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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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ここはどこ? あなたはだれ?(3)

 


 アパートに帰ってきたのは、お昼を少し過ぎたころだった。


 病院を出ると小鳥遊さんがタクシーを手配してくれていたので、ありがたく乗せてもらった。

 ちなみに私の自転車は、すでにアパートの駐輪場に置いてくれているらしい。


 家に入るとテレビが付けっぱなしで、台所には料理をしようとIHに置かれたフライパンやお皿がそのままで、その光景になんだかほっとした。

 たった一日ぶりなのに、ずいぶん久しぶりに帰ってきた気がする。きっと一日が濃すぎたのだ。


 少しお腹も空いていたので、カップ麺を食べることにした。ついでに携帯で〝魔物について〟と検索してみる。



 【魔物とは、古くから存在する人を襲う危険な生物である。時代によっては、「化け物」や「物怪もののけ」とも呼ばれていたが、現代では魔物と呼ぶのが一般的だ。

 魔物の種類は二百種類以上と言われているが、現代では絶滅したと言われている種類や新たに発見された種類などもあり、現在生息する種類の正確な数の把握は難しい。地域や環境によって、発生する魔物が異なる。】



 つまり、この世界では昔から人を襲う妖怪が存在するのは当たり前で、その妖怪のことを魔物と呼ぶのかな。

 続いて、関連ページにあった〝魔物の生息地域について〟を開いてみた。



 【魔物は地域や環境によって発生する種類が異なるが、現代の技術では発生現を辿ることは不可能。それも、魔物は何もない空間から突然現れるからだ。

 魔物が現れる直前、その場所には『高魔力濃度のエネルギー』が集まることが分かっている。そのため、発生源の特定は可能だが、高魔力濃度のエネルギーが集まる原因や、そこから魔物が発生する理由については現在も調査中だ。】



 ……高魔力濃度のエネルギー? 魔力って…もしかしてこの世界って、魔法とか使える感じ? ファンタジー要素が増えたよ!


 表面上は冷静を装うものの、若干わくわくする気持ちを抑えきれず、微かに震える指で〝魔法について〟と検索する。



【魔法とは、人間の力ではなしえない不思議なことを行う術。一般的には()()()()()()()()など、さまざまな文脈で描かれています。】



 ……うん。まあ、そうだよね。知ってたよ。この世界はファンタジーのようでファンタジーほどファンタジーしてないんだよね!

 だから別に、ぜんぜんがっかりとかしてないから…!


