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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百四十話

「ええ?!ドルシッラが?!」

「シーーーっ!ドルスス兄さん!声が大きいって。」


ドルススお兄様は頭をペコペコ下げて謝った。私はお兄様に、昨日リウィッラの背中に見つけた傷跡の事で、相談を乗って貰っていた。


「しかし、いくらなんでもそれはないだろう?まさかドルシッラがリウィッラを虐待しているなんて…。あいつ、いつも優しく世話してるじゃないか。」

「ふん、私とは違ってでしょ?」

「そうスネルなって。アグリッピナはちゃんと長女らしく末妹を活発に世話してるじゃんか。」

「フフフ、ありがとうお兄様!」

「あはは。」


あ!いっけない。

自分の事を褒められてのぼせてる場合じゃなかった。


「でも、確かに背中に三箇所、何かでつねられたような赤い斑点があったの。」

「うーん、でもそれが必ずしもドルシッラがやったとは限らないだろう?」

「きっとそう。私だってドルシッラがそんな事するなんて信じたくないけど、ドルシッラの話をした途端にリウィッラの顔が蒼くなって、氷山にふれたみたいにガタガタ震えてたんだから。」


ドルススお兄様は感慨深く色々な事を推敲されている。


「ガイウス…。あいつがお前にドルシッラの本音を聞き出せって頼んだんだな?」

「ええ。ガイウス兄さんなんか、言う事聞かなかったら私の耳を引っ張るだけすまないぞ!って脅すんだから。」

「そっか、分かった。」


ドルススお兄様はポーンと膝を叩いて立ち上がった。


「兄としては疑いたくないが、そこまでお前が言うなら一度調べてみよう。」

「どうやって?」

「今日からリウィッラとドルシッラの二人だけで寝かせるんだよ。お前は、お兄ちゃんところに来い。」


…。


「ドルスス兄さん…。私に変な事しない…?」

「バカ!お前は何一丁前の女みたいな事ぬかしてるんだ?!兄妹でそんな事あるわけないだろ?」

「だって、お兄さんから恋の話とか浮いた話聞かないから…。」

「アグリッピナ…。お前はすぐにそうやって恋の話に結びつける。恋してない人を獣みたいに扱うなよ。」

「エッへへへ…。」

「誰も一緒に寝ようなんて言ってないからな?いいか、夜までずっとお兄ちゃんとお前で起きてて、ドルシッラがリウィッラに何かやってないか見張るんだよ。」

「あったまいい!そっか。」


さすがドルススお兄様。

シミュレーションだけは本当に得意。後はそれとなくリウィッラから、傷の事を聞き出せるかが問題。でも、いつも元気で生意気盛りなリウィッラだけに、重たい話にはなかなか持っていけなかった。ドルシッラはリウィッラを過保護の様にあれこれ躾をしているし。ここは一つ、カリグラ兄さんの真似じゃないけど、長女っていう身分を振りかざして威張ってみるか。


「リウィッラ、あんたちょっとこっちおいで!」


案の定、リウィッラの後ろには心配そうなドルシッラが着いてきた。


「アグリッピナお姉ちゃん、何?」

「いいから、ちょっとおいで。」

「アグリッピナ姉さん!リウィッラに木登りやらしちゃダメだからね!」

「ドルシッラ、分かってるって。」


それでも金魚のふんみたいについてくるドルシッラ。


「アグリッピナ姉さん!リウィッラは色々とやる事あるんだから、あんまり連れ回さないでね!」

「分かってるって!うっさいなーお前は。」

「もう!姉さん、そうやって言葉遣い悪くなるんだから~。」


私は両目を瞑ってペロッと舌を出した。ドルシッラは口を膨らましてプンプン。私は後ろ手の腰元で両手を組んでスキップ。リウィッラもそれを真似しようと一生懸命だった。


「お姉ちゃん、全然出来ないよ~。」

「片足あげたら直ぐにジャンプするの、やってごらん。」


たははは、まだまだリウィッラは出来ないか。


「ダメ!片足上げたら、地面に足がついちゃうよ。」

「リズミカルにジャンプするの~。」


するとリウィッラは身体を左右に揺らしながらも、少しずつ上達していった。


「おおお!お姉ちゃん!お姉ちゃん!できたよできたー!」

「だ~ろー!あんたは私に似てるからすぐできるって。」

「やった!」


本当にリウィッラは覚えるのが早い。さてと準備は整ったかな?後はドルシッラに禁止されてた木登りをするだけっと。私はひょいひょいっと手前にあった木に登った。


「あっ!アグリッピナお姉ちゃん…。」

「何?」

「まずいって。」

「イイからあんたも上がってきなって。」

「ドルシッラお姉ちゃんに怒られるって…。」

「そう?」


風になびく木陰の中で、葉っぱを一枚ちぎって笛を作ってピューピューって自慢気に吹いてみせた。


「わぁ~!お姉ちゃんすごい…。」

「ほら、上がっておいで。あんたにも教えてあげるから。」

「うん!」


私はリウィッラに手を伸ばした。

それは同時に、孤独を一人で抱えるドルシッラにも手を伸ばせればと、心の中で強く願っていたのだった。


続く

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