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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第八章「暗雲」乙女編 西暦22年 7歳
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第八章「暗雲」第百三十二話

ウェスタ神殿横のレギア・ドムスで起きた火災から二ヶ月後、今度は神君カエサルが暗殺されたポンペイウス劇場から火の手が上がった。だが、その鎮火に命がけに取り組んだ男こそ親衛隊長のセイヤヌス。この事で皇帝ティベリウスの更なる信頼を強固のものにする。


「恐れながら皇帝陛下…。今までは大隊単位でローマ市内に三ヶ所、郊外に六ヶ所と、親衛隊は分かれて駐屯しておりました。しかし、それでは今回の様な火災や、前回の火災時の時にも、迅速な活動を行う障壁となってしまいます。ここは合理的に一ヶ所に集中させてみては如何でしょうか?」

「ふむ…。」

「その為には、まず親衛隊兵舎カストラ・プラエトリアをローマ市の北東に建設する事が急務かと。」

「なるほど。元老院の承認後、すぐに行動に起こしなさい。」

「承知いたしました。」


これは同時に、セイヤヌス自身の掌握していた親衛隊の勢力と威信を高める事を象徴していた。そして、ますます権力争いは複雑かつ異様な形相を見せ始める。クラウディウス叔父様が残した記録書を元に、簡単に当時のローマ皇族における派閥をまとめてみる事にした。


先ずは皇帝ティベリウスを中心とした「クラウディウス氏族皇帝支持派皇族」。その中には名目上実子のドルスッス叔父様はもちろん、セイヤヌスも腹心として入っている。


次は大母后リウィア様を中心とした「クラウディウス氏族大母后支持派皇族」ここには名目上アントニア様も入っている。どうやらレギアの消化活動を率先して指揮した事が、皇帝支持派との反目という結果を生み出してしまったらしい。


そして最後が、母ウィプサニアを中心とした「ユリウス氏族共和制支持派貴族」。義理の母である立場上アントニア様も協力され、勿論、ドルスッス叔父様も考えではこちらの方になっている。しかし、お母様には決して共和制復興の意図は無く、真のユリウス氏族への帝位奪還が目的。


共和制復興支持派としては、皇帝や母后支持派に対抗すべき勢力として、お母様に集ったローマ市民からの同情や父ゲルマニクス神話にあやかっており、互いの利害関係が一致してる事で、お母様と元老院貴族とで結託されていた。


さて、この頃のクラウディウス叔父様は、頻繁にドルスッス叔父様とお会いされていた。セイヤヌスを中心とした貴族出身以外の拡大する勢力の牽制について、毎晩遅くまで考察されていたようだった。おかげで、クラウディウス叔父様も後に偶発的に皇帝へ帝位された時に、ドルスッス叔父様と過ごされた貴重な時間は役に立ったと語ってらした。


「公共事業費の一部見直し?」

「はい、クラウディウスさん。元老院議員と父からは、膨張している公共事業費の見直しを再度する様に言われたのです。」

「確かに最近の公共事業は、以前に比べて長期に渡るものが多いですね。」

「ええ。彼らがのんびりやっているのであれば、特に問題はないのでしょうけど、問題なのは一人当たりの人件費のコストが、驚くほど高騰している事なんです。見てください、この資料を。」


クラウディウスは、ドルスッスの持ち込んだ資料を眺めている。特に前年比に比べて、作業員の増加は横ばいなのにも関わらず、一人当たりの人件費のコストが二倍以上に膨れ上がっていた。


「これは余りにもずさんな数値ですが、請負業者がこの様な記録を、記録の改ざんなどがされず、正々堂々と報告する方がおかしいですな。」

「いえ、これはあくまでも我々が一つの請負業者を独自に調査した結果なんです。実際の報告では人員は水増しされて報告されていました。さらに、この下には請負業者の存在も否定できないようです。」

「なるほど。下請け業者を増加させて、作業員のコストを下げつつ、納期の延長。これは完全に公共事業費が連中に途中で喰われていますね。」

「まさに仰る通りなんです、クラウディウスさん。」


クラウディウスは立ち上がり、顎に手を置いて何度か擦った後に疑問をドルスッスにぶつけた。


「しかし…。これはドルスッス様ご自身が、馴れ合いの生じている発注元の国家公務員と、受注する側の私営会社であるソティエタスの両者ともを告訴されれば良い事なのでは?」

「勿論です。引き続き不正を摘発すべく調査を続けますが、今日、ここへやって来てのは、実はここの下請け業者の詳細を、歴史研究家としての観点から調査して欲しいからです。」