 カップ麺 も食べ終わってしばらく、ネットサーフィンにも飽きてきて、仮眠をとることにした。


 コンビニの夜勤の私の勤務時間は夜十時から朝の七時までなので、それまでに仮眠をとらないと仕事中が眠たすぎるのだ。





 --------




 午後九時三十七分。

 この時間の田舎道は、周囲は暗闇でぽつぽつと小さな街灯だけが頼りで、初めて歩いた時は小石に何度も躓いていた。


 お気に入りの赤いマフラーを鼻まで覆い、今では慣れた道を黒い厚手のジャンパーのぽっけに両手を突っ込んで歩く。

 昨日着ていたコートは鎌鼬の被害であちこち破けていて、箪笥の奥から急遽引っ張り出してきたジャンパーは、少し埃っぽいにおいがする。


 今日はなんだか歩きたい気分だったので、バイト先まで歩くことにした。もちろん私も学んでいるので、テレビやネットニュースでしっかり魔物警報を確認済みだ。


 今日は関西の方が魔物警報が鳴り止まないらしい。私の住む県周辺は比較的落ち着いていた。

 たまーに『蝙蝠男こうもりおとこ』の落下にご注意下さい、って注意報が天気予報のニュースかのように流れるくらいだ。


 実際に蝙蝠男が落ちてきたら怖すぎて叫ぶ自信あるけど。警報ではなく注意報なので大丈夫だろう、きっと。


 ちょっとだけ不安になって空を見上げると、人工灯が少ないからか、数えきれないくらいの星がきらきらと輝いている。

 この町に住み始めた時からの私の好きな景色の一つだ。


 今までこの町で見てきた景色と同じ、綺麗に星が輝く空を見ていると、昨日起こったことは夢だったような気がしてくる。

 魔物が存在したり、その討伐隊が存在したり…全部、夢の中の出来事のように思えた。





「…………うわぁ」


 そう思えていたのは、バイト先のコンビニが見えてくるまでだった。


 コンビニが、フェンスで囲まれていた。

 まるで某ゾンビ映画のように、周りからの侵入を拒むかのような頑丈なフェンスが、コンビニの周りを一周ぐるりと囲っている。

 コンビニ入口の正面、道路と隣接する部分に、車が一台通れるくらいの扉が開いていた。


 コンビニのガラス張り部分の上側には全てシャッターが付いていて――今はシャッターが上がった状態だ――扉部分のガラスは一層厚くなっている。


 そして、ふと思い出した。そういえば昨日寄ったスーパーにもガラス張り部分は全てシャッターが付いていたし、扉も分厚かった気がする。

 改めて、私がいた世界より物騒だと思った。




 ここで、突然だがシフトの交代や、シフトが一緒でよく会うことのあるバイトメンバーを紹介しようと思う。


 まずは、私と同じ夜勤シフトの戸坂とさかさん。

 たぶん二十歳後半くらい。無口でちょっと尖った感じのある青年で、話しかけづらい。

 両耳にいくつものシルバーやトゲトゲしたピアスが付いていて、関わりづらい人ではあるが仕事はできる人だ。


 次に、十時まで勤務の高校二年生の秋田令美あきたれみちゃん。

 綺麗な黒髪を耳の上でツインテールに結んだ小柄な子だ。くりっとした瞳と丸みのある頬で、リスみたいに愛嬌のある顔だ。人懐っこい性格で、お客さんからもよく話しかけられている。

 秋田ちゃんはお喋りが好きみたいで、交代の時には私に学校のことなど色々話してくれる。


 それから、百田桃子ももたももこさん。

 五十歳くらいのパートの人で、いつもかけている丸い銀縁メガネをかけたおっとりした人だ。無愛想ではないがお喋りでもなくて、あまり自分からは話さない。

 よく秋田ちゃんとシフトが一緒で、交代の時に顔を合わすことが多い。


 他にも店長や週に一、二回交代時に顔を合わせる人もいるが、今日顔を合わせたバイトメンバーはこの三人だ。


 ところで、なぜ急に今日顔を合わせたこの三人の紹介をしたかというと――。


「っちース。秋田ちゃんオツ〜。あ、流田ながれだちゃんオハヨ〜」

「あ! 戸坂さん、未来ちゃん、おはようございます!」

「おはようございます。お先に失礼しますね」


 その三人が、いつもとちょっと変わっていた。


 まず、一番最初に声をかけてくれた戸坂さん。

 いつもは私から挨拶をしても軽く頭を下げて終わりだったのに、今日は向こうから声をかけてくれた。

 というか話し方がなんか変…。


 次に、秋田ちゃん。

 綺麗な黒髪が金髪に染められていた。化粧もしっかり描かれたアイラインに、瞼にはぎらぎらした濃いアイシャドウを乗せていて…一言でいえば、ギャルになっていた。


「秋田ちゃん、髪染めたんだね…」

「? 何言ってんるんですか、令美れみはずっとこの髪色じゃないですか」

「そ、そうだった、ソウダッタ…」

「オレも秋田ちゃんのこの髪色以外見たことないケド、見てみたいなあ〜」


 秋田ちゃんには怪訝な顔をされ、無愛想だったはずの戸坂さんにはへらへらと笑顔を向けられ、ますます私は混乱した。


 ちなみに百田さんは、銀縁の丸メガネが黒縁の丸メガネに変わっていたくらいで、二人に比べれば微々たる変化だ。

 そしていつも通り十時になるとすぐに、三人で話している横を微笑みながら会釈をして早々に去っていった。


「百田さんのメガネ、銀縁じゃなかった…」

「前は銀縁だったんですか? 令美は黒縁しか見たことないかも」

「オレも〜」

「………見間違いだったかも」

「未来ちゃん大丈夫ですか? 疲れてるんじゃないですか?」


 くすくすと笑う秋田ちゃんの性格は、話している感じは変わっていない気がするが、口元を覆った指先には今までなかったネイルが塗られていた。


 …やっぱり、ここは異世界なんだろうか。今まで私が出会った人たちがいても、別人なのだろうか。


 私が今まで関わってきた人と名前や顔が同じだから、見た目や性格が違うことに違和感を感じる。


「ねぇ、秋田ちゃん。今日の私ってどこかいつもと変わったところはない? み、見た目とか!」

「えー? 言われて見ればいつもと違う気がします…? うーん、どこがと言われれば難しいんですけど。あ! 前髪三ミリ切ったとかですか!?」

「…あ、うん。実はそうなの…。さすが秋田ちゃん、よく気づいたね!」


 ふと、私も周りの人たちに変化を感じているように、周りの人たちも私に変化を感じているのではと思ったのだが。


 よかったのかは分からないが、この感じだと周りから見た私は何も変わってなさそうだ。


 私の頭の中にある少ない知識で考える。

 私が今までいた世界とよく似ているこの世界は、いわゆるパラレルワールド…とか。知り合いの人も、性格や見た目がちょっと違うだけで、ちゃんと存在しているし。


 ただ気になるのは、この世界の『私』はどうなっているのか? 私がいた世界の『私』はどうなったのか? 私は元の世界に戻れるのか?


 まぁ、色々思うところはあるけれど、考えたところで分かるはずもない。そもそも、この世界が本当にパラレルワールドなのかもわからない。

 もしかして私の頭がおかしくなってしまった可能性とか……やめよう、これ以上考えると暗くなりそう。


 とりあえず今は、私が今いるこの世界に馴染むことだけを考えよう。




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