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ルール

作者: かずや
掲載日:2026/07/20


 私はルールを守って生きてきた。


 学生時代の提出物の期限は守ったし、門限も守ったし、親の言いつけも守った。

 親の評価は「手の掛からない子だったが、違う意味で心配になる」との事。

 別にコミュニケーションが取れない訳じゃないし、頭が硬過ぎる訳でも無いとは思う。

 ただルールの中で生きている、ルールまたはマナーを破る者とは距離を置くだけだった。

 とにかくそれだけを守れば、何かあっても守られるのだ。


 家はマンション七階に住んでいる、エレベーターを使うが指定階を押し、一人なら奥の端に立つ。

 誰かが居れば会釈し空いた部分、機転を効かせ空気を読む。

 降りる時は入り口に近い側から順に降りていく。

 ここで困るのは「降りるのが先」、これがルールなのだが無視する輩もたまには居る。

 自慢にはならないが、こんな時の為の抑止力としてか身体は大きく生まれていた。あくまで偶然だが人に威圧感を与えて申し訳なく生きている。

 ただ、不本意ながら役立つ事もある。

 それが小さなルールを無視する者を止める事が出来るからだ。

 今、エレベーターは一階に着いた。ドア前にはスマホに夢中でイヤホンで外音カットしている若者。

 全くエレベーター内を見ていない、もしかしたら降りる方関係なく乗ろうとするのかもしれない。

 ドアが開いた、開いてる途中からスマホに釘付けの身体をねじ込もうとしている。

 軽く息を吐いた。

 優しく慎重に肩を叩いてあげる。

 そして目線を合わせて言ってあげる。


「降りる人が先だよお兄さん」


 どれだけ優しくを心がけてもビビられるのは仕方ない

、アメフト選手みたいな男から注意をされる。

 された本人はその衝撃から言葉も出せずにすぐに出て小さくなっている。

 こっちはムカついて喧嘩したりする気はサラサラ無い、事実(ルール)を知って貰いたかっただけなのだが、毎回萎縮させるだけになる為、本当は声かけを辞めたい。

 ただルールに則り生きていければそれで良かった。


 ——とある夏の暑い日

 買い出しにスーパーへ出掛けていた、入り口から目にするのは駐輪場スペース外、入り口ドア近くに置く自転車や店の駐車場は屋上が故に、面倒からか周りで路駐をする車達。戻されないカートに店のカゴごと積むのが見えた車。

 ルールとはマナーとは違い、本来なら罰があって然るべき事なのだ。だが全ては拾えないし監視はあれど即対応即処罰も出来ない、下手をすれば注意した側が弱そう、または店の看板を背負った弱い立場なら逆に謝らせることすら出来てしまう。

