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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
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第九章「初恋」第百五十六話

サートゥルナーリア祭三日目 夜。

頭に傷口一つ、あと、心にかすり傷。


ドルシッラに言われた一言は、せっかくの馬鹿騒ぎなお祭りの楽しみさえも奪ってしまった。そう言えば、大母后リウィア様からも、先入観を持って接すれば、それだけ相手を理解する事が難しくなると言われてたっけ。駄目だな、あたしって。宴会の喧騒から少し身を引いて、中庭の噴水の近くに一人座って夜空を眺めていた。


「どうしたんですか?アグリッピナ様。」

「うん?あ、ジュリアか。」

「フェリックスが、今夜こそアグリッピナ様から借金を取り戻すんだ!って息巻いてましたよ。」

「そう…。」


ジュリアは犬の様に首を傾げて、じっと私を眺めていた。心配かけないように笑って返したけど、ジュリアは頬を膨らませてる。


「もう、また無理してる!」

「え?」

「アグリッピナ様って、そうやって時々笑顔で"私は大丈夫よ"って顔をするけど、曇り空のように太陽が隠れていますよ。」


ジュリア…。


「別に何があったか聞きませんけど、無理しちゃダメ。そんな時の笑顔はすぐ暴露ますから。」


あたしの作り笑は曇り空か…。

ジュリアは繊細だから、本当によく分かってるんだな。


「じゃあ、こうやって眉間にシワを寄せてればいい?」

「プッ!何ですか?その変な顔。アッハハハ!口がへの字になっちゃってますよ!」

「変な顔って、ジュリアもひどい言い方するな~。」

「アッハハハ、だって~。」


この娘の笑顔に、笑い声に、私は何度助けられてきたんだろうか。本当はジュリアだって婚約者だったダルサスを失って辛いはずなのに。彼女は自分の事より、他人を気遣っている。あたしには無い優しさなんだよね。


「ねぇねぇ、アグリッピナ様。牡蠣って食べた事あります?」

「え?牡蠣?あたし、あんまり魚介類は好きくないから、食べた事無いな。」

「実は牡蠣には媚薬の効能があるらしんです。」

「媚薬?」

「そう、恋の媚薬です。」


本当に?

牡蠣にそんな効能があるなんて知らなかった。


「つまり、好きな人に牡蠣を食べさせれば、イチコロで自分に惚れてくれるわけですね。」

「ジュリア!今夜の料理って何が出てるのかな?!」

「フフフ…。何と!炭火焼の牡蠣です!」


あたしの心は一気に舞い上がった。


「魚やエビを塩漬けにし、発酵させた魚醤のガルムはつけない方が、その効能は出るらしいですよ。」

「そっか魚醤のガルムは駄目なのね。それなら、生ならもっと良いのかな?」

「生牡蠣って事ですか?」

「うん。」

「どうなんでしょうか?牡蠣って生で食べれるんですか?」

「知らない…。」


何かと一緒だったら食べれるんじゃないのかな?そう言えば、ガリアの解放奴隷料理人のシッラとリッラが、台所に調味料をいっぱい作ってたっけ。でも、今はサートゥルナーリア祭だからアントニア様が料理の給仕だ!って事は、手薄になってるはず?!


「ジュリア、生牡蠣で恋の媚薬作ってみようよ!」

「うん、面白そう!やってみましょう!」

「お姉ちゃん?ジュリアさん?何してんの?」


あちゃー…。

一番口うるさいリウィッラに見つかった。しょうがない、ここは一つこいつも仲間にして。リウィッラの肩を抱きながら、仲間へ加わるように脅した。


「いいかい?分かった?あんたはお喋りですぐに言いふらすけど、もしそんな事したら、おねしょした事ドルシッラにバラすからね!」

「やーん、そんなの暴露たらドルシッラお姉ちゃんに怒られる~。」

「だったら、黙ってあたし達の仲間になるか?」

「うん、仲間になる。あ、もう一人連れてきてもいい?」

「誰?ペロ?」

「ううん、ジュリアさんから貰ったレムス。」


サートゥルナーリア祭の初日にジュリアがリウィッラにあげた人形のこと。毎日右手の親指を舐めながら、リウィッラはその人形を抱いて寝ている。


「うわ~、リウィッラちゃん大切にしてくれてるの?」

「うん!」

「イイわよ、それじゃその人形も持ってきな。」

「違う!お姉ちゃん、人形じゃない連れて来るでしょ?」

「はいはい。」


どうやらリウィッラは自分が一番下だから、人形相手にお姉ちゃんを演じたいみたいで、弟のレムスを持ってきては、あたしの真似をして注意してた。


「いい?ジュリア、リウィッラ。これから台所に忍び込むから、くれぐれも賓客には暴露ないようにね!」

「はい!」

「はい、お姉ちゃん。いい、レムス分かった?くれぐれも賓客には暴露ないようにね!」


こうして、私達四人(?)は、生牡蠣で恋の媚薬を作る為に大作戦を開始した。


続く

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