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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第百八話

「セイヤヌス…。」

「これはこれは、お邪魔だったかな?リウィッラ様。」

「こっちはアグリッピナ。ウィプサニアんとこの長女よ。」

「ほう?ゲルマニクスの。」

「あんたって本当にトカゲみたいに神出鬼没ね。」

「トカゲ…?」

「そうよ、一体何しに来たわけ?」

「いや、ちょっと君に頼みたい事があってな…。」

「この間みたいに今日は飲みすぎてないから、変な期待は無駄よ。」


するとセイヤヌスは私の顔をジロっと見つめていた。まるで邪魔な仔犬がいるかのように見下した目つきだった。


「悪いが二人っきりで話せないか?時間は取らせない…。」

「あら?アグリッピナがいるとまずい話かしら!」

「リウィッラ叔母様…私。」

「いいから、アグリッピナ。ここにいて頂戴。」

「でも…。」


するとトカゲのセイヤヌスは、ゆっくりと叔母様へ近づいてきた。


「アグリッピナがいるとまずいのは、君のほうじゃないか?リウィッラ。」

「…。」


二人は私がこの間二人が口付けをしていた事を知らないっと思ってるんだ。


「分かったわよ…。アグリッピナ、悪いけど二階の寝室に行ってて頂戴。」

「はい…。」

「大丈夫よ、こんなトカゲすぐ追い出すから。」

「トカゲ…だと?」


あからさまの嫌悪感を出した後、セイヤヌスは私を用心深く観察していた。まるで顔の表情の中まで抉り取る様に。蛇のピソとは違った怖さがある。


「この娘は奴隷に連れてかせた方がいいな。」

「え?」

「まさか、ゲルマニクスの血を引く者がするわけはないと思うが、万が一、聞かれてまずい事がリウィッラ、君にあるのなら、君の奴隷に命令させたほうがいいぞ。」

「何よ、用心深いわね?」

「この娘アグリッピナは、並外れた度胸の持ち主だ。」


セイヤヌスという男は、とても用心深い性格で、自分の器以上の野望を持っているくせに、そのやり方は自分の器を超えるようなやり方は絶対に選ばない。常に抜け目の無いやり方で、人を陥れていったようだ。


「大丈夫です、セイヤヌス様。では、リウィッラ叔母様、後で。」

「ええ、アグリッピナ。」


私は一人でその部屋から出て、二階の寝室へ向かった。それにしても、セイヤヌスは私の性格を本当に見抜いている。何だかこのまま見抜かれたままだと悔しい。


「覗いてやろうっと!」


私はサンダルのソレラを脱いで、両手に被せ、素足でなるべく音を立てないように歩き、リウィッラ叔母様とセイヤヌスがいる部屋の扉に近付いて覗いた。


「頼みって一体何よ?」

「いや、長女リヴィアとウィプサニアの長男ネロが結婚をしたそうじゃないか…。」

「ええ、そうよ。それが何か?」

「私にはジュリアという娘がいるんだが、そろそろ結婚の時期じゃないかと…。」

「アッハハハハ!うちの双子の坊やはまだ産まれたばかりよ、言葉も覚えられないうちから、結婚なんて無理無理。」

「君の双子の息子達の話をしているんじゃない…。君の弟さんには、婚約していない長男がいるそうじゃないか?」

「ええ、それが何か?」

「うちの可愛いジュリアと婚約させて欲しいんだ。」


セイヤヌスは藪から棒に突然変な事を言い出した。リウィッラ叔母様は何も答えず、何度か葡萄酒を飲みながらセイヤヌスを見ている。


「なーんだ、頼みって一体何なのか思ったらそんな事をわざわざ言いにここ迄来たわけ?あんたって本当にお馬鹿さんね。」

「お馬鹿…さん?」

「ええ。そんな事は直接弟のクラウディウスに頼めばいいじゃない。私とアグリッピナの大切な時間を台無しにするほどのことではないでしょ?」

「…。」

「やっぱりトカゲよね?何か昔から思ってたんだけど、騎士階級のエクィテス出身のくせに、やり方がねちっこいんだよね。」

「ねちっこい…?」


大きなため息をついたリウィッラ叔母様は、再び葡萄酒をクイっと平らげて、腰に右手を置いて、左手でわざわざセイヤヌスを指差す。


「要するに、あんたの人生には、正々堂々という言葉は無いの?って言ってるのが分からないわけ。アッハハハハ!」

「…。」


セイヤヌスの右手拳は力強く握り締められてる。叔母様はさっきよりも葡萄酒を飲まれるペースが速くなって、何だかこの間の雰囲気になってきた。もっとお水を混在酒器にいれておけば良かったかも。


「そうか…。女も三十路を超えると、自分の本音に融通が効かなくなって、美の衰えに敏感に反応するものなのだな。」


あ!

言葉よりも、コップがセイヤヌへ叩きつけられた。セイヤヌスの身体は葡萄酒まみれ。


「それが人に物を頼む態度なわけ?!あんた、一体何様のつもりさ?!頼んで欲しかったら口答えせずに、黙って私の言う事を聞きなさいよ。」

「…。」

「返事は?」

「はい…。」


すると、リウィッラ叔母様は満足そうに笑みを浮かべた。


「それで、宜しい。そこへ跪きなさい。」

「はい、リウィッラ様。」


すると、セイヤヌスは右手の握り締めた拳を腰に隠しながら、リウィッラ叔母様に言われたように膝を床につく。ところが、リウィッラ叔母様は、自分のソレラをポイポイっと脱ぎ捨て、右脚をセイヤヌスの顔に突き出した。


「今度は、私を満足させられるわけ?」


ストラからはみ出る太腿を曝け出し、スラっと長く美しい脚を伸ばして、叔母様はセイヤヌスを弄ぶように葡萄酒をまた飲んでいた。


続く

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