 私は自ら関与は出来ない、だから自分はしっかりルールを守るだけ、それだけが精一杯なのだ。

 それでも酷過ぎる輩がいる場合は、しっかり話だけは聞いてあげる。

 相手からすれば「関係無いだろ」と言いたいだろうが、自身のガタイを見てほぼ百%勢いを無くし事は収まる。

 逆に言えば、自分が行かなかったら延々悪態を吐く輩なのだが……それに、自分が何をするでなく「お話聞くよ?」と低い声で言うせいか怖い人に見られるんだろう。

 自分はなるべく小さく社会のルールを守って生きてるだけなのに……

 少し悲しさはあるが、抑止力が効いてくれるならば……それもその場限りでルールを守らない人は、これからも監視の目が無けりゃ守る事はない。


 ——スーパーからの帰り道

 荷物を抱えて帰る、夏の暑い日。

 日陰を選びたいが右側にある、ルールでは左側通行なのだ。だから日の当たる左側に寄って歩いていく。

 対抗から来る人は日陰を選べる、ルール通りだからスムーズにすれ違える。

 ただルールを破り自らの欲を優先する輩は流れを止める。

 後ろから自転車だ。

 日陰の右側を通り向いから来る歩く人へベルを鳴らして避けさせている。

 勿論、軽く嫌な気持ちにはなる。

 本来なら自分の真後ろから来て対向者が居なければ、右に出て左に戻るのが歩行者道のルールのはずだ。

 街にはそんな光景が溢れる、ど真ん中を並走する者、スマホを持ちながら自転車漕ぐ者、ループと呼ばれる物で歩道車道爆走する者。

 自分の子供時代には無かった物もあり、抑止が追いついてないのは明らかだ。


 赤信号で止まった、歩幅にして五〜六歩の小さな横断歩道だ。

 正直要るのかと思えるがルールだ、しっかり守る。

 サッと横を抜いていく歩行者に自転車。

 まるで待っている自分がおかしいのかと思える瞬間だ。

 紛れもなく赤信号で渡るものだから笑いまで起きてしまう。

 それでも自分は守る、人間社会で正しく生きていたいから。


 ——帰宅して

 暑い中で喉が渇いた、冷蔵庫の麦茶を取り出して驚愕する。

 コップ一杯分もない状態じゃないか。

 これもルールの一つだろう、別に国が定めたルールじゃないが家のルールだ。

「半分まで減ったら次の麦茶仕掛けてよ……」

 少し愚痴は出てしまう。

 お湯を沸かしながら買ってきた食材を整理していく、その途中で冷蔵庫奥から消費期限切れの物が見つかる。

 これもルールだ、泣く泣く廃棄する。

 ルールだけを守る事は良い事ばかりではない。

 人によっては細かい、窮屈とされるだろうが……破るつもりはない。

 親からは「見つかったか……」と言われるも怒られる事は無いし怒られる謂れもない。

 正しいかはともかく守っているのだから。


 ——夜

 夕涼みに近くの公園のベンチで涼む事がある、街灯は公園中央にあるがベンチ側は暗い。

 それなりに深夜の時間、普段なら一人きりだが今日は違った。

 若者が数人、街頭下で騒いでいる。

 暗がりのせいでこちらには気付いてないようだ、若い子らしい騒ぎ方で、ゴミは投げ捨て卑猥な話に華を咲かせている。

 見える範囲に声の幼さ、高校生か中学生か……

 飲んでる物がこちらからは分からないので静観だが、「カチッカチッ」と聞こえ街頭下の塊に火が一瞬灯った。そして明らかに口に咥えた物を吸い煙を吐く。

 タバコである事は間違いなかった。

 大きなルール違反だろう。

 自分が出れば収めれそうではあるが、別に正義のヒーロー法の番人では無い。

 ただただ自分はルールを守っていたいだけ。

 スマホを取り小声で警察に連絡をする。

 そのまま数分……近くの交番から警官が二人やってきた。

 若者の塊は素早かった、遠くに見えた警官に反応して「サツだ!」と言い走り逃げる者、自転車にまたがり散っていく者。

「うん、ダサいな……やっぱルール守ってる方が良いと思う」と呟いた。

 到着した警官は通報者の自分に気付き簡単な状況を聞き出した、とにかくこちらからは「明らかなルール外行動と民家の近くでうるさかったですからね」と答えておいた。

 通報協力に感謝されたが、内心警察はどう思っているのかわからない。

 自分なら「呼び出しが嫌だなぁ」ぐらいは思う。

 最近の子は何しでかすかわからないし、それなりの大人もそう。刃物持ってる事だって珍しく無い。

 自分もやむなく注意に入る事はあるが……でかい見た目のおかげで助かってる場面が多いだろう。

 静かな安らぎの夜もこうして終わってしまった。


 ——翌日

 マンション内車道、「緊急車両の妨げになる為、駐停車禁止」の看板前に駐車するお年寄りを見てしまった。

 マンションに住む者だが、普通は見て見ぬふりなんだろう。

 だがこのお年寄りとその車は、マンションの掲示板で注意喚起対象にまで上がっていた。

 それ程常習であり、実際救急車がやむを得ず離れた所に停車する事が以前起きたからこその注意喚起だった。

 普段なら自分のルールを守って生きてるだけなのだが、今回は目の当たりにしてしまい致し方ない。

「あーおじいさん、ダメだよそこ停めちゃ」

 ごそごそ荷物を出そうと、後ろから声が掛かったからだろう。

 ろくに相手を確認せず啖呵を切った。

「なんじゃぁ!何が文句あ……る、って……」

 振り向きながら老人は後悔したのだろう、相手はアメフト選手ばりの巨漢、老人の三倍は質量が違う。

 それでも老人は粘りだした。

「ここに停めても誰に迷惑かけるんじゃ!」

「こないだ救急車付けれなくて迷惑かけてるよ」

「そんなん知らん、嘘つくな!」

「あんたマンションの掲示板を見な、注意喚起出てるよ」

「そ、そんなもん儂じゃないだろう!」

「写真付きでアンタの車だよ……おっと管理人さん」

 言い合いしてると誰かが管理人を呼んだのだろう、すっ飛んできた。

「いやーデカイ兄ちゃんありがとうね、お爺さん現行犯で出禁ね」

「なんでじゃ!」

「だってあんた住人違うでしょ?」

 何?そうなのか?

「お友達か知らないけど週二.三で来てるのは把握してるから。……ナンバーも一致、どうする?住居侵入の疑いで警察呼ぶ?それとももう辞める?」

「……どけ!」

 お爺さんは乱暴に車に乗り込んで行ってしまった……

「デカイ兄ちゃんありがとうね、でもあまり首を突っ込むと恨み買うよ?」

「いえ、自分はルールの中でしか動きませんよ。今回はたまたまです」

「中々ルールを守るって当たり前だけど難しいよね……とにかくありがとう、もう来ないと思うけど見つけたら管理人までね」

 何故か管理人さんと握手して解散した。

 (ヒーローになりたい訳じゃないんだけどな)


 ——夕食時

 今日は親にあらかじめ夕飯を断って、某チェーン店へと一人で向かった。

 今日から好きなゲームとのコラボと言う事でグッズが手に入るのだ、snsで見た情報だと注目度が高いので手に入るかは運だ。

 到着時に頭を抱えた、まさかの行列。

 ファストフードなので異様な光景だ、チラチラ見える窓からは中の荒れ具合が見える。

 (まあメシも兼ねてるし最悪食べれたら良い、並ぶか)

