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第65.5話① 因縁のヴァルキュリス

第65.5話① 因縁のヴァルキュリス


 悠悠115年。

 これは、人魔対戦で勝利し、妖魔種が繁栄を勝ち取った世界――、女神ドロシーによって第4世界と言う名で管理されている世界の、とある領地での一幕である。


 場所は、頂きの異名を冠する領主によって、厳粛且つ自由奔放に統治されているヴァルキュリス領。

 その、新設されたヴァルキュリスの屋敷の庭で、ブロンドの髪をツインテールにし、小悪魔を連想させるような面積の少ない衣装を纏った領主の妹――、妖魔年齢19歳に成長したヨーク・ヴァルキュリスと、領主の片腕を担う高潔で騎士道を重んじる重装備の戦士――、黒の鎧騎士ことアヴェルツィアが対面していた。


「……。」

「……。」


 一触即発のような雰囲気に、周囲の体感温度は実際よりも低く感じる程だろう。

 その対面と言うよりは対峙に近い様子を、傍らで見守るのはヨークの世話係を任されている、クゥフゥことクーガ・フーレイルという男だ。

 彼はこの状況に、全神経を尖らせて警戒をしている。

 その理由はと言うと――、


「妹君よ、貴殿の父を討ったのはこの私だ。」


 黒の鎧騎士がそう語ったように、ヨークにとって彼が父の仇に当たるからだ。


「我はその報いを受けねばならない。今の貴殿の力であれば、我を断罪する事も出来よう。」


 その仇である彼が、敵対したヴァルキュリス家に生かされていた理由は、まさにこの時の為にある。

 成長したヨークが仇を討ちたいと希望した場合に、それを実現できるよう配慮したのだ。


「抵抗せぬ相手に手出しは出来ぬとなれば、多少なり戦闘の手解きも兼ねよう。我から学び、学び得た時こそ我を討つが良い。」


 そう言って、黒の鎧騎士は漆黒の剣を構える。

 しかし――、


「言っておくけど、あたしは貴方を恨んでもないし、殺すつもりもないわ。」


 決意を固めて身構えた黒の鎧騎士に対して、ヨークは戦闘を望まず、恨みすらも抱いてないと言い切った。

 そして、続け様に追い討ちの言葉を放つ。


「あたしが鍛錬を続ける理由は姉様の為であって、貴方を殺す為に力をつけているんじゃない。自分勝手な敵討ちなんかの為に、姉様の所有物を壊すことの方が愚かだわ。駒は駒なりに役割を果たすべきだし、貴方如きが勝手にそれを放棄しても言い訳?バカじゃないの?そんな分かり切った事すら考えが及ばないなんて、本当に残念過ぎるわ。そもそもあたしの選択を勝手に決めないでよねっ!」


 怒涛の如く、一方的に嫌味を浴びせ続けるヨークは、黒の鎧騎士の反論を一瞬たりとも許さない。

 彼は完全に言い負かされて――、否、言い返す隙を全く与えられなかった。


「ここまで言われては、流石の貴方も形無しですね。」


 黒の鎧騎士が気圧されているタイミングを見計らって、クゥフゥが二人の元へと歩み寄る。


「これは、フーレイル殿。お見苦しい所をお見せした。」

「気配を消して鑑賞だなんて、クゥフゥ、悪趣味よ。」


 先に気付いた黒の鎧騎士が謝罪を述べ、対照的にヨークは軽蔑の言葉を吐いた。


「これは申し訳ない。ですが、事を見守るのも世話役としての務めですので。」


 クゥフゥはそう言って、上手く二人の話しに割って入る。


「世話役の務めであれば、致し方あるまい。」


 その弁明に何の疑問も抱かず、黒の鎧騎士は素直に納得を示し、首を縦に振っていた。


「気配を消すことの反論になっていないわ。後で姉様に言いつけておくから。」


 対してヨークは情状酌量の余地なしと言わんばかりに突っぱね、腕を組んで機嫌を損ねた態度を示す。


「ははは、それは困りましたね。」


 そん彼女の態度にも、反省や困惑の色を全く見せず、クゥフゥは冗談っぽく笑って見せた。


「そう言う所がムカつくのよ。」


 そして、余計にヨークの機嫌を悪化させる。

 この場合、自覚があるからこそ質が悪い。


「お?ヨークとクロは喧嘩中か?」

「どう見ても原因はクゥフゥでしょう。彼はヨークを不機嫌にさせるスペシャリストだもの。」


 そう声に出しながら、青紫色の髪をした二人が歩み寄ってきた。


「確かにそうだ。ヨークの不機嫌の原因は、大体いつもクゥフゥだもんな。」

「そうよ。本当に迷惑だわ。」


 一人はその髪をツインテールに束ね、トパーズの様な瞳が特徴的な女性、ワース・オブレイオン。

 彼女の言葉にヨークは同意を示して頷く。


「損ねた機嫌を埋め合わせていく私達の身にもなって欲しいわ。」

「ちょっと!私も悪いみたいになっているのだけれど!?」


 もう一人は、タンザナイトの様な深い色の瞳が特徴的な女性、アネモネ・リスル。

 彼女の迷惑そうな言葉に対しては、ワースの時とは逆に反論を返していた。


「お二方がいらしたのであれば、お嬢様も近くにいるのですか?」


 ワースとアネモネの姿を見て、クゥフゥはこの場に来ていない、自らが仕える主の所在を伺う。


「残念だが、ソアは今大事なようがあるとかで、部屋にこもって何かやってる。報告が……とか言ってたかな。」

「つまり逢引きね。」


 屋敷の方を見ながら、普通に答えるワースに対し、アネモネは面白半分で冗談を添えた。


「違う……ことも無いけど、もう少し言い方に気を付けろよな。」


 普段、助言や突っ込み役になるアネモネが憎まれ口を叩いている所為か、突っ込みを入れられるタイプのワースが助言役に回っている。


「今日は一段とイライラしているわね。アネモネはいつも働き過ぎなのよ。」


 その珍しい光景に対し、ヨークが深淵に迫るキーワードを口にした。


「はぁ……。本当にいつも……、領地の管理、統合に対する論文の補佐、ここの建築、周辺の開拓に移設の手続き……。誰かさんに押し付けられた仕事でまともに休めていないこっちの身にもなって欲しいわ。」


 深い溜息を皮切りに、アネモネの口から怒涛の如く愚痴があふれ出る。

 皆、それが自分へと飛び火しないように、目を背けるのであった。

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