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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百三十五話

トゥクルカ Tuchulcha

エトルリアに伝わる地下世界の悪魔。

両腕に蛇を巻き付けた姿で表される。

鼻はハゲワシの嘴、髪の毛は蛇、驢馬の耳、そして翼を持つ魔神。しかし、身体は人間と同じ作りになっており、男性衣服のトーガに似た物を着用している。


「トゥクルカは、キメラの死の際に、その魂を土の中で葬り去った事により、誕生したとも言われています。すなわち、この説が正しければ、キメラの死がなければ、トゥクルカも誕生しなかったという事になります。」

「クラウディウスさん、しかし、この円紋章に刻まれている文字は、エトルリア語のアナグラムで描かれた『ルクモ』、エトルリアで政治的な地位のある人物、つまりプリスクス王の事を指すと言ってましたよね?」

「はい。」

「では、トゥクルカは一体何の存在であるのでしょうか?」


クラウディウスは笑みを少し浮かべながら、人差し指を突き出して答える。


「ドルスッス様、キメラがプリスクス王、地下世界の悪魔トゥクルカが先ほど申し上げた、タルクィニア出身のエトルリア人のある一族を表していたらどうでしょうか?」

「?!」

「その一族はサビニ系列のローマ人の名門クラウディウス氏族から、ローマ国家と権威の奪還を目論んでいる。自分等の誇り高きエトルリア人初のローマ王プリスクスを崇めながら、ユダヤ人並みの結束力を持っている。」

「ユダヤ人並の結束力?!といえば…?!」

「そうです!ここに歴史の闇に隠された最後の謎があります。つまり、キメラとはダミーの下請け業者であり、ローマ国家の奪還を目論む一部のエトルリア人が結束した、密教『トゥクルカ』です。」


密教…。

クラウディウスがなぜ空き部屋を開放したのかが理解した。現在ローマ国家が把握している密教でも、その数は二桁を軽く超えている。だが、ローマ国家が密教に対して強制捜査に乗り出す事には実は消極的であった。現実的に言っても、余りにも膨大な費用と労力、更には追い込まれた密教の信者による危険な行為が考えられたからだ。


「しかし問題なのは、その目的がどうであれ、なぜ公共事業の下請け業者などに彼らが忍び込んだのでしょうか?」

「やはり、資金調達の為でしょうか?ドルスッス様。」

「いや、クラウディウスさん。それだけの為ならば、いくら末端とはいえ国家と関わりの近い公共事業に近付くにはリスクが大きすぎます。」

「確かにそうですね…。」


二人は暫く考えていた。


「もう一度、キメラに行ってみますか?クラウディウスさん。」

「カリガの足跡があったのも気になります。」

「公的に調査をすれば、彼らはきっと踏み込む前に逃げてしまうでしょう。そこで私の部隊に属する男達を連れていきます。彼らなら必ず我々の護衛にあたってくれます。」

「ありがたい。できる事ならサビニ系列のローマ兵である事を願いたいですね。」

「フフフ、勿論です。」


ドルスッスはしっかりと頷いて、笑顔でクラウディウスに答えた。


「では、明日の明け方にでも…。」

「ええ、そうしましょう。」


翌朝。

ローマ市内北東に位置する「キメラ」へ、クラウディウスとドルスッス、そして彼の部下であるサビニ系ローマ兵を四人の計六人で訪れた。四人のローマ兵達は、近くの貧民街であるスラブの脇道を固め、クラウディウスとドルスッスは正面から再び入って行く事にした。


「やはり無人ですね。」

「ドルスッス様、これを!」


クラウディウスは、以前床に残されていた足跡が、人為的に消されていた事を発見する。


「敵も我々の存在に気が付いている。そう思っても、間違いはありませんね?クラウディウスさん。」

「ええ。しかし、円紋章やエトルリア語のアナグラムが未だに存在している所を見ると、密教が依然として行われている可能性は否定できませんね。」

「そういえば、以前に我々がここへ来た時に、向こうの奥の方で何かの物音が聞こえませんでしたか?」

「ええ、そうでしたねドルスッス様。」

「裏口は私の部下達が目を光らせていますので、何かあれば、すぐに駆けつけるでしょう。」


二人はゆっくりと奥の部屋へと進んでいく。床の地面は更にヌメヌメとしている。目に前には一つの大きな棺と、横には二体の偶像が飾られていた。


「クラウディウスさん、これは!」

「右はキメラ、左はトゥクルカ。間違いないですね。」


ドルスッスはまじまじと二体の偶像を眺めながら、棺を調べているクラウディウスの元へ近寄った。


「どうですか?」

「この棺にはトゥクルカの円紋章が刻まれています。」

「クラウディウスさん、私は思うんですが、この間の物音は、この棺から発せられた物ではないでしょうか?」

「開けてみますか?ドルスッス様。」

「はい。」


ドルスッスはしっかりと短刀を握りしめ、地面を両足で踏ん張って構えている。クラウディウスはゆっくりと棺の蓋をずらし始ると、木材のきしむような音と共に中の様子が垣間見えてきた。


「こ、これは?!」

「階段?!」


なんと、棺でカモフラージュされた、地下へ続く階段であった。


続く



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