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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第百五話

若くして夫を亡くし、初代皇帝アウグストゥス様から再婚を勧められても、頑なに首を縦に振らなかったアントニア様。一方、結婚五年目にして寡婦になり、二回目の結婚をティベリウス皇帝陛下の長男ドルスッス叔父様とされたリウィッラ叔母様。そして、幼い頃から身内の死を身近に感じ、ローマの英雄ゲルマニクスと結婚し、原因不明の病によって未亡人になった母ウィプサニア。


「ウィプサニア、お客様よ。」

「はい、お義母さん。」

「私はクラウディウスの所に行ってくるわ。」

「クラウディウス様の所へ?」

「これからリウィッラが来るでしょ?色々と揉めると面倒だから、クラウディウスの長男のダルサスに会いに行って来るわ。」

「そうですか、分かりました。」

「リウィッラとは仲良くやってね」

「はい…。」


この頃の三人は、表面上仲良く角を立てないように取り繕っているが、根底にある互いの考え方は別々。そして、父ゲルマニクスが生きていた時の頃のように、心から笑い合える仲には、とうとう最後までなれなかった。


「ユリア、いよいよ明日でネロ兄さんの成人式だな。」

「うん、ドルススお兄様。とっても楽しみです。」

「僕も後三年くらいしたら成人式だ。兄さんに負けないように頑張らないと。」

「頑張って、お兄様。」

「そうだ!成人式終えたら、ユリアにこのお守りのブルラをあげるよ。」

「ええ?!本当に?!良いんですか?」


ブルラはローマ男性が成人を迎えると外すお守り。この時期はまだ男性しかなかったが、多分女性でブルラをつけたのは私が初めてだと思う。木登りばっかりして心配ばかり掛けてたので、私も特別にブルラをさせられた。大人になっても何故か外せず、こうやって昔の頃を思い出す度に、今でも着けている小さなブルラを見つめている。ブルラをくれたあの頃のお母様は、本当に優しかったのに…。


「何だかんだ計算の苦手な妹だけど、色々とお世話になってるからな。」

「もう!お兄様ったら。今じゃユリア・アグリッピナも、倍の数ぐらい簡単に計算して答えられますって!」

「本当か?じぁ、試しにやってみるか?」


ドルススお兄様はニタっと笑ってる。ところが、私はドルススお兄様より計算が得意なパッラスという奴隷から、81個の倍数暗記法を教えてもらっていた。とにかく重要なのは、答える時に計算している振りが必要。適当に指なんか使ったりして。


「それじゃ、4の八倍は?」

「えっと…32。」

「おおお!それじゃ、9の二倍は?」

「うーんと、18。」

「おおおおお!じゃ、9の五倍は?」

「それは…45。」

「ユリアーー!何でいきなりできるようになったんだよ?!」

「へへ~ん。あたしだって、いつまでも"計算苦手なアグリッピナ"呼ばわりされたくないですもん!ちなみにドルススお兄様、9の倍数の答えは、二つの数字を必ず足すと9になるのです。」

「えっ?!本当か?えっと例えば9の五倍だと45。4と5を足すと9。9の七倍だと63で、足すと9!すげー!」

「えっへん!」

「それじゃ…9の十倍は?」


え?!

しまった!それはパッラスからまだ教えてもらってなかった!


「お兄様、十倍なんてのは…どうも私好みでないので、もっと違う感じに…。」

「嫌いでも計算すればできるだろ?3の十倍は?」

「えっと…うーんと、25?」

「やっぱり…。ユリア、お前計算してないだろ?」

「え?!してますよ!」

「何で25になるんだよ?それ、パッラスから教えてもらったんだろ?」

「え?!何の事でしょう?オホホホ…。」

「オホホホ…じゃねぇーよ。お前がこんな難しい事をスラスラ即答で簡単に答えられるわけないよなって思ったんだよ!白状しろ!」


ギク!暴露てた。

しょうがなく、私はパッラスから教えてもらった81の倍数暗記法を地面に書いた。


「これで、81個っと。」

「ちょっと待て!ユリア、これ81パターン全部覚えたのか?!」

「はい。あ、でも、ひっくり返しても同じやつや答えが同じやつは数にいれてません。」

「確かに…お前って記憶力はいいもんな~。でもこれを覚えるの大変だったろ?」

「それは解放奴隷リッラがおしえてくれた、ガリアの歌に合わせて覚えました。」

「へぇーどんな感じなんだ?」


私は得意げになって唄ってみた。

けれど、しかしである。気が付くとドルススお兄様は耳に指で栓をして、顔をしかめっ面してる。


「あはは…。ユリア、唄はもういいよ。」

「え?どうしてです?もっと謳わないと暗記法覚えられませんよ。」

「いやー兄ちゃんは十分、お前の記憶力には感心してるから、大丈夫!」

「本当にですか!?」

「本当に本当!」


私は昔っから唄が下手だった。

でも、それに気が付くまでは、自分の息子が生まれてくるまで待たなければいけない。

本当に音痴だったんだよな~あたしって。


「ドルススくーん?何処かしら?」

「あ、リウィッラ叔母様の声だ。」

「はーい!ここです、リウィッラ叔母様!」

「良かった!お兄ちゃんのネロくんの衣服のトガを手伝ってあげて!」

「はーい!」


ドルススお兄様は駆け足で行ってしまった。私はちょっぴり寂しかったので、一人で地面にチョークを使って計算の練習をしていた。


「アグリッピナちゃん、お絵描きしてるの?」

「あ、計算式を書いてるんです、リウィッラ叔母様。」

「ああ!ごめんなさ~い。随分アバンギャルドな絵だな~って思って。オホホホ…。」

「たはは…。あたしあんまり数字が苦手なんです。」

「うっそ!?あたしもよ。」

「ええ?!叔母様も?」

「ギリシャのアルキメデスだがアルテミスだが知らないけど、変なもの見つけっからめんどくさいったらありゃしない。あたしだったら、どんな服を選ぶかに頭使いたいわ。」


リウィッラ叔母様らしいな。

音が似てる哲学者と女神がごっちゃになってる。


「ねぇーねぇー。アグリッピナちゃん、これからお洒落しない?」

「ええ?!お洒落ですか?!」

「うん、だって明日ネロお兄ちゃんの成人式でしょ?計算よりもお洒落が大切!!!」

「うん!」

「今からあたしんちにおいで!いっぱい衣服あるから!」

「はーい!」


こうして、何故かリウィッラ叔母様と仲良くなり、叔母様のお洒落教室へ無断で通うようになっていった。


続く

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