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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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ここはどこ? あなたはだれ?(5)

 


 目の前には、人生で初めて見た黒い迷彩柄の車が止まっている。


 大きさはミニバンくらいで、角張ったフォルムがいかにも軍人さんが乗っていそうな車だ。

 教えてくれた人によると、この車は高機動車こうきどうしゃと呼ぶらしい。



 あの後、勤務中に魔物が現れて去った直後、戸坂さんに言われるがまま「000」へ通報し、魔物討伐隊が到着した。


 戸坂さんとは別々に魔物討伐隊の隊員の一人から事情聴取を受けたが、魔物について全くと言っていいほど無知な私が答えられることはほとんどなく、すぐに解放された。

 ちなみに対応してくれた人はすごく丁寧で、すごく個性的な見た目だった。


 少し距離のある戸坂さんの方を見ると、あちらはまだ終わっていないようで。手持ちぶさたになった私は目の前にある見慣れない車を見学させてもらっていた。


 一応の豆知識として、自衛隊も同じタイプの車に乗るらしいのだが、魔物討伐隊は黒色、自衛隊はカーキ色を基調としているという違いがある。

 と、車を眺めていたら、ちょうど助手席から降りてきた魔物討伐隊の青年が教えてくれた。


「ちなみに軍服も、自衛隊はカーキ色、魔物討伐隊は黒色と違いがあるのですが、デザインも少し違いがあって――」


 私が魔物討伐隊に興味があると思ったのか――ないこともないけど――目を輝かせて語られる熱のこもった解説をふむふむと頷きながらも、つい目線は青年のある特徴的な一点に固定されてしまう。


 それは、眉上で横一直線に切り揃えられた綺麗な前髪、のそのさらに上。

 頭に、ツノが生えていた。


 角と言っても動物の頭についてるものとは違う。

 形は昔話に出てくる鬼の角のようで、銀色の金属めいた質感だ。

 角の根元をよく見ると、角と同じ質感のカチューシャのような台座に固定されていた。


 これは、ファッションなのかな。さっき事情聴取を担当してくれた人と同じ前髪だし…。

 もしかしたらこの世界では、この前髪もカチューシャもお洒落なのかもしれない。


「あれ? もしかして未来ちゃん?」


 この世界でのお洒落事情について考えていると、どこかで聞いた覚えのある声に名前を呼ばれて振り返る。


 そこには、昨日出会ったばかりの小鳥遊さんと喧嘩(?)をしていた黒髪の男性がいた。

 名前は…なんだったっけ?


 最初、不思議そうに私を見ていた黒髪の男性は葵さんに視線を移すと、何かを察したかのように表情をにやにやと緩める。


「こんばんは。どしたんこんなとこで? …あっ! あおいー仕事中にナンパはあかんで」

「違いますよ! 按田さんこそ名前呼びしてますけど、馴れ馴れしいと思います」


 そうそう。そう言えば按田さんって呼ばれてたんだ。

 按田さんの発言に、葵さんがジト目になった。


「あーごめんな未来ちゃん! あの二人がそう呼んどったからつい!」

「いえ、そのままでも大丈夫ですよ」


 ゆるい笑顔とともに片手を立てて謝られたが、不思議と名前で呼ばれても不快感がなかったので首をふる。


 あの二人って、小鳥遊さんと紗良木さんのことかな?

