂けても言えない。それにしても、大人用のトーガを着ていないネロお兄様は、背も随分と伸びて逞しくなられていた。


「そう言えば、昨日はうちの家内のリヴィアがアグリッピナ、お前となんでもサイコロで勝負したかったって言ってたけど。」


あ!すっかり忘れていた。

そうだった。まいっか、高慢ちきのリヴィアだもんね。


「最近、フェリックスやパッラスから教えてもらったサイコロ賭博なんです。」

「サイコロ賭博?!」

「はい、これが面白いように勝ってしまって…。」


しかしネロお兄様は手で顔を塞いで、笑いながら呆れていた。


「参ったな~。あれは男がするものだぞアグリッピナ。しかも、皇族の長女が堂々と勝利しているなんて。どこまで男勝りなんだか…。」

「だって、勝ってしまうんですもの。しょうがないじゃありませんか?」

「ははは、そっか。」


でも、ネロお兄様だった。

微笑んで私の髪を撫でてくれた。やっぱりお母様と一緒じゃない時は優しいな。


「それじゃ、今夜はお兄ちゃんも参加して、みんなで勝負するか?」

「ええ?!本当に?!」


やったー!

私は指をパチンと鳴らして素直に喜んだ。これで高慢ちきのリヴィアが猫被ってくれる。


「しかもチーム対抗戦なんてどうだろう?」

「チーム対抗戦?!」

「ああ、僕にドルスス、パッラスにフェリックス、そしてリヴィアにアグリッピナ。合わせて六人いるだろう?二人組でチームを作るんだよ。そしてサイコロを振る者と、賭け金を賭ける者で分けるんだ!」


うん?

ネロお兄様…。さっきはあんだけ私の事をサイコロ賭博をする、男勝りのアグリッピナっとお嘆きになられてましたが、ひょっとしたら、お兄様も根っからの賭博士ですか?


「知ってるか?ユリウス家は、代々賭博で勝てる者と勝てない者に分かれるそうなんだ。」

「へぇー、誰がそんな事を言ったんです?」

「初代皇帝アウグストゥス様らしい。」

「…。」

「どうした?」


イマイチ信用ならない言葉だ。だってアウグストゥス様って、一日で二十万セステルティウスもボロ負けしたような方でしょ?それって負け惜しみの言い訳のような気がする…。


「へぇーそうなんですね。」

「だから、僕達の家族もどっちかになれるって事だよ、うん。」


私はこの時ネロお兄様の姿を見て、はっきり分かった事が一つある。男性はギャンブルで熱くなるのが好きで、しかも運試しで勝つ事を心の何処かで望んでいる事を。


「それではお兄様、チームはどうやって決めるんですか?」

「そうだな…。」


するとちょうど、パッラスとドルスス、そしてフェリックスが通り掛かった。


「おお!ちょうど良かった!お前たち、こっち置いで。」

「あ!ネロ兄さん!いつ帰って来てたんです?」

「さっきだよ。」

「ネロ様、お久しぶりです。」

「お久しぶりっす、ネロ様。」

「やぁ、パッラスにフェリックス。」


そしてネロお兄様から、今夜、チーム対抗戦のサイコロ賭博で勝負する事を提案された。


「それは面白そうですね?!」

「だろ?ドルスス。」

「チーム対抗戦で、しかもサイコロを振る人と賭け金を賭ける人をそれぞれ決めるなんて。」

「なかなかいい案だろ?パッラス。」

「はい、色々な計算と戦略性が生まれそうです。」


みんなは一人を除いて目を輝かせて話している。しかしフェリックスは弱々しく手を上げた。


「でも…。僕の財産は全部アグリッピナ様に取られちゃったし、借金もあるから無理だよ。」

「え?!そうなの?」


うん?

ひょっとしたら!


「はいはい!ネロお兄様、私はフェリックスとチーム組んでいいですか?」

「ええ?!」

「どうしてアグリッピナ様?」

「フェリックス、あんたは私に借金あるんだから当然でしょ?」


意外にバカみたいに賭け金を掛けてくるフェリックスだったけど、私が参加するまで賭博の才覚が一番あったのはフェリックスだった。


「よーし!それじゃ、僕は家内のリヴィアと組むから、ドルススとパッラスは二人組でチームでどうだい?」

「いいですね!」

「パッラスがいれば百人力だよ、ネロ兄さん!」


パッラスは計算に頼りすぎで、ドルスス兄さんは消極的な賭け金しか賭けてこない。ネロお兄様とリヴィアはこの時点で未知数。しかし、さっきのお兄様の発言を聞いていれば、かなりのめり込む性格っぽい。リヴィアは私に対抗意識を燃やして来るから、ネロお兄様はそれを咎めるので戦略性が崩れそう。


「一体、何考えてるの?アグリッピナ様は。」


だから私はフェリックスが自分の敵になるまえに、取り込む事にしたかった。私はフェリックスにこっそり耳打ちをする。


「あんたを絶対に勝たせてあげる為だよ。」

「ええ?!」


続く

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