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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第百十七話

「ゲルマニクスが亡くなってから、母であるアントニアが自ら毒で命を断とうとした事実は、子供や孫や親類になる貴女達が最も知らなければなりません。」


やっぱり。

アントニア様の自傷行為癖は本当だったんだ。


「アントニアも、自分の旦那が亡くなった時も同じように、その苦しみから逃れようと、自ら毒で命を断とうとしたのです。」


オキア様は、その頃の事を事細かに話してくれた。アントニア様のドムスで、お忍びでやって来たリウィア様とオキア様の目の前で、派手に癇癪を起こして死ぬと言い出したのだった。


「リウィアお義母さん!オキア様!どうして私が二度も同じような運命を辿らなければならないのでしょうか?!幼い頃に、父アントニウスをエジプトで亡くし、今度は我が愛する夫であるドルサッスを落馬で亡くし!何故ですか?!」

「だからといってアントニア!あんたが自分で自分を毒殺する理由になるとは思えないわ!」

「いいえオキア様!あの人がいないこの世は、まるでアポロ様が全ての光を奪ったようなもの!耐えられません!」

「そんな事ないわ、アントニア。リウィア、早くアントニアを止めて頂戴!」


けれどリウィア様は慌てずそのままアントニア様の目の前で、その毒薬を飲み干そうとした。


「何をするの?!お義母さん!」

「あんたがそのまま死にたければ、勝手に旦那の後を追って、自分の貞操を守れら事に満足すればいいわ。でも、それと同時に私の命を奪った後悔も背負っていける覚悟があるのならね。」

「リウィア!!やめなさい!」

「いいえ、オキア様。決して止めないでください。この目の前の馬鹿女が、自分が子供を遺して何をやろうとしているのか?わからせる為です!」

「リウィア…。」

「お義母さん。」

「果敢な長男ゲルマニクスは?まだまだ可愛いリウィッラは?障害があっても健気に生きてる次男のクラウディウスは?あんたがいなくなったらどうするんだい?特に長男のゲルマニクスはあんたの旦那の面影を遺してるじゃないか?」

「…。」


リウィア様は泣き崩れるアントニア様に近付いた。


「せめてあんたは子供に見守られながら、死ななきゃ駄目なんだよ。それがあんたが親としての務めであり、子供達の勤めでもあるんだから。」

「お義母さん…。」

「大丈夫、子が親より先に逝く事なんか、そうそうないわ。あんたの旦那の分まで可愛がってあげなさい。」

「ええ、お義母さんの言葉を私は信じるわ。あの子達に見守られながら死ぬのが、親としての勤めね…。」

「その時には、私も参加しましょう。」

「ええ?!オキア様が私の葬式に??」

「なぁーに?」

「この中じゃ、一番先にお迎えがやって来そうじゃないですか…。」

「リウィア、あんた皇后だからってずいぶん失礼ね!」

「あははは!」


こうして必死になってオキア様とリウィア様は、アントニア様を説得して止められた。けれど、運命はまるで逆転し、アントニア様を遺してゲルマニクスお父様はこの世を去った。だからあの時、大母后リウィア様とティベリウス皇帝がアントニア様を救いにやって来た時、大母后リウィア様を嘘つきと呼ばれていたんだ…。


「でもね、私はやっぱりアントニアには嘘ついたわけ。あの子を食い止める為の言葉が、アントニアの心を台無しにしてしまったのは確か。」


オキア様は肩を震わせてるリウィア様にそっと手を添え、優しい言葉をつけたしていった。


「アントニアの病は今回はそう簡単に治るものでは無かったの。だから、リウィアは私の所へ来て毎日毎晩回復するまで必死に神々へ祈りを捧げていたわ。もちろん、公ではなく私を優先した彼女が民衆から批判される事も覚悟の上で。私は何度ももう一度考え直すようにも説得した。でも、リウィアもまた、深い傷を追った一人の女性よ。でも、その姿を容易に晒せない立場にいる事だけは、あなた方にだけでも、私はわかって欲しい。」


リウィア様は必死に堪えていた。

そのお姿がまた、私達を誰もがリウィア様にとって子供であるという事実を、大母后として背おられて生きてらっしゃると思うと、私達の頬には自然と涙が伝っていた。


「アグリッピナ、今回私が不参加した事は、私事を優先した私の失策である事は十二分に理解しているわ。でも、ゲルマニクスだって血の繋がった私の本当の孫。それだけはわかって頂戴。」


それ以上語れ無いリウィア様の想いも本当に伝わってきた。ひょっとしたら、これがオキア様が仰ってた事なのかもしれない。理解でき無いから嘆くのではなく、理解できないのなら、我が身を先に出して、人の壁となり橋となる事。


「本当に、本当に、リウィア様ありがとうございます!」

「私もよ、アグリッピナ。」


私は心から大好きな優しい曽祖母に思いっきり泣きながら抱きついた。


続く


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