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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百三十四話

ドルスッスは見事な手腕で順調に、国家公務員と事業会社による馴れ合いの不正を摘発していく。次々と事業費搾取の隠蔽工作が明るみになっていく中で、下請け業者「キメラ」に関わる関連業者の記録が抹消されている事が判明。影で糸を引く何者かの手に寄って、その実態が次々と有耶無耶にされていった。


クラウディウスの歴史研究室とは別のインスラに、ちょっとした空き部屋を所有していた。ドルスッスと落ち合う為に、クラウディウスはわざわざ、その空き部屋を開放した。


「ドルスッス様、日々不正に対する告発、お見事なまでの手腕です。」

「ありがとうクラウディウスさん。しかし、実際にはあと一歩の所で、いつもスルリと逃げられてしまいます。」

「『キメラ』に…ですか?」

「ええ…。」


ドルスッスは肩をすくめて現状を話した。


「告発側としては、相手には悟られないように、リストに他の下請け業者と共に載せてます。しかし、クラウディウスさんと共に調べてきた情報源は一切公表していないのにも関わらず、一歩手前で関連業者の記録は抹消されており、着服していた発注元も受注者も、末端の下請け業者の話になると、現状を把握してないようです。」

「敵も手強いですな…。もし影で糸を引く何者かがいるとすれば、かなり物事を慎重に進めている人物かと。」

「そうなると浮かび上がってくる人物は…。」

「トカゲのセイヤヌス、ただ一人ですかね?」

「ええ…トカゲだけに尻尾切りも早いですけどね。」

「なるほど。」


ドルスッスは椅子に腰掛けて、クラウディウスの調査結果を確認したがっている。


「所で、クラウディウスさんの方は如何ですか?その後、何か分かりましたか?」

「ひょっとしたらドルスッス様、今回の事象は、消えることのない憎しみの連鎖がもたらしたものではないかと?」

「憎しみの連鎖?」

「ええ…。これを見てください。」


クラウディウスは、エトルリアに関する独自で調査した結果を几帳面にパピルスへ残していた。それらの巻物を順々にドルスッスへ見せていく。


「『タルクィニアの乱』…?」

「歴史の闇に隠された一つです。以前にお話ししましたが、現在から108年前に執行されたユーリウス法によるローマ人同化政策の中で、タルクィニウア出身エトルリア人のある一族だけが反発をしました。」

「反発?そんな事があったのですか?」

「ええ、とても小規模でしたけどね。」

「ちょっと待ってください、タルクィニア出身のエトルリア人で有名な人物といえば、ただ一人…。」

「そう、ローマ王政期五代目王のタルクィニウス・プリスクスです。そしてその反発した一族は、ローマ人同化政策の代替えとして、集団的自衛権の権利を有する事を要求し、それが却下されるとローマ人へ襲っていったというのです。」

「それが…憎しみの連鎖?」

「ご存知ですか?ドルスッス様。五代目王プリスクスは、サビニ系のローマ人から斧で暗殺された事を。」

「暗殺されたのは知っていたが、サビニ系のローマ人とは知らなかった。」

「それだけではありません。エトルリア系列のローマ王は後の六代目トゥッリウス、七代目スペルブスと続きますが、ついには共和政となったローマから追放されています。」

「まさか?!」

「そのまさかです。共和政ローマで名門と駆け上ったサビニ系列のローマ人氏族といえば?」

「我が一族の…クラウディウス氏族!」


ドルスッスは落雷に撃たれたように、驚愕の事実に困惑していた。


「『タルクィニアの乱』での、彼らの結束力はユダヤ人もしのぐ強さで、その集団行動は同じエトルリア人同士の中でも、一種の奇妙さを帯びていたそうです。結局は、その一族の殆どが逮捕されましたがね…。」

「では下請け業者の『キメラ』は、そのタルクィニア出身のエトルリア人一族であると?」


すると、クラウディウスは椅子より立ち上がって、「キメラ」の壁に書かれた言葉を引用する。


「"我ら、一羽の鷲が主の帽子を持ち去り、その鷲が再び帽子を主に返す事を待つ"。つまり、"我ら"とは"タルクィニア出身のエトルリア人"。"鷲"とはまさしく"ローマ国家"。そして帽子が"ローマの最高権威"を表し、その主こそ、"エトルリア"そのものだとしたら、どうですか?」

「なるほど…。つまりサビニ系ローマ人、すなわちクラウディウス氏族からのローマ国家の奪還。これは十分に国家反逆罪ですね。彼らがその意思をエトルリア語のアナグラムで隠したのも頷けますね。」

「そして、この円紋章にこそ、歴史の闇に隠されたもう一つの謎が隠されていたのです。」


ドルスッスは「キメラ」に掲げられていた円紋章をまじまじと眺めた。


「ハゲワシ、蛇、驢馬に翼。これが何か?」

「スペルに違いはあれど、この円紋章にはキメラと書かれていますが、キメラを表すライオンの頭、山羊の胴体が描かれておりません。共通点は蛇だけでしょうか?」

「確かに。」

「しかし、調べていくうちに古代エトルリア神話に出てくるある者に辿り着きました。その者は、キメラを神として崇拝する側面もあったようです。」

「それは?」

「鼻はハゲワシの嘴、髪の毛は蛇、驢馬の耳を持ち、時折、両腕に蛇を巻き付けた姿で表され、そして大きな翼を背中に持つ魔神…。」


クラウディウスさらに熱っぽく巻物を広げ、その者の姿が描かれた箇所をドルスッスに見せる。


「その者こそ、エトルリアに伝わる地下世界の悪魔トゥクルカです。」


続く


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