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第68.5話③ 元勇者

第68.5話③ 元勇者


 リネ協定国カルヴイ領の一室にて、二人の人物が話し合っていた――。


 魔王ラピスの脅威に立ち向かった英雄の一人――、アルテム。

 その過程で大精霊と契約することになった彼は、その代償に人間性の消失――、停滞状態――、端的に言えば不老となった。


 それから長い年月――、彼は人里離れた地に身を潜めていたが、名をアルテミスに変え、再び表舞台へと戻ってくる。

 そこで出会った新たな仲間と共に戦い、今度は妖魔の始祖とされるアスタルを討ち果たしたのだった――。


 しかし、アスタルを討ち果たしたと同時に、彼は海へと転落し永い眠りについた――。

 そして、薄暗い地下迷宮の奥で意識を取り戻した彼は、失った記憶を取り戻す為に地上を目指す。

 道すがら出会った、女神を称するシンシアと、異世界最強を謳う妖魔のソア・ヴァルキュリスと共に大精霊の試練(?)を乗り越え、地上へと帰ってきたのだ。


 地上に戻ってきた彼は、アスタルを倒した旧友との再会や勇者との接触、更には魔王も味方につけ、無事に記憶を取り戻す。

 そして、女神が語った神になる手前の存在――、聖者として世界を脅威から守護する役割を担うことになった人物だ。


 もう一人はヨヅキ・ミヤシロと言う少女である。

 平凡な女学生だった彼女だが、30年前にレオルドと同じく異空間に巻き込まれ、異世界から転移してきたのだ。


 転移者は皆勇者とされ、英霊の加護を持つという特性がある。

 彼女も例外なく、戦国時代の猛将、スメイシカの加護を授かった。

 自身の剣技と英霊の加護を巧みに使い、この世界で生き抜く為とアルテミスのサポートをする為の技術を磨き上げている。

 更には、聖者であるアルテミスとの眷属契約を結んだことで、彼の力の一部をその身に宿すこともできた。

 その代償として、彼と同様、停滞状態となっている。


 そんな二人は、女神から聞かされた世界の終焉――、ラグナロクを阻止する為、各々の目的を果たすために別行動を取っていた。

 別行動をとって数年――、久々に出会うことができたこの機に、経過の報告と情報共有、更には最近起きた異変から、今後のことに関して話を進めていく――。


「【探求の羅針】に反応があったのは、ここよりほぼ真っすぐに西の方角だったな。」


 アルテミスの言葉に、ヨヅキは頷いて答える。


「ええ。ソアから預かったこの道具が確かなら、新たな特異点の出現……、終焉を引き起こす可能性を持った者か、或いは新たな勇者が転移してきた可能があるわ。」


 使用者自身には反応を示さない為、【探求の羅針】を所持していたヨヅキには詳細までは掴めなかったのだ。

 それを確かめるべく、ヨヅキは【探求の羅針】をアルテミスへと渡す。


「なる程。恐らく後者だな。その特異点の反応とヨヅキの反応が良く似ている。」


 受け取って直ぐに、アルテミスは特異点の反応から酷似していると結論付けた。

 それを聞いて、ヨヅキは彼に提案する。


「あたしが接触してみてもいいかしら?」


 特異点が何かわからないなら自身が接触すべきだと考えていたが、アルテミスは頷き彼女の提案に同意を示した。

 確実な接触の為には【探求の羅針】が必要になるだろう。

 そう思ったアルテミスは、再び【探求の羅針】をヨヅキに渡そうとするが、ヨヅキは首を振ってそれを拒否した。


「場所は分かったし、もう何日も同じ所から動いてないわ。それがなくても目的の人物には接触できると思う。」


 ヨヅキの見解が的を射ている為、アルテミスは何も言わない。


「それにね……。」


 そして、もう一つ言っておく事があると、ヨヅキは彼に告げる。


「ソアから貰ったんだから、大切なプレゼントを他の女……、ってあたしにだけど……、渡した事、知られたら絶対怒ると思うわよ。」


 女心を理解していないであろう彼に、ヨヅキなりの忠告を伝えたのだが――、


「ああ……。かなり怒っていたな……。」


 時すでに遅く、どうやらこっ酷く怒られた後の様だった。


「はぁ……。まぁ、同じ事されたらあたしも怒るけどね……。」


 最後の一言はアルテミスの心に深く突き刺さる。


「……、すまない……。」


 ソアに対してだけでなく、アルテミスはアドバイスをしてくれたヨヅキにも申し訳ない気持ちになっていた。


「終わったことをどうこう言っても遅いし、これからの事を話しましょう。」


 話の腰が折れてしまったのをヨヅキが引き戻し、特異点に対する話し合いが強引に再開される。

 ヨヅキが主導権を握ったまま、二人の会話は朝方まで続くのだった――。

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