第九章「初恋」第百五十二話
「ルールは簡単、こっちの赤い正四面体のサイコロと、もう一つの青い正六面体サイコロを同時に振ります。それで青いサイコロに書かれたローマ数字と、赤いサイコロに描かれたギリシャ文字を合わせて、その合計で勝負!」
多分、豚の骨か何かで作った指先程度のサイコロだと思う。意外に軽くてとても綺麗だった。
「ただし、アグリッピナ。こっちのギリシャ文字のサイコロの方は、αが25、βが15、θが10を表していて、出た数字と足せるけど、Ωが出た場合は30引くんだよ。」
「それじゃドルスス兄さん、仮に青いサイコロで6を出してもΩが出た場合は?」
「いきなり出して持ち点がない場合は、全部1になるんだ。」
「ひえ~!!」
するとパッラスが助け舟を出すように言葉を添えてきた。
「ただしアグリッピナ様、3とΩが出た場合には最高点の33を貰えるんです。」
「すごい!どうして3の場合だけ?」
「まぁ3は縁起がいいってことで...。」
「なるほど!」
「みんなで一回ずつ振って、三回りした合計数で最高得点を取った人が勝ちになります。」
さらにこのサイコロ賭博のルールは面白くて、賭け金は自由に選択できるが、自分の財産がなくなってゲームが続かない場合は、赤いサイコロを投げてαが出れば、みんなから借金する事ができるのだ。返済中に借主が借金をする羽目になった場合は、自分の財産は没収されてしまうそうだ。
「じゃ、みんなそれぞれ『財産』を出して。」
みんなそれぞれ硬貨を地面に投げて、手前に自分の財産を出した。さすがフェリックスは賭博士だけあって財産をいっぱい持ってる。私はおこずかい程度しかないから、チョロっとしか財産がない。
「アグリッピナ、自分で計算できなかったら、お兄ちゃんが代わりにやってあげるからな。」
「大丈夫、ちゃんと自分でできます!もう、ドルスス兄さんったら。」
「いっひひひ。」
するとフェリックスが器用に右手で二つのサイコロを指の間で動かしながら、人差し指で人数を数えながら順番を決めた。
「それじゃ、まずはアグリッピナ様から。」
「うわ、すっごく緊張するな。」
「あ、賭け金は先に決めないと。」
「はい、先ずはこんだけ。」
「おお!そんなにいっぱいいいの?」
「うん。」
「凄い強気だね~。じゃあサイコロ振って。」
私はフェリックスに手渡されたサイコロを二つ手の中にいれて、どうせなら乙女の気分でサイコロにキスをして、コロコロ転がしながらバァー!と振った。
「えっと3とΩだから…33!!」
「えええええ?!いきなりその数字?!」
「やったー!ドルスス兄さん、いきなり凄いの出ちゃった。」
「アグリッピナ、お前って凄い運がイイな~。」
「エッへへ~。パッラスもびっくりした?」
「ええ、もちろんですよ。」
フェリックスがそれでもニヤニヤしている。
「よーし、僕だって負けないぞ!そりゃあ!」
しかし、フェリックスが出した数字は6とΩ、つまり合計点は1。
「なぬううううう?!」
続いてパッラスがβと5を出して20、ドルスス兄さんがαと6を出して31だった。これをあとふた周りして合計点で勝負する。その間に勝負の行方や動向を気にしながら、財産から賭け金を増やしたり減らしたりできる。フェリックスは自分が勝てると思ってガンガン賭け金を増やしてきた。
「やったー!!!!!」
「凄いです、アグリッピナ様!」
「ジュリアちょう嬉しいよ!」
何と私は三回連続で3とΩを出して、合計点数が99点になった。もちろん振る前にサイコロへのキスは忘れなかった。
「だーーーーーー!負けた!」
「フェリックスって意外にアグリッピナよりも弱いのかもしれない。」
「ですね、ドルスス様。」
「クッソーーー!アグリッピナ様、もう一回!」
「イイわよ。」
何と次の勝負も三回連続で3とΩを出して全勝。フェリックスは前回掛けた掛けきを取り戻そうとし、大損した。
「えええ?!何で何回も3とΩを出せるんだ?」
「フェリックス、これってお前が作ったんだろ?」
「うん、おっかしーな。」
結局、この日の勝負はあたしが全勝で快勝。フェリックスの財産は借金の上に全て没収となった。
「フェリックスの奴は、賭博にのめり込むと周りが見えなくなるんだな。」
「うん、そうですね、ドルスス様。」
まるでフェリックスの将来を暗示するような出来事だった。
続く