 見える範囲に七〜八人、そこまでは時間かからないはずだった……

 並び出して後二人程だった、「お!もうすぐじゃん!」と更に四人が合流してきた。

 二人のはずが六人に増えた、これはマナー的に宜しくは無いのだがルール的にはわからない。

 残念だが我慢するしか無い。

「まだあるの?」「売り切れにはなってないな」「被ったら売れるし只食いみたいなもんだな!」

 騒がしい前の六人、転売ヤー程ではないが片足を突っ込む発言が首を振らせる。

 (まあ……良い気分にはならないよな)

 ルールとマナーの違い、現場で実際に受ける被害に辟易はしてしまう。

 先の六人が入り切って、次は自分の番だった。

 店員が慌ただしく張り紙をガラス戸に貼っている。


「コラボ限定商品完売」

 あまりのタイミングの悪さに肩を落とす。

 先の二人だったのが六人に増えなければ手に入っていたのだ、流石に凹むがルールはルール、完売なら仕方ない。

「お次の方どうぞ!」

 メシを食いに来たと割り切って店内へ。

「牛丼特盛で」

「はい!」

 さっきの六人は騒がしく目立ち何が当たったかを自慢しあっている。

 羨ましさはあるしモヤモヤもあるが……

「はい!牛丼特盛です!」

 目の前に置かれた牛丼は等しく美味いだろう、ふとどんぶり横に何かが乗っていた。

 ビニールに包まれたコラボグッズだ。

 一体何故?完売では無かったのか?

 グッズ下にメモがあった。

「ラストワンおめでとうございます」

 ラストワン?もう一度グッズを見ると……キラキラ光を放ち特別バージョンのレアグッズだ!

 色々あったが立ち直れた、牛丼を食べ始める。

 三割り増しで美味く感じる、たまにはこういうことがあると嬉しいものだ。

 久しぶりにルールを忘れて牛丼を味わって食べた。


 ——とある日

 相変わらずの暑さにヘタレそうだ。

 赤信号で止まると汗が止まらない、だが赤信号なので止まる。

 ルールを守る原点は信号だった気がする。

 幼稚園児が初めに学ぶ社会の交通ルールの基礎じゃないだろうか?

 大人になるほど守れない奴も多くなる。

 たかが信号、警察のような監視者も居なければ渡ってしまえ。

 そんな心が見えるルールの基礎。

 赤なら止まる、黄色なら止まる準備をする、青なら注意して進む。

 これだけなのだ、政治家が決める難しいルールもあるが、まず信号を守れるかだろう。

 だって目の前の幼稚園児の集団が手を挙げ、可愛らしく短い足で走り渡っている。

 幼稚園児でやれている事を、いつから大人は出来なくなってきたのだろう?

 スマホ持ちながら自転車や、タバコ吸いながら歩行、停めちゃいけない場所の駐停車。

 細かな事は多々あるが多くの人はルールを守り生きている、社会生活だけじゃなくネット内やその他法律の中で。

 人が安全に人らしく生きれる為のルールだ。

 今日もルールを守って生きてる。


 ——ルールを破った日

 その日は雨だった、視界も悪く傘を差せばより見えにくい。

 雨に少し濡れた肌も気持ちが悪い、いつも通る大通りには風も強く吹いていた。

 小学生の通学時間が被って、色とりどりの傘とランドセルが花畑みたいで可愛らしい。

 そんな雨に負けずに目の保養をしていた時……一人の傘が激しく動いた。

 大通り、歩道車道共に広いが故に風も吹き抜けやすい。

 激しく動いた傘は車道に飛ばされてしまった。

 バッと横断歩道の信号を見れば車道進行方向が……青!

 ここからはスローに感じた、車道の車は流れのまま。

 飛んだ傘の持ち主は身体小さな女の子低学年か、慌てて車道に踏み込んだ……視界が悪い中で車は減速出来ていない……!

 

 何も考えてなかった、これまで守り続けてきたルールどうこうを破った。

 

 弾かれたようにダッシュ、女の子を掴んで歩道に投げ込み悲鳴と急ブレーキ音がすぐ近くに聞こえた。


 ガンッと頭が揺れ背中や肩が叩きつけられた。

 何かに当たった、それだけしかわからない。

 とりあえず動けない。

 

 視界が狭い、雨のせいか寒いな、女の子投げちゃったごめん……車の人、俺、ルール破っちゃった……ごめん

 そっか……ルールって破ると痛いんだな……

 いや……そうでもない?……なんだかもう痛みより眠いな……

 あーあ……あんだけルール守って生きてきたのになぁ


 遠くの救急車のサイレンが鳴ってるような、何かさっきから「しっかりしろ」とか聞こえる。

 でも、もう抗う気は無かった。

 だってルール破った罰なんだから……


 静かに睡魔が訪れ、意識は沈んで行った……


 ——ルール 完

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