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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第百十三話

「お母さんはまだ怒ってるのかい?」

「当たり前です。」

「ダルサスやジュリア達本人がそうしたいと願ったのですよ。」

「そうだけど、クラウディウス。あんたが無理矢理薦めたのでしょう?リウィッラのために…。」

「まぁ、始めはですよ。でも、悩んでいたのはダルサスよりもジュリアの方でした。あの個性的な父親セイヤヌスを持っていれば…。」

「個性的?独善的の間違えではないの?」

「またそうやって皮肉を言って。本人達の愛の絆が一番大切だって説いてたのは誰ですかね?お母さん。」

「ふぅー。はいはい、分かりました。」


リウィッラ叔母様はアントニア様のドムスでジュリアと編み物をしていた。横でドルシッラと三女のリウィッラも手伝っている。私達はセイヤヌスの長女と聞いて、確かに用心していたが、意外に素直で人見知りもする女の子。高慢ちきのリヴィアとまるで性格が正反対。


「あれがセイヤヌスの長女ね…。」

「ドルススお兄様も信じられない?」

「うんアグリッピナ。だいたいどうやったらあんな親に、あんな可愛い子が産まれるんだよ、なぁ?ガイウス。」

「ドルスス兄さん、あの女はきっとぶりっ子で騙してるんでさぁ~。セイヤヌスの事だ、昔から鍛錬してたに決まってる。」

「そうかしら?」

「なんだとアグリッピナ?」

「私の女の勘から言って、彼女は本当にあんな性格だと思う。親が強烈な存在だと、意外に賢く素直になるのかもよ?」


するとお母様がスタスタやって来た。


「それはどういう意味なの?アグリッピナ。」

「え?お母様?!」

「あははは、アグリッピナの奴はきっとお母様も強烈だって言ったんですよ。」

「ち、違うもん!もう、ガイウス兄さんったら!」


お母様は久しぶりに、ため息混じりながらも微笑み返してくれた。


「もういいから。あんた達は大人の会話の真似なんかしてないで、ドルシッラがしているように、ジュリアのお手伝いして来なさい。」

「はーい!」


私達も編み物の手伝いに加わった。

ジュリアはとっても物静かで、いつも微笑んでいる。手先も器用で、私ができない事を丁寧に教えてくれる。ずっと長女だった私にとって、なんとなく優しいお姉さんができたような気がした。


「ジュリアさんて、本当に手先が器用ね。」

「あ、ありがとうございます。アグリッピナ様。」

「アグリッピナにそんな恐縮しなくていいですよ、ジュリアさん。」

「え?」

「アグリッピナはすぐに格好いい人を見ると、憧れちゃう癖があるんですよ。」

「そんな事ないです、ドルススお兄様!」

「あれ??"おかしなセネカ"の時は?」

「あーー!もう言わないでくださいー!」

「あははは!」


ジュリアは最初、階級の違いで遠慮がちなのかと思ってたけれど、本当に消極的で引っ込み思案で優しい性格はそのままだった。お互いに無いところがあるからなのか?私はジュリアとはこの後もずっと仲良い関係を続けていく。彼女がティベリウス皇帝に静粛されるまでの間…。それも惨い、絞首刑にさせられるまで。


「ところで、ダルサスは何やってるのかしら?」

「ああ母さん、あいつにはポンペイまで買い物に行かせてるよ。」

「ええ?!一人で?」

「奴隷のナルキッススもついてるから大丈夫だって。」

「セリウスとクッルスはつけなかったのかい?」

「だって彼らは母さんの護衛兵でしょう?」

「そうだけど、ポンペイまで奴隷一人だけだなんて、私は心配だよ。」

「そう?昔、母さんには"男なんだから、ポンペイくらい一人で行け"って言われたけどな…。」

「あんたは本当にそういう記憶力だけは鮮明に憶えているのね。」

「フフフ…。カビ臭いパピルスに葦のペンで書いてますから。」


なんだかんだいっても、アントニア様は、クラウディウス叔父様の息子ダルサスとセイヤヌスの長女ジュリアとの婚約を認めたらしい。意外にも最後まで難色を示していたのはドルスッス叔父様だった。やはりローマ国家で政治にも携わる者として、セイヤヌスの拡大し始めた勢力が、ユリウス氏族と身内になるのは危険視されていたからだった。子供達の私達には、まぁ関係無く仲良くなってしまうものだけど。


「アグリッピナ様、とってもお上手ですよ!」

「本当に?ありがとう、ジュリア。」

「いいえ、こちらこそです。」


本当に微笑みが可愛い女の子。私もジュリアみたいに笑えるようになりたくなってきた。うん、微笑みができるかもしれない!そう思ったら居ても立ってもいられなくなって、自分の顔を確認したくなった。


「おい?アグリッピナ?お前どこ行くんだ?」

「ちょっと!」

「ちょっとって、途中でやってるのを放り出すんじゃないっつーの!」

「ドルスス兄さん、僕が見てくるよ。」

「おおガイウス、ありがとう。頼むや。」


私は鏡を探したけど見つからなかったから、玄関のアトリウムにある床の水槽インプルウィウムに映った自分の顔を眺める事にした。どうしたらジュリアのように優しい笑顔が出来るんだろう?私は向きを変えたり、歯を出さないように笑ったりしてみたが無理だった。なんとか近くなったのは、下唇を歯で挟みながら笑う方法。


「アグリッピナ?お前、何やってるんだ?」

「ゔ?ガヴィヴズお兄様!」

「うひゃー?!なんて顔してるんだ?!」

「へぇ?」


水槽のインプルウィウムに映った私の顔は確かに酷かった。自分でもビックリしてバランスを崩し、すかさずカリグラ兄さんのテゥニカの裾につかまったが、そのままインプルウィウムにザパーン!と落ちてしまった。


「アグリッピナ!あっぷ、お前何すんだよ?!」

「ガイウス兄さん、ごめんなさい!」

「ぼ、僕は、あっぷ!泳げないんだぞ!助けて~!」


私はすぐに立てた。

なーんだ、インプルウィウムってそんなに深くないんだ。


「あはははは!ガイウス兄さん、大丈夫ですって。ここは足が床につくほど浅いんですから。」

「ダメだって、あっぷ!助けて~!」

「ガイウスお兄様...?」


するとすぐにお母様が血相を変えて走ってきて、インプルウィウムへ飛び込んでカリグラ兄さんを抱きかかえた。兄さんは凍える様に身体を震わせている。


「アグリッピナ!!どうしてすぐにインプルウィウムからガイウスを出さなかったの?!」

「え、だってここは足がつくし、溺れる様な深さでもないですよ。」


でも、お母様は恐ろしい剣幕で私を叱りつけた。


「ガイウスは水に入ると癲癇になり易いのが分からないの?!気を付けなさい!」


知らなかった。

カリグラ兄さんが水泳が駄目な理由が、まさかそんな理由があったなんて…。お母様に叱られ、インプルウィウムの水面に映った私の顔は、ジュリアの笑顔とは程遠い、魅力に欠けたしょぼくれた表情だった。


続く

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