第62.5話① レイラの歴史調査
第62.5話① レイラの歴史調査
新生115年。
かの大戦から優に100年以上――、人間種と妖魔種の棲み分けも確立しているこの世界で、未だ反妖魔を謳うローグリフ協定締結の国々――。
その筆頭とも言える国家がベロックスである。
大陸の中央に位置するこの国は、古の戦国期には多くの戦が起こった地でもあった――。
立統15年頃。
西にはアステイト、東にはアスティアと呼ばれる地方の境目で、周辺国を武力侵攻でまとめ上げたメノウ国が覇権を握った時代。
ベロックスの前身となる二領――、メノウ国より東のベロ領と、その北に位置するロックス領は、メノウ国の属国として東側に面しているアスティア平原からの侵攻を阻止する役割を担ってた。
当時、メノウ国と同等の力を有していたネウス国はアスティア平原よりも更に東の地にあった為、ベロとロックスが戦渦の真っただ中にあったことは想像に易い。
事実、多くの対戦がアスティア平原では繰り返されている。
「長閑で広大な平原だけど、あの場所を開拓しない理由は何なのかしらね。」
戦死者への配慮だろうか、或いは祟りを恐れての事だろうか、今尚アスティア平原は未開拓のままとなっていた。
これでは、領地拡大も兼ねた人間種による妖魔領域進行が、半ば強引に思えてしまう。
「手の届くところには手をかけず、敢えて危険を冒してまで侵攻する理由は何?」
私には理解できない。
かの大戦に参加した私ですら、その光景を前にして疑問が生まれたのだ。
侵攻というより、妖魔種への異様な執着にも思える。
「これは掘り下げていく必要がありそうね。」
そう呟いて、私は再び筆を走らせた――。
創霊10年頃。
立統26年にメノウ国がネウス国に滅ぼされ、メノウ国随一の将軍、メルクトがネウス国に取り込まれた後の時代。
ロックス領より北の地にある皇国、旧ロザリオ皇国が内部分裂を起こしたのだ。
これを南北ロザリオ抗争と言う――。
革命派であるヨーハン派が決起を起こし、正統派のアンネス派はこれを迎え撃った。
しかし、革命派の勢いが止まらず、正統派は皇国の南へと追いやられる。
正統派の滅亡を阻止すべく、正統派の教皇候補と取り巻きはロックス領へと身を隠した。
これがローグリフ協定の始まりにして元凶となる――。
正統派の教皇候補をベロ領へと引き渡し、ロックス領は革命派の追撃を阻止することに務めた。
一方のベロ領は、正統派の教皇を安住させるために新たな教会を建設する。
その教会が、現在のベロックス国の中心である教皇府へと成りうる事を、この時誰が予測できただろうか。
結果として二領は結託し、教皇の権威を用いる選択を下す。
そして、ベロックス建国の前段階である、南ロザリオ皇国がここに成立したのだ。
丁度その頃、ベロ領の南東に位置するマナリア領と、そのマナリア領から更に南のハイム領、リーネス領、マスマッド領の四つが合併し、マナハイム国を建国していた。
ベロ領やロックス領と同じく、敗戦の賠償で領の維持がままならなかった事が発端である。
各々の領主は合併により活路を見出そうとし、その流れでマナハイム国も南ロザリオ国の連合に加盟する事となった。
南ロザリオ連合と名称を改めたことで、旧ベロ領と旧ロックス領を統合し、ついにベロックス国が誕生する。
創霊21年。
この年、ネウス国成立後の暦である立統を30年で打ち切り、ハイデンベルグ王国成立を元年とした新たな暦が設定された。
強国ネウスが下剋上に遭い、ハイデンベルグ王国とカルヴァイン王国に引導を渡された時代である。
ベロックスの所属する南ロザリオ連合もネウス国攻略に助力し、多くの国々が結束した事によって成し得た結果であった。
最大の功績を生んだ、大陸の北東に位置するハイデンベルグ王国と南東に位置するカルバイン王国。
二国を筆頭に、各国は各々に結びつきを強めていった。
ベロックス国、サグリフ国、マナハイム国は南ロザリオ連合から中央連合国と称されるようになり、その西にはアステイト王国を筆頭に、ナバーロ国、シャロ国がアステイト連合国と称されるようになる。
連合国内は勿論、連合国外との外交も盛んになったことで国交が拡充していった。
物や人が流出と流入を繰り返し、各国は各々に発展を遂げていく。
これにより、農耕、水産業、精霊学研究所の創設など、多岐に渡る分野で著しい成長を遂げていくこととなった――。
「この時点では、まだ妖魔種は存在していなかったみたいね。」
切りのいいところで一言吐き、一度体を起こして伸びをする。
そして、また直ぐに資料の読み漁りと記録を再開した――。




