表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
148/300

第八章「暗雲」第百四十八話

めげない私。

そりゃ、矢面に立って戦ってるのは母ウィプサニアだけど、私だって自分の恋くらい、自分で見つけられるようにならないとね。


「さぁ、アグリッピナ様、参りましょう。」

「ええ、パッラス、フェリックス。」


私達は、リウィッラ叔母様のドムスへと出掛ける。とは言っても、そんなに遠くないし、どんなに歩いても昼前には着くかな?パッラスは私の後ろを警備し、フェリックスは…うーん。兄カリグラと同じ年で私より上なのに、両手を首に置いて遠足気分。奴隷のクセに昔からマイペースなんだよな~。


「フェリックス、最近なんか面白い賭け事見つかった?」

「シーーーーっ!」

「何でよ?」

「パッラス兄ちゃんに見つかると、最近うるさいんだ。」

「どうして?」

「『奴隷の身分は賭け事は、十二月のサートゥルナーリア祭以外は禁止されてるんだからな!』って。」

「パッラスっていつからそんなに頭硬くなったの?」

「知らない。でも、最近一生懸命勉強しているよ。ギリシャ語だって前より上達したし、計算なんか全部頭ん中でやっちゃうんだよ。」

「へぇー!」


私は顔だけ後ろを向いて、パッラスの横顔を眺めていた。そういえば、最近パッラスって前と雰囲気が変わってきた。前は手足がひょろひょろした痩身だったけど、肩や腕もがっちりしてきて、たくましくなってきたのかな?


「うん?どうしました?アグリッピナ様。」

「何でもない。」


ないない…。

さすがに奴隷とは、あり得ないわね。するとフェリックスが話しかけてきた。


「そういえば、サートゥルナーリア祭の時、アグリッピナ様は今年何やるの?」

「何やるって?」

「だって主人と奴隷が入れ替えするんだよ。」

「うっそう?!」

「ええ?!気付かなかったの?アントニア様、毎年料理を僕達に作ったり給仕やってくれてたじゃん。」


全然気付かなかった。

そんなルールがあるんだ。去年や一昨年はお父様のゴタゴタでそれどころじゃなかったし。そういえば、クラウディウス叔父様ん所の生意気な奴隷ナルキッススと初めて会った時に、パッラスが言われてたっけ?


「まぁ、アグリッピナ様は毎年偉そうな解放奴隷の役だから。」

「ええ?!ちょっと、誰が決めてたの?」

「さぁ?兄さんからじゃない?」


なんですって?

私はなんだかふくれてパッラスに振り向いて問いただした。


「パッラス、私はいつから偉そうな解放奴隷なのよ?」

「え?!」

「私そんなの嫌だから。」

「あの…一体何の話で?」


少しでも奴隷が良く見えた私が馬鹿だった。もう!しばらくパッラスとは口きいてやんないんだから。


「アグリッピナ?!」

「リウィッラ叔母様!」

「あーーーーーん!!!どおしたの?!今日は?」

「最近叔母様が元気無いってリヴィアから聞きましたので、お勧めの葡萄酒持ってきました。」

「バカ…。子供のクセに気を遣って。さぁさぁ上がって上がって。」


思ったより元気そうで良かった。

確かに叔母様と私って、リヴィアが言うようにハグレ者同士気が合うのかも。


「最近ジュリアちゃんは元気にしてるの?」

「ええ、ウェスタの巫女の館で一生懸命お手伝いさんやってますよ。」

「あの娘にとっては、それが精一杯の親に対する反抗なのかもね。」


そっか…。

ジュリアは私や叔母様とは別の階級に生きている。だからますます親のいいなりになる事が多いのかもしれない。その中で敢えて貞操を守る選択は、ある意味ハグレ者なのかも。


「そういえば!この間、ウィプサニアとやり合ったんだって?!」

「え?叔母様、何処でその話を。」

「ここら辺に住んでれば、あっという間に話は飛んでくるって。」

「あちゃー、お恥ずかしい。」


リウィッラ叔母様だけには恥ずかしくて知られたくなかったな…。


「よくやったよ!私はせいせいしたね。」

「へぇ?」

「うちのババアもさすがに堪忍袋の緒が切れたんでしょ?そりゃあそうよ!ウィプサニアがあんなに身勝手なことばっかりやってたらね。」


あははは…。

参ったな、叔母様はうちの母が好きじゃないんだ。


「あ、ごめん。私って嘘つけないから。正直、今のウィプサニアは私は好きじゃないの。まだ、ゲルマニクス兄さんが生きてた頃のウィプサニアは、本当に笑ってて、楽しくて、魅力的だったし。」


私もそれは同じかも。

あの頃のお母様は、本当に優しくて、心配性だけど、でも素直に楽しくて笑っていた。怒る時は怒るけど、でも素直な感情を曝け出してくれた。今みたいに、何を考えているのか分からないって事はなかったし。


「リウィッラ叔母様…。私ね、うちの母は…。あの頃の優しかった母は…。きっとお父様と一緒に亡くなってしまったんだと思います。」

「アグリッピナ…。」


続く




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