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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百五十話

「うっひゃ、何だこれ?」

「アグリッピナ…様?」

「ぐでんぐでんに酔っ払ってるじゃんか。」

「フェリックス、アグリッピナ様が履いてるソックルを脱がせるんだ。」

「ういうい。」


私はつい勢い余ってリウィッラ叔母様と葡萄酒を飲み過ぎたらしい。足はフラフラ、胸は酔いでムカムカ、頭はガンガン。


「ったく、バッカス様みたいにアグリッピナ様はバカバカ葡萄酒なんて薄めず飲むからだよ。偉そうにしても、やっぱりまだまだ子供だね?パッラス兄さん。」


た、確かにそうだけど。

叔母様が無理矢理薄めず飲ませたようなもの。


「フェリックス、いくら酔っ払ってても俺たちの主人のお孫さんだ。口の利き方に気をつけろよ。」

「ちぇ、兄ちゃんはアグリッピナ様の事になると、途端に厳しくなるんだから。」


え?


「お前は先に行って、お兄様であるドルスス様を呼んでくるんだ。いいか?ウィプサニア様に見つからないように呼んでくるんだぞ。」

「あいよ~。」


フェリックスはどうやらスタコラサッサと先にドムスへお兄様を呼びに行ったらしい。


「アグリッピナ様、大丈夫ですか?」

「うっぐ…気持ち悪い。」

「仕方ありませんね。」


そう言うと、パッラスは私の背中を摩りながら、イキナリ口の中へ指を二本いれてきた。


「いやら!らりしゅるの?」

「鳥の羽が今は無いので、私がアグリッピナ様を吐かせますので、我慢してください。」

「うっげ!」


やだ…。

吐いちゃった。気持ち悪い。


「もう一回いきましょう。」

「もういい!」

「いけません。ウィプサニア様に見つかっても良いのですか?」

「…。」


うっげ!

もう吐ける物なんかないよ、パッラス。


「よく頑張りましたね?」


そう言うとパッラスは、そばの井戸で手を洗って、手拭いを水で濡らして、私の顔や口の周りを綺麗に拭いてくれた。


「せっかくお綺麗な顔立ちが、これじゃ台無しですよ、アグリッピナ様。」

「う、うっさいな~!パッラスは年上だからって、奴隷のくせに一言多いんだよ。」

「はいはい、すみませんでした。」

「ムカつく!」


私はつい、手でパッラスの顔を叩いてしまった。


「あ…。」


気がついた時には遅かったけど、でも、彼も動揺している。


「あ、あんたがいけないんだからね、パッラス!」

「分かってますって…。」

「な、何よ?その口の利き方。私があんた達兄弟の命を助けたの忘れたの?本当に感謝しているの?」


その時、アクィリアの存在を思い出した。多分、パッラスもだと思う。私は余計な事を言ってしまったと思い、つい、目をそらしてしまった。でもパッラスはジッと私の顔を見ている。私は何だかモヤモヤしたから、今度はちゃんとパッラスの頬を叩こうとした。


「あんたは素直なのが一番可愛いぜ。」


叩こうとした私の手は、パッラスにしっかりと握られ阻まれている。そして久しぶりの生意気な口の利き方。アクィリアが死んでから、絶対に私には無礼な口の利き方はしてこなかったパッラス。でも今夜は違った。彼は今でもアルカディア王の末裔である事を、誇りにして生きている。


「アグリッピナ様、あんたはアクィリアの葬式をするときに、涙が流れそうだった俺に対して、首を横に振って堪えるよう命じたではありませんか。高潔な血筋をつまらないプライドで汚しちゃ駄目だよ。」

「…。」

「いくら酔っ払ってても、ワガママになったらおしまいだ。」


パッラスなんかに説教された。

でも、悔しさよりも、なんだか申し訳ない気持ちが出てきてる。


「もう、終わった?手を離してよ…。」

「あ!すみませんでした、アグリッピナ様!」


なんだよ、普通に戻ってるじゃんか。

もう…。私は地面に落ちてる自分のソックルを拾ってパッラスに投げつけた。


「痛っ!何するんですか?」

「して…。」

「え?」

「してよ…。」

「何を?」


口を尖らせたまま、なかなかその先が言えなかった。恥ずかしくて恥ずかしくて。もう一足投げつけたが、今度はかわされた。


「もう!なんなんですか?!アグリッピナ様!」

「おんぶ!」

「え?」

「酔っ払って歩けないから、おんぶしてよ…。」


するとパッラスは私のソックルをちゃんと拾って、腰に手を置いてため息をついたけど、ニコッと微笑んで背中をこちらに見せてしゃがんだ。私は駆け寄ってパッラスの暖かい背中に抱きついた。ギュッと。


「これでいいですか?」

「うん…。」


別に落ちるわけじゃないのに。

ギュッとパッラスにしがみついて、その少し大きな背中に、自分の頬を寄せた。


続く




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