16話
20時頃もう一本アップします
そんな他愛もない会話をしていると、喉が渇いてきた。
俺は席を立ち、給水所でお茶をくむ。
ボタンを押して、しばらくお茶がコップに注がれるのを待ちながら、
食堂の入り口に見慣れた姿を見つけた。
「……あ」 莉緒さんだった。
トレイを抱えたまま、きょろきょろと周囲を見回している。
「どうしたの?」
「日直の仕事長引いちゃってさ。もう席ないかと思って」
そう言いながら、俺の方へ近づいてくる。思ったより距離が近くて、思わず一歩分だけ身構えた。
「ちょうどいいよ。あそこ、もう一人ぐらい座れそうな席確保してる」
俺が奥の方を指さすと、莉緒さんも自然と体を寄せてきて、同じ方向を覗き込んだ。
「どこどこ……」
肩が触れそうな距離。制汗剤の香りがふっと鼻をかすめて、妙に落ち着かない。
視線の先―― そこには、白雪さんとミクが向かい合って座り、楽しそうに話している光景があった。
ミクが身振り手振りで何か話し、それに白雪さんが微笑みながら相槌を打っている。
一瞬、莉緒さんの動きが止まった。
「……あ」
小さく、気づいたような声。
数秒だけその光景を見つめたあと、莉緒さんはすっと体を離した。
「ごめん」
「うん?」
「やっぱ、あたし今日は他のメンバーと食べるわ」
そう言って、軽く手を振ると、他のクラスメートの方へ向かっていく。
「そっか」
特に深く考えもせず、そう返してその背中を見送った。
莉緒さんは一度だけ振り返りかけたが、何も言わず、そのまま人混みに紛れていった。
俺はそのまま席へ戻り、何事もなかったように飲み物を置く。
――その時は、まだ気づいていなかった。
あの一瞬の沈黙が、莉緒さんにとってどんな意味を持っていたのかを。




