表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

私と『私』と(1)

 


『だって君、流田未来じゃないでしょ?』



 何を言っているのか、理解できなかった。


「どういう、ことですか……」


 声が掠れる。

 笠松さんはゆっくりと手を上げると、私の体に指を向けた。


「んー、そういうのいらない……って言おうと思ったけど」


 指をくるくるまわしながら、首を傾げる。


「もしかして、記憶…食べられちゃった?」


 怖い、はずなのに。

 それでも私は、何かを知っているこの人から、何を知っているのか知りたかった。


「私、は、流田未来です」


 私の言葉に、笠松さんが目を細める。


「違うよ。だって流田未来の魂は、――()()()()()が、食べちゃったんだもん」


 一瞬、息をするのも忘れた。


 この世界に来た時、何度か考えたことがある。

 私が、別の世界から来たのだとしたら。

 この世界の『私』は、どうなったのか。


「魂を、食べたって…?」

「うん? そのままの意味だよ。僕の友達の『小鬼こおに』が流田未来の魂を食べたから、そのうち肉体も死ぬはずだったんだけど」


 そこで、一度言葉が切れる。

 笠松さんは眉を寄せながら、考え込む仕草をした。


「なぜか肉体がまだ生きてるし、別の魂が入ってる」


 そして「不思議だよねぇ」と呟いた。


 魔物に魂を食べられると、肉体は死ぬ? じゃあ、この世界の『私』は……。

 呼吸が浅くなり、胸の中が重くなる。


 ふと、笠松さんの視線がシャッターの閉まった窓の外に向けられた。


「まあ、何も知らないならいいや。どうやったのかは知りたいところだけど、時間もなさそうだし」


 笠松さんは立ち上がり、怪しげな道具がたくさん置かれた場所へ歩くと、私に背を向けて何かを掴む。

 振り返った時には、手には小さな刀があった。


 私の視線に気づいた笠松さんは苦笑する。


「さすがに今殺すなんて、意味のないことはしないよ。ただ、ちょっとだけ友達に()()()をあげたくて」


 ()殺さないだけで、その刀で何をされるのか。


 笠松さんが近づいてくる。

 恐怖で、身体が震えた。


 ――それでも。私は思考を止めなかった。

 刀から目を外さずに、どうやったら奪えるのか、部屋に武器になりそうなものはないか、必死に戦い方を考える。


 笠松さんの刀の刃に写る私の瞳は鋭く、どこか他人のように見えた。


 その姿が次第に大きくなる。

 ゆっくり、こくりと喉を鳴らした。



 その時。窓の外で何かをひっかくような音がした気がした。


 ――パキッ

 続けて木の軋む音が、はっきりと聞こえた直後。

 その場に、衝撃が走った。



「っ!」


 とっさに目を瞑っていた私の体が、ふわりと持ち上がる感覚。


 薄目を開けると砂埃でぼやけていて、外の空気に触れた瞬間、視界が晴れた。

 森の中なのか、草木が広がるだけで周囲には家も道も見当たらない。


 顔を上げると、私を持ち上げていた人と目が合った。


「……戸坂、さん?」


 戸惑いながら呼びかけると、彼は明るくにっこりと笑った。


「流田ちゃん、もう大丈夫だヨ! ご主人とオレに任せロ!」


 …もう一人の戸坂さんか。


 抱き上げられたまま、しばらく緑の景色が流れる。人一人を抱えて走ってるとは思えないスピードだ。


 少しすると、ひらけた場所に複数の影が見えた。


「おいきつね! さっさとこっちを手伝え!」


 声の方に視線を向けると、そこには刀を持った戸坂さんがいた。

 戸坂さんのまわりには、一週間前にも見た小鬼が三体。


「ご主人、まだやってたの」

