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第68.5話① 魔王幹部の弔事

第68.5話① 魔王幹部の弔事


 妖魔領域最大の組織である魔王――。

 彼らは人間種と妖魔種の双方の抑止力となり、世界から争いを遠ざけている。

 抑止と言えば聞こえはいいが、妖魔種側からの報復の鎮圧と人間種側からの侵攻を武力牽制しているのが現状だ。

 牽制と言えど小競り合いに発展することは多く、双方に被害が出ることも常である。

 そして、稀なことではあるが、幹部クラスの部下が命を落とすことも致し方ないのだ。


「これよりアルフィムの埋葬を行う。」


 魔王のトップであるディーは、坦々とした態度でそう告げる。

 その言葉を合図に、組織の7番隊隊長であったアルフィムの遺体を収めた棺が穴へと降ろされ、フェローとフロイヒによって土が被せられていった。


「10番隊隊長セシル。6番隊隊長ナーグスに続き、7番隊隊長アルフィムまでもが何者かの手によって犠牲となった。皆、これまで以上に警戒を強化し、各地の保安に努めてほしい。」


 ディーはそう言って頭を下げ、一足先にその場を離れていく。


「フェロー、フロイヒ、後は頼みました。」


 ディーの両脇に控えていた内の一人、ステンリーも二人にそう告げてディーの後を追っていった。


「承知しました。」

「……。」


 フェローがそう答え、対してフロイヒは無言でそれを見送る。


「すまねぇが俺も行く。埋葬が終わったら、お前達も来い。」


 ステンリーに続いてもう一人、ダイスもそう告げて魔王場へと引き上げようとしていた。

 いつもであれば、こういう時に部下達と肩を並べ悲しみを共にしてくれるのが彼だが、今日はどこか様子が違う。


「……承知しました。」


 フェローは一瞬戸惑い、言葉に詰まりながらも承諾を述べた。

 対して、フロイヒは抑えきれない感情からか、微かな声量で思いを零す。


「……あんたも行くのかよ。」


 上司にタメ口なのは問題だが、普段無口な彼が言葉を発していたのだった。

 情に厚いダイスが、それに感化されないわけがない。


「なぁフロイヒ。」


 直ぐにフロイヒの元へと歩み寄り、彼の肩にそっと手をのせる。


「俺やお前も辛いけどよ、今一番辛いのは7番隊の連中だ。組織としての弔事だと、各々が思い思いに偲ぶこともできないだろ。今は俺達が居ない方が、あいつらの心にはいいんだよ。」


 ダイスはそう言い切ると、乗せていた手で彼の肩をトントンとして去って行った。

 去っていく背を、フロイヒはただ立ち尽して見送る。

 しばらくして、ダイスの姿が見えなくなったが、彼に動きは見られなかった。


「俺達だけでは時間がか掛かりすぎるな。すまないが、誰か手を貸してほしい。」


 この状況を察し、フェローは助力を求める。


「だったら……、俺達にやらせてください。」

「俺もやります!」

「私も!」


 一人が反応したのをきっかけに、7番隊の面々が挙って協力を申し出てきた。

 フェローは想定通りとばかりに、わざとらしく咳払いをしてから声をかける。


「これだけ多く志願者がいれば、俺達がいなくても大丈夫だろう。皆、後は任せる。」

「承知しました!」


 最初に志願してきた男が承諾し、それを確認したフェローは、フロイヒと共に魔王城へ向かうため、彼の肩へと手を伸ばした。


「あとは彼らに任せて行きますよ。」

「……。」


 言葉は発しなかったが、フロイヒは頷いて了解を示す。

 フェローがフロイヒを引率するようにして、魔王城へと向かっていった――。

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