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紺青のユリ  作者: Josh Surface
第七章「狂母」乙女編 西暦20~21年 5~6歳
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第七章「狂母」第百四話

「リウィッラ、何でもないんだ。ただ、ちょっとだけウィプサニアの肩を借りただけだ。」

「肩を借りてたですって?!あなた!どうして私にじゃなく、ウィプサニアの肩なんですか?!」

「いや、その、ウィプサニアはゲルマニクスを亡くしたし、幼い頃から不幸に合っている。だから僕の気持ちを理解し、和ませようと努めてただけなんだよ。」

「はい、ドルスッス様の仰る通りです。」


しかし、お母様の冷静さを装ったこの態度が、ますますリウィッラ叔母様をムカつかせたようで。


「なんなのその言い方は?!まるで私は悪くないって言い方じゃない!妻がいる旦那に対して、なぜそんな事ができる訳?!」

「それは、お気持ちを察しただけです。」

「嘘おっしゃい!他にも理由があったんでしょ?!」

「いいえ。」


さらにお母様の言い方は、相手の感情を逆撫でするような冷静さだった。


「はぁ?!何それ?!大体、ウィプサニア!あんたは最近何様のつもりなの?!兄さんが死んだ事いい事に、母さんのドムスで好き勝手に貴族連中の奥さん達を呼んで、やりたい放題じゃない!」

「お、おい!リウィッラ。そんな言い方は良くないだろ!」

「あなたは黙ってて!この際だからはっきり言うわ。ゲルマニクスはあなたの旦那である前に、私の兄であり、母さんからすれば息子なの!母さんはね、あんた達家族に気を使って文句一つ言わないようだけど、内心いい加減にしろって思ってるはずよ!」

「リウィッラ!!」

「いいえ!あなたは黙ってて!ウィプサニア、兄さんの名声を利用して、ローマでもひっくり返すつもりなわけ?!」

「…。」


お母様はピクリとも動かず、瞬き一つせずにリウィッラ叔母様をジッと見つめていた。


「リウィッラ…もうやめないか!」


しかし、さすがリウィッラ叔母様の気の強さは、止めに入ったドルスッス叔父様の腕を払い除ける。


「大体、あなたもあなたです!兄さんの国葬の時に歓喜余って、ウィプサニアの家族を『我が子以上に守る!』なんて力説したそうじゃないですか?!」

「当然の事じゃないか。突然やってきた悲劇に、誰だって誰かの助けを必要とするだろう?!」

「そんな事を言うから、この女は勘違いするんじゃないですか!それに、それを聴いた長女のリヴィアがどんな気持ちだったのか、あなたは考えた事があるのですか?!私が参加していたら、そんな事は絶対に言いませんし、言わせません!」

「す、すまん…。」


しかし、それでもお母様は決してリウィッラ叔母様から目を離さず、ジッと見つめていた。その堂々とした態度が、リウィッラ叔母様には理解できなく、首を横に振って傾げていた。


「ウィプサニア。あなたって兄さんが死んでから、まるで人が変わったよう。それとも…今のあなたが本当のあなたなのかしら?」


少しだけ、お母様の右眉がピクリと反応したようだった。けれど、それでも微動だにせず、ただ、黙っているだけだった。


「リウィッラ、もうその位にしなさい。」


アントニア様がやって来た。


「今日はドルスッス様のお母様の葬儀。死者を弔う日に醜い争いをするなんて、あなたは罰当たりもいい所だわ。」

「母さん!私は本当の事を言ったまでよ!」

「リウィッラ…。あんた、もう子供じゃないんだから、自分が言ってる事が全て本当の事だと決めつけるのはやめなさい。」

「だって!」

「だってじゃありません。ウィプサニアはドルスッス様の為に心を和ませようと努めていた。それだけだったのだから、あなたも信じてあげなさい。」

「そうは言ってもね!」


するとアントニア様はすかさずリウィッラ叔母様の頬をピシャリと力強く叩く。


「お黙り!この子はまだ分からないのかい?!」

「か、母さん…。」

「死者を弔う日に、醜態を晒すな!と言ってるの!」


叩かれた頬を抑えるリウィッラ叔母様。


「ウィプサニアを見てご覧なさい!あなたに何を言われようとも、口を真一文字にして、声を感情的に張り上げず、ジッと堪えてるじゃないの!それなのにあんたはマイナデスのようにギャーギャーわめいて!夫を亡くした気持ちなら、リウィッラ!あんたが一番理解できるはずよ!」

「…。」


アントニア様の言う通りだった。

リウィッラ叔母様は、ドルスッス叔父様と再婚される前、お母様のご兄弟であるガイウス様とご結婚されていた。そして、ここにいるアントニア様、お母様、リウィッラ叔母様みんなが未亡人を経験している。


「リウィッラ…。ウィプサニアを悪く言う事は、同時にあんたの一番最初の旦那をも悪く言う事になるのよ!それにね、あんたが言うほど、私はウィプサニアに対して内心いい加減にしろだなんて思ってないわよ!あんたの方こそ、いつからそんなロクデナシになったのかい?今はゲルマニクスも死んで、ドルスッス様のお母様も亡くなられて、家族の繋がりがある同士、互いに助け合う時じゃないの?!」


けれど、アントニア様に叩かれたリウィッラ叔母様は涙を流しながら訴えてきた。


「何よ!結局母さんは、私なんかよりも、ゲルマニクス兄さんやウィプサニアの方が可愛いんじゃない!」

「何を子供みたいな事を言ってるの?!」

「いつだってそう!私は言いくるめられて、我慢しなさい、我慢しなさいって…。兄さんは良くても私はダメ!ウィプサニアは良くても私はダメ!旦那は良くても私はダメ!結局、母さんこそ、自分が言ってる事が全て正しいと決めつけてるじゃない!」

「まだ、分からないのかい!この子は!」

「ええ、分かりっこないわ!こんな頭の硬いクソババアの言う事なんて!」


またまた出た…。

リウィッラ叔母様のクソババア発言。アントニア様は怒って、もう一度頬を叩こうとしたが、すかさずリウィッラ叔母様はアントニア様の右手を避け、身体をプイと回転させ、その場から怒りながら去ってしまった。


続く


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