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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第九章「初恋」乙女編 西暦22年 7歳
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第九章「初恋」第百五十五話

サートゥルナーリア祭三日目。

頭に傷口一つ。


「へへへ、アグリッピナ様、その顔じゅうに巻かれた包帯、結構似合ってるよ。」

「もう!フェリックス。私は恥ずかしくて本当は取りたいの。」

「まぁー、しょうがないんじゃない?二三日は傷口がくっつくまででしょう?」

「はぁ~。これじゃ恋もできないじゃない。」

「それさ…毎回僕は聞いてるけど、アグリッピナ様は好きな人いるの?」


ドキッっとした。

いない事はないけど、その人は絶対にあり得ないから…。


「分かってるわよ、フェリックス。好きな人がいなければ恋もできないってことでしょう?」

「おお!学習したね。」

「お前は~、奴隷のくせに偉そうなんだよ。」

「だって、僕はアントニア様の奴隷であって、アグリッピナ様の奴隷じゃないもんね~。」

「こいつ!」


きっと他の人には信じられない光景だけど、私とフェリックスは昔から主人と奴隷という間柄を気にせず、ざっくばらんな会話をしていた。後に彼はユダヤ属州の皇帝代官まで上り詰めるのだけど、きっと彼の物怖じしない堂々とした性格があったからかもしれない。


「そういう生意気な事を言いたければ、あたしにサイコロ賭博で勝ってから言いなさい!」

「あ!」

「今夜やるわよ。あんた借金まだ残ってるんだから。」

「ゲッ!まだ覚えてるの?!」

「あったりまえでしょ?いくら私が怪我をしたからって、フェリックスの借金がチャラになるわけないでしょ。」

「やっぱりか…。」


私も確かにサイコロ賭博で儲けて調子に乗ってたかもしれないけど、普段の性格が怪我のせいで変わらない事も分かった。ただ、兄カリグラとはこれを機にますます仲が悪くなって、同時に兄カリグラ想いのドルシッラとも気まずい雰囲気になっていく。


「あ、ドルスス兄さん。」

「アグリッピナ、傷の方は大丈夫か?」

「ええ、すっかり。」

「しっかし、ガイウスの奴にはほとほと困ったな。一応兄ちゃんからも叱っておこうと思ったけど、お母様に止められてさ。」

「もういいですって、兄さん。それに今夜はネロお兄様がお戻りになられるんでしょ?」

「おお!そうだった。みんなで楽しくワイワイ騒ごう!」


しまった…。

高慢ちきのリヴィアもセットだった。あのアマは場の雰囲気読まないからな~。


「アグリッピナちゃん!」


あちゃー。

噂をすれば、この声は。

高慢ちきのリヴィア。ネロお兄様の"一応"奥様。今夜の準備の為に


「聞いたわよ!パッラスから。昨日、サイコロゲームで大損して、ムカついたから頭ぶつけて血を流したって。」

「はぁ?!」


あのさ…。

一体どういう解釈したらそんな風になるわけ?あたしが勝ってるのを認めたくない気持ちは分かるけど。


「アルテミス・ゲームでは仕方なくあんたに負けてあげたけど、サイコロ賭博では絶対にあんたなんかに負けないから!」

「そう、楽しみねリヴィア。あたしだって絶対にあんたなんかに、1アスだってあげないつもりだから。」

「まぁー!年下のクセに相変わらず言葉の使い方がなってないんだから、あんたって人は。私は一応あなたの義理のお姉さんになるんだけど。」

「それが何か?だからあんたは『一応』姉貴なんでしょう?」

「んもう!!ほんっと、アグリッピナってムカつく!覚えてらっしゃい!」


高慢ちきのリヴィアは怒ってスタスタ向こうへ行ってしまった。昨日、口は災いの元だってお母様に言われてたのに、懲りてないなあたし。


"顔は怪我していない?"

"はい…。"

"そう、良くなった。"


間近に見たお母様の横顔。決して目を合わせようと、お互いにしないのだけれど、それがとっても印象的だった。

私は絶対に怒られるって思ってのに、たった一言だけ、心配してくれたのかな?


「アグリッピナ姉さん?」

「うん?ドルシッラ?」

「ああ!ここにいたの?」

「どうした?」

「なんだかリヴィアさん、すっごくプンプンしてたけど、また何か言ったの?」

「ちょっとね。」

「姉さんって、本当に懲りない人だね。ガイウス兄さんだって、あのままじゃ可哀想じゃない。」


え?


「姉さんはそれで自分は満足かもしれないけど、それで周りの人がどれだけ傷付いてるか分かってるの?」

「ちょ、ちょっとドルシッラ。確かにあたしは兄さんを怒らすような事は言ったかもしれないけど、でも、怪我までさせたのはガイウス兄さんの方でしょう?傷付いたのは私の方よ!」

「違う!心を傷付けたのはアグリッピナ姉さん。姉さんの無頓着な言葉が心を傷付けるの!」


続く

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