「歴史研究家としての…観点から?」

「ええ…。クラウディウスさんはこの紋章に見覚えが有りますか?」


それは掌くらいの大きさのパピルスに、ハゲワシ、蛇、驢馬、そして何かの翼が描かれた珍しい円紋章であった。下にはキメラと書かれている。


「キメラ…。うーん、見たこと有りませんね。」

「しかし、あのギリシャ神話に出てくるキマエラ、つまりキメラとは違うのです。ほら、ここの最後がRではなくLになっているでしょう。」

「うむ、本当ですね。」

「ええ…。ですから、クラウディウスさんに見てもらえれば何か分かるかと…。」

「うん?ちょっと待ってください、ドルスッス様。これをそのまま読むのではなく…並び替えをすれば。」


クラウディウスは、蝋板とスタイラスを取り出した。


「なんですか?それ。」

「これは蝋板と言って、薄い木の板にワックスを塗った筆記用具です。ここにスタイラスで刻む様に文字を書いても、何度も使えるわけです。」

「へぇーすごいですね。」

「さて、並び替えてみると…。」

「どうしました?」

「Lauchme…。エトルリア語ですな。我々の語ではLucumo…。」

「ルクモ。どういった意味なんですか?」

「エトルリアの政治的な地位のある人物を指す言葉です。王政ローマの第五代王タルクィニウス・プリスクスが『ルクモ』と呼ばれていました。」

「では、この円紋章と古典王プリスクスが何か関係あるかと?」

「いいえ、全く関係ありません。既にプリスクス王はエトルリアからローマへ移住されて王になっておりましたし。」

「やはり、クラウディウスさんに相談してよかった。」

「え?」

「この下請け業者がエトルリア系列である証拠さえ掴めれば、私達は六割勝ったようなものです。」

「まさか…?」

「ええ、そのまさかです。後はこの下請けソティエタスのバックに、セイヤヌスの尻尾さえ掴めれば良いのです。」


だが、これをきっかけにドルスッスは、大いなるセイヤヌスの政治的な陰謀に巻き込まれてしまうのであった。


続く

【ユリウス家】


<ユリア・アグリッピナ(15年-59年)>

主人公。後の暴君皇帝ネロの母。


<ゲルマニクス(紀元前15年-19年)年の差+30歳年上>

アグリッピナの父


<ウィプサニア(紀元前14年-33年)年の差+29歳年上>

アグリッピナの母 


<長男ネロ(6年-31年)年の差+9歳年上>

アグリッピナから見て、一番上の兄


<次男ドルスス(7年-33年)年の差+8歳年上>

アグリッピナから見て、二番目の兄


<三男ガイウス=カリグラ(12年-41年)年の差+3歳年上>

アグリッピナから見て、三番目の兄


<次女ドルシッラ(16年-38年)年の差-1歳年下>

アグリッピナから見て、一番目の妹


<三女リウィッラ(18年-42年)年の差-3歳年下>

アグリッピナから見て、二番目の妹


【アントニウス家系 父方】


<アントニア(紀元前36年-37年)年の差+51歳年上>

アグリッピナから見て、父方の祖母


<リウィッラ・ユリア(紀元前13年-31年)年の差+28歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔母


<クラウディウス(紀元前10年-54年)年の差+25歳年上>

アグリッピナから見て、父方の叔父


【アントニウス家系の解放奴隷、使用人および奴隷】


<ナルキッスス(1年-54年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<パッラス(1年-63年)年の差+14歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<フェリックス(12年-62年)年の差+3歳年上>

父方の祖母アントニア及びクラウディウスの解放奴隷


<アクィリア(17年-19年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<シッラ(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<リッラ(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<クッルス(紀元前15年-59年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セリウス(紀元前15年-60年)年の差+30歳年上>

父ゲルマニクスの親友


<セルテス(紀元前12年-63年)年の差+27歳年上>

父方の祖母アントニアの解放奴隷


<ぺロ(17年-30年)年の差-2歳年下>

父方の祖母アントニアの飼い犬


【クラウディウス氏族】


<リウィア大母后(紀元前58年-29年)年の差+73歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の母親。初代皇帝アウグストゥスの後妻


<ティベリウス皇帝(紀元前42年-37年)年の差+57歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟。初代皇帝アウグストゥスの養子、リウィア大母后の長男


<ドルスッス(紀元前14年-23年)年の差+29歳年上>

アグリッピナから見て、父方祖父の兄弟の息子。二代目皇帝ティベリウスの長男


<リヴィア(5-43年)年の差+10歳年上>

アグリッピナから見て、父ゲルマニクスの妹の娘。ドルスッスの長女


【ティベリウス皇帝 関係】


<セイヤヌス(紀元前20年–31年)年の差+35歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの右腕。親衛隊長官


<ピソ(紀元前44年-20年)年の差+59歳年上>

二代目皇帝ティベリウスの親友。シリア属州の総督。


<教祖キメラ(不明)>

密教「トゥクルカ」を束ねる教祖。ドルスッスはセイヤヌスと信じている。


【後のアグリッピナに関わる人物】


<ウェスタ神官長オキア(紀元前68年-29年)年の差+83歳年上>

ウェスタの巫女の長


<セネカ(紀元前1年-65年)年の差+16歳年上>

アグリッピナの盟友


<ブッルス(1年 - 62年)年の差+15歳年上>

アグリッピナの悪友


<アニケトゥス(1年 - 69年)年の差+15歳年上>

後のアグリッピナ刺殺犯


<ティベリ・ゲメッルス(19年 - 38年)年の差-4歳年下>

俗称ティベリウス・ゲメッルス。ティベリウス帝の遺言より兄カリグラと共同統治を指示されるドルスッスの双子の息子の一人。


<ゲルマ・ゲメッルス(19年 - 23年)年の差-4歳年下>

俗称ゲルマニクス・ゲメッルス。ドルスッスの双子の息子の一人。


<ガイウス・アシニウス・ガッルス(紀元前41年-33年 年の差+56歳年上)>

二代目皇帝ティベリウスの長男ドルスッスの母の再婚相手であり、母ウィプサニアの支援者


<マルクス・コッケイウス・ネルヴァ(紀元前58年-29年)年の差+72歳年上>

後の五賢帝ネルヴァの祖父で、母ウィプサニアの支援者

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