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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百三十八話

一ヶ月後。

ドルスッスの見事な手腕により、公共事業における馴れ合い体質の改善はスムーズに行われ、事業自体もペースを上げて再開された。着服していた国家公務員と事業者は当然罰せられ、下請け業者も切り捨てられていった。


「お疲れ様でした、ドルスッス様。」

「いえいえ、ありがとうございます、クラウディウスさん。」

「これでようやくローマにも、正常な事業が行われる事でしょう。」

「確かにそうですけどね、ゴホッゴホ。」


ドルスッスはまるで喉を枯らしているような、何かが詰まったよな咳をしていた。


「大丈夫…ですか?」

「あはは…大丈夫ですよ。しかし、ティベリス河は思ったよりも汚ない河です。あのキメラでは泥水を真面に被りましたからね、二三日健康を害しました。」

「それはそれは!」

「でも、最近はうちの家内が心配そうに看病をしてくれて、助かっていますよ。」

「リウィッラ姉さんが?ですか?」

「ええ。健康回復に効く特効薬など見つけてくれたので、以前よりも夫婦円満ですよ。」


ドルスッスの表情からは、確かに幸せそうな空気が溢れていた。だが、クラウディウスは二つの気掛かりがあった。一つは姉リウィッラの事。彼女はいくら愛する家族の為とはいえ、付き添って看病をするなんて事は、今まで聞いた事は無かった。むしろ、病気になれば医者を呼んで任せて、自分の安心を確実なものにする性格であったので。もう一つは、ドルスッス様の顔色が以前よりも芳しくない事。頬は少しこけている感じがする。考えすぎかもしれないが、激務の中で少しやつれたと思えば良いのだが、今までそんなことは一度も無かった。ドルスッス様は適度に休みを入れるお方なので。


「さて、セイヤヌスの勢力をトドメをさすためにも、頑張らなければ。」

「ドルスッス様、あまり無理をなさらずにお願い致します。」

「あははは。大丈夫ですよ、クラウディウスさん。」

「いいえ、今回の事で、その背景がセイヤヌスにしろ、そうで無かったにしろ、とてつもないバックがあった事は確かです。つまり、密教トゥクルカは単なる隠れ蓑であって、あらゆる階級に彼らのような国家の王政復古を願う者が存在しているという事です。それは即ちドルスッス様の身に、いつ危険が来てもおかしくない事態を引き起こす可能性がある事です。」

「え?僕がですか?」

「ええ。ドルスッス様は以前、私の兄にこう仰られてたではありませんか『ゲルマニクス、お前は何をしてもこのローマでは目立つ男なのだ。』っと。」


ドルスッスの表情は、少し険しくなっていた。


「今はこの僕がゲルマニクスの立場だと?」

「ええ…。私は預言者でもなければ、鳥占い師でもありません。未来の事は何も書かれていないパピルスであるとおもっています。しかし、過去の歴史から多くの人間が学ぶ事ができるとすれば、それはバランスだと思います。」

「バランス?」

「あらゆる歴史の中で、光と闇、そのバランスが崩れた時、不思議なリズムと共に繰り返される事があります。ドルスッス様、あなた様は十分に目立つ存在になって、敵勢力に目を付けられている事は確かでございましょう。」

「ゴホッゴホ。」

「ドルスッス様…。」

「少なくとも、公然では咳をしないように気をつけなければ、ね。」


ドルスッス様の明るい笑顔は、私の心配を覆そうとするものだった。だが、その御心こそが、敵に隙を与えてしまう要因でもあったかもしれない。


「とにかく、今回をきっかけにこれからもクラウディウスさんとは調査をしていきたいと思っています。貴方には、貴方にしかできない、独特な物事の見方がある事が分かりましたので。」

「そうでしょうか?」

「ゴホッゴホ、ええ。ひょっとしたら、人々が安心して暮らせる様になるには、華やかな指導者ではなく、クラウディウスさんのような見方を持った方なのかもしれませんね。」

「なので…しょうか?」

「ええ…。少なくとも私を含めて、名誉だの派閥などの勢力で争っているうちは、ローマ市民の意向などが介在していない証拠でしょう?」


運命は時として、悲劇の主人公に未来を語らせることが多い。ドルスッスの何気ない一言は、十分に的を得ている指摘であった。結局、クラウディウスとドルスッスが再び、今回の様に相棒となって事件を追求することは、これより先には一度も無かった。


「では、クラウディウスさん。」

「ではまた、ドルスッス様。」


一つ敢えて挙げるとすれば、二年後のドルスッス亡き後。クラウディウスは独自の見解からドルスッス暗殺説を誰よりも確信していた。志半ばに倒れたドルスッスの無念を晴らす為に、クラウディウスはたった一人で8年もの歳月をかけ、単独で暗殺説を立証すべく健気にも調査し続けていたのであった。


続く

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