3話
今日はここまでかな
あきらめないで走り続けたお陰か、なんとか間に合った。
予鈴の五分前、ぎりぎりで自分のクラスに滑り込む。
教室はまばらだった。朝の人身事故の影響か、ぽつぽつと空席が目立つ。
じっとり汗ばんでいる制服に嫌悪しながらも席に着く。
「まじ最悪〜。ウチさ、ほんとサボろうかと思ったし」
派手な声が響く。
見ると、クラスで一番目立つギャル──佐藤莉緒が、いつものように机の上にどかっと座り、
飴をくわえながら窓を背もたれ代わりにしていた。
……なにがとは言わないが、男子的には目のやり場に困る。
「でも莉緒えらいよ。けっこう早く来てたんでしょ?」
「まーね。部活の朝練、今追い込み時期だし」
「莉緒のバトン、ほんとカッコいいよね。今度の試合、応援まじでよろしく」
「任せて!期待してて!」
女子・男子入り混じった取り巻きが盛り上がる。
まあ確かに派手で美人なんだけど……同じクラスになって半年以上、俺は一度も話したことがない。
(それにしても──)
脳裏に浮かぶのは、今朝バス停で見かけた少女。
珍しいほどのロングスカートに、静かな雰囲気。
あんな制服、このあたりの学校にあったっけ……?
などと考えながら教科書を鞄から取り出していると──
廊下側の窓から、ひょっこりと顔が生えた。
「先輩、おはようっす!」
「うわっ!? 急に出てくんなよ!」
「えー? 朝から美少女の顔見れたんっすよ?
そこは驚くんじゃなくて、お金払うとこじゃないんすか?」
手を出してくる。
当然、払わない。指で軽く払いのける。
「なんでだよ……」
「むー……ケチ!」
頬をふくらませて睨んでくる少女の名前は、ミク。
文芸部の後輩で、いつもなにかと絡んでくる。
これでも一応、文芸部の“次期部長らしい”。
「で? 朝からどうした」
「部長から伝言っす。今日、部活来いって」
「まじか……行きたくねぇ」
「ほんと幽霊部員じゃないですか。顧問来るときだけ出てくるとか」
「部長が“幽霊部員でいいから入れ”って言ったんだから仕方ない」
「その部長が引退したら、次期部長が一年の私ってのがそもそもおかしいんすよ!」
「まあ……がんばれ」
「そこは協力してくださいよ〜!
私だって毎回、先輩の教室まで呼びに行くの嫌なんすからね?」
「なんで」
「上級生のクラスって、なんか入りづらいじゃないですか。特に先輩のクラスは……」
「ん? 今なんて?」
「なんでもないっすよ! じゃ授業始まるんでサラバ〜!
さくらーふぶーきのーさらいー……」
歌いながら、左手でバイバイと手を振って走っていった。
「……朝からテンション高ぇな。どんだけ体力余ってんだ」
ミクを見送り、教科書を整えようとしたそのとき。
──視線を感じた。
見ると、佐藤莉緒がこちらを凝視していた。
五月蠅かったかな?ごめんね?
佐藤莉緒と仲のよい者たちが、「莉緒、どしたん?」と尋ねる。
「ううん、なんでも!」
とだけ言い、また雑談に戻っていった。
めちゃくちゃ見られてたせいで、ちょっとだけ心臓に悪い。
冷や冷やしたよ。
◇2話_学校についた主人公と初登場ミク。→3話へ修正




