第七章「狂母」第百十八話
セイヤヌスの長女ジュリア。
彼女はエトルリア出身の血を引いてるのに珍しく、とっても品性ある面立ち。眉毛は優しく緩やかなカーブ。目元もとっても垂れてて子犬みたい。身体は痩身で手足はすらっと長く、何より指先が細くて綺麗だった。髪はさらさらしたストレートのブロンドで、それを中央で分けておかっぱ。歩く度に彼女のさらさらした襟足が動きを併せていたのを見て、くせ毛の私はいつも羨ましく思っていた。でも、ジュリアは私を羨ましく思っている。
「アグリッピナ様、私は本当にカールの掛かった髪が羨ましいです。」
「そう?私はジュリアのストレートの髪の方が好き。朝なんかちゃんと手入れしないと、ユピテル様みたいだもん。」
「ウフフ。私だって寝ぐせすごいんですよ。雷が刺さったみたいです。」
「でも、水に付ければ直ぐに直るんでしょ?いいじゃん。」
「だから、奴隷いらずです、ウフフ。」
あのウフフって笑う顔が、本当にジュリアを可愛くさせてるんだと思った。それにいっつもお花のアクセサリーをいっぱい作って、本当に女の子って感じがして。だってサンダルのソレラにもお花を付けちゃうくらいなんだから。
「ねぇジュリア?私って、リウィア様の髪型できないかな?」
「リウィア様の?」
「やっぱり大母后リウィア様は私の憧れだし!」
すると、ジュリアはとっても真剣な眼差しで私の髪を手にとって見てくれた。
「まず、大母后リウィア様の髪型ですけど、アウグストゥス様がお亡くなりになってから、ガラッと変わられましたね?」
「みたいね。この間ね、玄武岩でできたリウィア様の像を見たけど、私が生まれる前の頃の髪型らしいんだけど、前髪を全部一列に綺麗に整えて上げてたよ。」
「そうなんです。あの髪型はとっても流行ったんですって。」
「うん。この間、リウィッラ叔母様も言ってた。」
「今は、毛先から硬貨サイズの大きさでリングみたいに丸めて、顔の周りに整えていらっしゃるけど、あれはとっても時間と手間がかかるのです。」
「そっか…。」
「多分。リウィア様は、元々あんまりクセの無い方で後、わざとクセを作ってらっしゃるから、アグリッピナ様のクセだと、同じ方向にリングを作っていくのは難しいですよね。」
そっか…。ショック。
「アントニア様の髪型はとっても自然よね?」
「ええ。緩やかなウェーブが掛かっていますけど、とっても自然に中央から分けて、襟足でしっかり纏めてらっしゃるから、シンプルで上品ですね。」
「うちのお母様は?」
「ウィプサニア様の髪型は中央から分けて、毛先を細かく丸めて、更に後ろで結んで編み込まずに流されてますよね?アグリッピナ様とはカールの掛かり方が違うからできるんですよ。」
「そっか…。」
「でも、大丈夫です!もし私がカールが掛かった髪型だったら、是非やって見たかった編みこみがあるんですよ、ウフフ。」
「編みこみ?」
「名付けてオリンピア・ヘアー!」
「オ、オリンピア・ヘアー?!」
この間のスパイモードといい、やっぱりジュリアの発想は天然だと思った。
「多分アグリッピナ様みたいに活発な方でも、全然崩れない髪型なんですけどね。」
「本当に?!是非やって!お願い!」
実はこのオリンピア・ヘアー。まぁネーミングはともかく…ここまで編み込んだユニークな髪型は、私が初めてだったらしい。器用なジュリアでないと思いつかない発想。私のように、元々クセが強い人にとっては、細かく編みこんでくれた髪型はとっても見映えがよくなるらしい。ジュリアは私の好みをいっぱいふんだんに取り入れてくれて、独特のとても優雅な髪形を作ってくれると約束してくれた。
「ジャンジャジャーン!」
「うわー!何これ?!」
「ウフフ。実はいっつもお花のアクセサリーを作る時に持っているんです。」
ジュリアがトゥニカの腰に掛けていた布袋から出したのは、くし、ウールの糸、骨針、ウールの糸通しのヘアピン、そしてハサミだった。
続く