「ってめぇ! 俺は普通のニンゲンだって何回も言わせんな!!」


 “狐”と呼ばれた戸坂さんは、少し離れた位置で私を地面に下ろすと、小鬼に目を向ける。


「…っ!」


 細めた眼が赤く光り、舌なめずりをする様子に、背中にゾッと寒気が走った。


 そして、私の瞬きひとつした瞬間。“狐”と呼ばれた彼は、戸坂さんの隣に立っていた。



 それからはあっという間だった。


 小鬼は“狐”と呼ばれた戸坂さんの手で体を貫かれ、事切れていく。

 目を赤く光らせた戸坂さんは、人間では考えられない量の涎をぼたぼたと垂らし、すでに動かなくなった小鬼を濡らした。


 私がその様子に口元を引き攣らせていると、それに気づいた刀を持った戸坂さんが嫌そうな顔をする。


「……おい、狐。俺の姿で食べるなよ」


 戸坂さんがそう声をかけると、一瞬視界が歪む。

 涎を垂らした戸坂さんから、涎を垂らした狐に姿が変わった。

 サイズ感はそのままで。


 ……でっかい狐だ。しかも魔物、食べるんだ。


 ばりばり、ぐちゃぐちゃ――と聞いてはいけないような音を立てて、見た目は可愛らしい巨大な狐が、美味しそうに魔物を貪る。


 何本も生えた尻尾をぶんぶんとゆらし、アーモンド型の目は瞳が消えるくらい、満足そうに細められていた。


 その様子を見て戸坂さんはため息を吐くと、私に近づいてくる。


「どうしてここに……?」

「……悪い」


 呟くように小さな声で、なぜか戸坂さんが謝罪を口にする。

 そして私の前でしゃがみ込むと、手足のロープを切ってくれた。


 聞きたいことはたくさんある。だけど、私が口を開く前に、こちらに近づく足音が聞こえた。


「あーあ、また減っちゃった。僕の友達をそんな簡単に殺さないでよ」


 声の方へ視線を向けると、笠松さんと、その隣には小鬼が二体。


「……そんなに堂々と、何体も魔物を呼びまくってるなら警報は鳴りまくりだな。今ごろ魔物討伐隊がこっちに向かって来てるぞ」


 戸坂さんの「魔物討伐隊」という言葉に、不思議と安心感を覚える私がいた。


「別に、力のない祓い屋もどきが何人来ようとどうでもいいさ」


 笠松さんは特に気にする様子もなく、肩をすくめる。

 そして、私に視線を向けた。


「それよりさ、哨悟。その子、誰だと思う? 環が記憶を消して、別の魂を入れたみたいなんだけど」

「……っ」


 肩が跳ねる。

 戸坂さんは顔を顰めて、私に視線を向けた。


「別の魂には見えないけど?」

「…哨悟はほとんど呪力しか視えないもんね」

「それはお前も同じだろ」


 その言葉に、笠松さんはゆっくりと唇の端を持ち上げる。


「そうだね。でも僕にはわかる。だって――」




 ――それは、ほんの一瞬の出来事。



 大きな鬼の頭が、すごい勢いで目の前に現れて。

 笠松さんを、食べた。


 鬼の頭はその勢いのまま通り過ぎ、どこかへ去っていく。


 あまりのスピードにはっきりとは見えなかったが、あれはあのお祭りの日に現れた、巨大な鬼の頭とそっくりだった。


 私も、戸坂さんも、目の前で起こったその光景に、目を大きく開いて固まっていた。


 戸坂さんが眉を寄せて舌打ちする。

 魔物が現れた方へ顔を向け、私もつられて視線を動かした。



「ご協力、どうもありがとう。あら哨悟、ひさしぶりね! 今日はちゃんとわたくしと目を合わせてくれるのね。嬉しいわ!」



 黒い手袋をした両手を合わせてはしゃぐ哨子さんと、その隣には無表情の環さん。




 かすかに遠くで、魔物討伐隊の乗る高機動車から発せられるブザー音が聞こえた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