 小鳥遊さんは最初は私を苗字で呼んでいたが、紗良木さんにつられたのか最後は名前呼びになっていた。


 まあ、呼び方くらいなんでもいいんだけどね。もう関わることもないだろうし。

 緊急通報先の「000」を覚えたので、机の引き出しにしまった二人の名刺を出す機会もなさそうだ。


「もしかしてお知り合いでした?」

「んー、顔見知り? それより今日、技術班の手伝い言われてんけど! 俺に機器操作は無理や、ややこしすぎて頭いたなるわ。ってことで葵、交代」

「できるわけないじゃないですか。…つまり、サボりたくて出てきたんですね。戻らないと葉月さんに怒られますよ」

「そーいや未来ちゃん。また魔物に襲われたんやって?」


 葵さんの言葉を平然とスルーした按田さんが私に話を振ってきたことで、葵さんのジト目レベルが上がった。


 二人の様子に苦笑しつつ、先ほどの事情聴取と同じような説明をする。


 今回は襲われたわけではなく、遭遇しただけということ。魔物も店内を一周したらすぐ出て行ったので、何もなく無事だったこと。

 私の話を聞いている間、按田さんは微妙な顔をしていた。


「聞いたところビシャやって? また珍しい魔物ヤツが現れたなぁ。しかも魔力源地まりょくげんち感知レーダーの感知力を下回るレベルの()()の魔物って…」

「あれ、やっぱりレーダーの故障じゃなかったんすね」

「あったり前でしょ! そんな簡単に故障なんてされてちゃ困るって」

「イテっ!」


 聞き慣れない言葉が続くが、私が質問する前に按田さんの顔がかすかに前にぶれる。


 後頭部をさすりつつ振り向いた按田さんの先には、葵さんと同じ角を生やした黒髪のショートカットの女性が立っていた。

 …やっぱり角のカチューシャ、流行ってるのかな。


「葉月ちゃん! 外出てきてどないしたん?」

「どーしたもこーしたも、アンタを回収しに来たのよ。女の子引っ掛けてないで仕事しなさい! 葵、あんたもさっさと立花たちばなのとこ戻りな」

「は、はい!」


 葵さんは私に会釈すると、慌てて店内へ入って行く。


 葉月さんと呼ばれた女性は、葵さんが去るとこちらに顔を向けてにこりと笑った。


「騒がしくてごめんね。大丈夫だった? 変なことされてない?」

「ひどいなぁ葉月ちゃん。そんなんするわけないやん。それに未来ちゃんは二日連続魔物に遭遇してんねんで? そら心配して様子見に来るんは仕方ないやろ?」

「どうせアンタがサボりたかっただけでしょ?」


 葉月さんは既視感のあるジト目を按田さんに向け、ため息を吐く。


 そういえば、確かに私は二日連続魔物に遭遇していたが、それって珍しいのか。


「…あの、聞きたいことがあるんですが」

「ええよ。何でも聞いて?」


 葉月さんは即答した按田さんに目を向け、また一つため息を吐いたが、「答えられることなら」と頷いてくれた。


「一般的に町に現れる魔物の中で、低級は少ないんですか?」


 先ほど按田さんは、ビシャのことを「珍しい、低級の魔物」だと言っていた。


 それは低級の魔物が現れることが珍しいのか、それともビシャが珍しいだけなのか。町に現れる一般的な魔物の危険度が知りたかった。


「…」

「いやぁ、よく現れるんは低級から中級が多いで。たまに上級やな。上級になると避難警報がいつ出てもいいように準備しとかなあかんレベルやけど、中級以下でも全然危険やねんで」

「?」


 やっぱり中級も上級もいるのか。

 えっと…つまり一般的に町に現れるのは低級から中級だけど、低級とか上級に関係なく魔物は危険ってことを言いたいのかな。


 動物に例えると子熊と親熊くらいの違いで、どっちも危険だよ、みたいな?


 私があまり理解できていなかったのが伝わったのか、按田さんは続けて説明してくれた。


「そもそも、魔物の魔力量の多さと知性の高さは比例してるねん」

「まりょく…」


 急に出てきたファンタジーな言葉に、思わず目を瞬かせる。

 そういえば、昼間に魔物について調べた時に、『魔力』と言う言葉が存在していたのを思い出した。


 按田さんの説明が途切れたところで、続きを話してくれたのは葉月さんだった。


「魔物は、魔力が多ければその分知性も高いの。魔力が多い魔物は確かに危険だけど、知性も高くて刺激しなければ人を襲うことは少ない。むしろ、魔力が低くて知性も低い魔物の方が、積極的に人を襲う傾向があるの。それと、魔力が少なくても魔物は魔物。危険には変わりないわ」


 そして、もちろん一部例外は存在していて、その一部にビシャが含まれるようだ。

 ビシャは魔力量がかなり低い魔物だが、刺激しなければほとんど人を襲う事がなく、滅多に現れることもない魔物のため知性については未知数だそう。


 へぇー、また一つ魔物について詳しくなったよ。

 一人で頷いていると、怪訝な顔をした葉月さんが口を開いた。


「思ったのだけど、もうちょっとニュースとか見たほうがいいわよ。今の時代、テレビでよく魔物特集とか発生した魔物について解説してるから、一般的な知識は身につくわ」

「…はい、そうします。ありがとうございます」

「まあまあまあ。聞いたところ未来ちゃん、ラジオすら持ってないらしいやん」

「はあっ!?」


 目を大きく開いて、信じられないものを見た顔をされた。

 …あれ、この反応どこかで覚えがあるな。



 その後は、葉月さんにも今朝聞いたばかりのラジオの重要性を説かれ、早めに買いに行こうと決意した。


「次の休みに買いに行ってきます…」

「あ、買いに行くんやったら『燈ノ万屋(とうのよろずや)』がいいと思うわ!」

「ちょっと…!」

「とうのよろずや…?」


 初めて聞いた店の名前だ。

 按田さんは「ちょっと待ってな」とポケットからメモ帳とペンを取り出す。

 さらさらとペンを走らせたページを千切ると、そのまま差し出しだされた。


 受け取って内容を確認すると、店の名前や住所、営業時間まで書かれている。


「そこ、値段も手頃やしおすすめ! 候補にでも入れといて」


 そう言った按田さんはにこにこと笑顔で、隣の葉月さんはなぜか微妙な表情をしていた。

 まだ聞きたいことはたくさんあったが、事情聴取を終えて戻ってきた戸坂さんに声をかけられる。


 ちょうど魔物討伐隊の二人もそろそろ仕事に戻るようで、お礼を伝えると、軽く手を振って去って行った。




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