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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百四十二話

蒼白く夜空に満月が朧げに浮かんでる。アトリウムの天窓から差し込む月光を浴びながら、今夜私とドルスス兄さんは、屈折した兄カリグラの妹達への異常な愛情を阻む為に立ち上がった。


「アグリッピナ、お前眠たくないか?」

「私は平気。ドルスス兄さんは?」

「へへへ、久々に緊張して鼻水が出てきそうだ。」

「あはは。」

「いいか?お前は窓から、僕は扉から一気に飛び込むんだぞ。」

「分かった、任せておいて。」


ピュー!

鳴った!リウィッラの助けの笛だ!

私と兄は駆け足でそれぞれの持ち場から、妹達のいる寝室目掛けて突っ込んだ。


「?!」


な、何これ?!


「おい!ガイウス!」


ウゲ!

ひ、酷い格好!


「ガイウス兄さん…?」


兄カリグラはアルテミスの真似をしている。それも口紅を付けて化粧なんかしちゃって、まるっきり不気味なオカマ。兄の腕で口を塞がれたドルシッラの衣服は乱れて半裸状態。隣のリウィッラは、笛を吹いた事によりやっぱりつねられていた。それでも、目を閉じて震えて耐えている。


「ガイウス!!!!!!!」


ドルスス兄さんは怒髪天を衝く勢いで、大声で叫んで兄のカリグラを両腕を振り回して殴り付けた。顔面の肉と硬い拳がぶつかり合い、次第に兄のカリグラの顔からよだれと鼻血が吹き荒れてきた。


「ドルシッラ?!大丈夫?」

「あわっわあああ…。」


彼女は乱れた服を必死に直して、自分の肌を見せないようにした。


「リウィッラ?!」

「アグリッピナお姉ちゃん!」

「こっちおいで!」


私は二人の妹達をしっかり抱きしめた。その激しいドルスス兄さんの怒り声に、さすが奴隷のパッラスやアントニア様、そしてウィプサニアお母様も起きて来た。


「何事ですか?!」

「ド、ドルスス様?!」

「パッラス!ドルススを止めなさい!」

「はい、アントニア様!」


奴隷のパッラスはアントニア様の指示に従って、兄カリグラを殴りつけてるドルスス兄さんを必死に止めようとしている。アントニア様は、ドルスス兄さんに殴られて失神している兄カリグラの姿を見て驚いてる。


「ドルスス!今すぐやめなさい!!」


母ウィプサニアは私の姿を見るなり、途轍もない剣幕でド叱りつける。


「アグリッピナ!あなたが仕掛けた仕業なの?!」

「違います!お母様!」

「嘘おっしゃい!日頃からあなたはガイウスと仲が悪かったじゃないですか!ドルススを使って仕返しだなんて、なんて卑怯な手を使うの?!」

「違います聞いてください!お母様!ガイウス兄さんは、満月の夜になるとアルテミスの女装をして、妹達に悪戯をしているんです!」


妹達は私の腕の中で怯えて泣いている。ようやくパッラスに引き離された兄カリグラは、母ウィプサニアの過保護な腕の中に救われ、言い訳をしながら泣きついた。


「お母様ー!ご、誤解なんです!僕はただ!兄として妹達の笑顔を取り戻したくて!笑かす為にやっただけです!」

「ああ、可哀想なガイウス。きっと貴方の言うとおりだったのでしょう?見なさいアグリッピナ!やっぱり誤解じゃないですか!」


ところが怒ったのはドルスス兄さんだった。


「お母様はどうして?アグリッピナの言う事を聞いてやらないんです?!毎日まともに目も合わせないで、いつもアグリッピナを除け者扱いじゃないですか!?今回だって、アグリッピナが教えてくれなければ、ドルシッラとリウィッラは強姦されていたのかもしれないのですよ!」

「な、何を貴方は馬鹿な事を言ってるのです、ドルスス!気でも狂ったのですか?!この子達は兄妹よ!!そんな事あるわけないでしょ!」

「お母様!」

「ドルスス!貴方は次男だから、先に結婚して成人を迎え住居を構えた長男のネロと、お父様の部隊に勝利祈願のマスコットとしてカリグラと呼ばれた三男のガイウスに嫉妬してるだけなのです!二人に挟まれた自分の存在が、影のように薄くなるからそれを暴力で訴えるなんて!ローマの男がやる事ですか!?」


それでも私はお母様に対抗した。


「お母様!どうしてそうやって偏見の目で私達を見るのですか?!ドルスス兄さんは一度だってそんな風に思ったことないですよ!」

「アグリッピナ!口を慎みなさい!大体、貴女は自分の母親めがけて、何て生意気な事を口走っているのか、分かってるのですか?!」


それでも私達はお母様に反抗した。

今日ばっかりは今までの様に言い包められたり、逃げたりする事はもうできないから!アントニア様は目を閉じて静観されている。


「お母様!」

「ドルスス!貴方はガイウスが癲癇があるのを忘れた訳では無いでしょうね?!」

「忘れてません!」

「お母様!もしガイウス兄さんの言う通りなら、どうしてこの二人は笑わず怯えているんですか?!お母様は自分の事で忙しいから知らないでしょうけど、リウィッラの背中の傷を見た事ありますか?!」

「何を馬鹿の事を言ってるの!!忙しいのは貴方達の事を思ってやっているのよ!それを何で子供のあんたに!非難されなきゃいけないの?!」


身体中を突き抜ける様な怒り。

どうしても!母ウィプサニアには言いたい事があった。


「どうしてそうやって!いつも真実から目を背けるんですか?!」


何かを抉られ驚愕した母。

だが、同時に今まで鬱積していた悪感情が、一気に眉間にシワを寄せる怒りの形相へと変化する。


「子供のあんたに何がわかるのよ!!!」


続く

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