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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百四十九話

多分そう、きっとそう。

今でも私はお母様が大好き。でも、一緒に生活している母ウィプサニアでなく…。


大母后様リウィア様は、理解は概ね願望だって仰ってた。だから諦めなさいと。それもすごく分かる。でも、いつかお母様が、母ウィプサニアではないお母様が、戻ってきて欲しいと願っている。その為なら、私はお母様にお尻を叩かれても構わない。


「そっか…変わってしまったんじゃなくて、亡くなってしまったのか…。」

「はい。そう思わないと、私は苦しくて苦しくて…。でもね?叔母様。」

「うん?」

「そんな好きになれない母だけど、でもこの間ちょこっとだけ、素直になってくれたんです。母ウィプサニアは、本当は私とも離れ離れになりたくなかったって。わんわん泣きながら、アントニア様に叫んでいたんです。」

「そっか…。」

「私、それを聞かされた時、お母様もずっと我慢してたんだなって。私の事、嫌ってた訳じゃないんだって。」


リウィッラ叔母様は黙っている。

そして遠い目でなにかを思い起こしているようだった。


「そう考えると、私はまだまだ幸せかな。子供達も元気だし、ババアも元気だし、リヴィアはアグリッピナのお兄ちゃんネロと結婚したしね。」

「そういえば、ティベリとゲルマの双子は元気なんですか?」

「もう、元気なんてもんじゃないわよ。さっきまでよちよち始めてたと思ったら、もう立っちできるようになってちゃって。」

「あははは!」

「アグリッピナ、双子だけは産むのやめた方がいいわよ。私、死ぬかと思ったんだから。」

「ヘェ~。」

「それにガバガバになったら、女として恥ずかしいじゃない?」

「ガバガバ?」

「あ、いっけない。あんたには、まだまだ早い話だわね。」


叔母様は舌先をペロッと出して謝ってたけど、この頃の私はサッパリ意味が分かってなかった。フフフ、叔母様ったら。


「でも叔母様、私は恋がしたいんです!」

「おお、どーんとデカくきたね。」

「色んな人に聞いたんですが、恋すると胸はドキドキするって。でも、私、誰にもドキドキしないんです。」

「そりゃあ困ったな。大体アグリッピナは何で恋したいわけ?」

「え?」

「なんかキッカケがあったんでしょ?」

「えっと…。何だっけ?」


そういえば、私今年は恋する宣言したけど、何でそんな事わざわざしたんだろう?


「まだまだ成人するまで、後六、七年あるじゃない。それまでにゆっくり探せば。」

「そうなんですけど、でも私は多分母が勝手に結婚とか決めそうです。それは絶対に嫌なんです。」

「そうは言ってもね~。親戚同士の結びつき強くする為には仕方ないわよね。」

「でも、叔母様とドルスッス叔父様って、まるで恋でもしてるように仲がいいじゃないですか。それでもやっぱりお見合いだったのですか?」


すると、叔母様はすこし困った顔をしていた。


「ううん、私のは偶然。なんて言うのかな?結婚三年目のときに、ウィプサニアのお兄さんであるうちの旦那が、アルメニアで怪我してそのままポックリ逝っちゃったでしょ?私は何だか実感がなくて、ブラブラしてたらドルスッスがやってきたの。」

「ヘェ~。」

「あの頃は、みんな男どもは神君カエサルになるんだって、戦場で勝手に遊んでるばっかりだし。あたしそういうの好きじゃなかったから、ズケズケとドルスッスに男の文句ばっかり言ってやったの。そしたら『僕は適当にやってるよ、面倒くさいから。』だってさ。話したら本当にヘラヘラして陽気な人で、全然怒らないで謝ってばっかり。」


叔母様らしいなって思った。


「でも、ドルスッスが馬に乗った姿を見た時には心底格好良かった。ドルスッスの男らしさって、私の知らないところにあるんだって。それで、ビビビってきたのよ。」

「何ですか??そのビビビって?!」

「そうねぇ、何と言うか…。」

「何がきたんですか???」

「全身雷が落ちたように、『あ!この人は私を生涯大切にしてくれる』って。お腹で暖かさを感じたの。」


その時のリウィッラ叔母様は、ご自分の腹部を優しくて摩りながら見つめ、慎ましくもお淑やかな優しい顔は、今まで見た事ないくらい綺麗だった。


「それに身体も火照っちゃって、『こんな優しい人に毎晩抱かれたい!』って思ったの。あー恥ずかしい~。」


叔母様って可愛いなって思った。


「あーーーん!叔母様みたいにビビビってなりたいっ!」

「あはははは。」

「身体も火照ってみたい~!」

「ちょっと、今からじゃ早いだろう...。」

「でも、でもですよ、やっぱりそういう刺激がほしいんですぅ~。」

「アグリッピナはあれだ、結構自分から探しに行くタイプ見えて、実は物凄く奥手だったりね。」


えええ?!

どういう事?!奥手って?


「意外に素直になれなくて、相手に嫌がるような態度取ったりしてね。」

「えええええ?!」


でも、確かに分からない。


「まぁ、素直になる事よ。焦っても変な者掴まされたら、それこそ初恋が台無しになっちゃうわよ。」

「初恋??」

「そう。アグリッピナが初めて誰かに恋をすると、それは初恋になるのよ。」

「初恋って言うんですね?そうなんだ~。」


何だか頭の中がピンク色でぼんやりしてきた。お花のいい匂い。綺麗な大理石の神殿。うん?誰かがこっちに手を振ってる。やだ、何だかホワーンってしてきた。


「仕方ない、私が初恋の極意ってやつを教えてやるから、今日はアグリッピナもトコトン飲むか?」

「え?叔母様?私、まだまだ子供なんで、無理ですぅ~。」

「ウソつけ~。ジュリアと遊びに来た時、陰で隠れてあたしの葡萄酒のんでたクセに~。」


ギク!

やっぱり叔母様には暴露てたんだ。


続く


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