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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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それぞれの事情(2)

 


 私の理解が追いつく前に、戸坂さんは話を続けた。


「実際見るとほんとに呪力を感じるし、魔物かと思ったけど数珠に触れてもなんともないし……」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私って魔物なんですか!?」


 我慢できずに戸坂さんの話を遮る。

 もう一度、はっきりした答えが聞きたかった。


「…魔物じゃないよ」

「…………よかったぁ」


 短くきっぱりと否定された言葉に、体中の力が抜けそうになった。


 人として生きてたのに、異世界に来て知らない間に魔物になっていたとかだったら怖すぎる。


 安心する私に、戸坂さんは続けた。


「だいたい、魔物ならあの数珠には触れないから。まあ、俺も確信したのはその時だけど」

「……そうだったんですね」


 まさか、戸坂さんに魔物と疑われてたなんて。


「でも、どうして流田さんに発生したばかりの魔物と似た呪力を感じたんだろ。何か心当たりはない?」

「…いえ、わからないです」

「そうだよね…」


 一瞬、正直に話すか悩んだが、結局私の口から出たのは否定だった。


「私は別の世界から来ました」なんて言っても、どうせ誰も信じない…。


 話がひと段落ついたところで、最後に戸坂さんは私の目をまっすぐ見据えた。



「一応言っとくけど、呪術師についての話はとにかく誰にも話さない方がいい。呪力を持たないくせに呪術師を名乗る、()()()たちに消されたくなければね」



 ()()()という言葉に、以前聞いた沙良木さんの言葉を思い出す。



『呪術師と関わるのは辞めた方がいい。どれだけ善人ぶってても、あいつらの中身はただの狂信者なんだ』



 二人の言葉は、同じようで違っていた。


 ……あれ。そういえば、沙良木さんはどうして私が呪術師と関わってるって思ったんだろう。

 もしかして、監視とか…されてないよね?


 背中がふるりと震える。

 なんだか怖くなってきたので、それ以上考えるのはやめた。





 退勤後、今日は徒歩で通勤していた私はバス停に向かっていた。


「ちょっと、そこの貴女」


 いつもより早めにコンビニを出たので、バス停には少し早く着きそう。


 念のため時間を確認しておこうと、歩みを緩めて鞄の中の携帯を探す。


「ちょっと、聞こえていまして?」


 携帯を取り出して画面を開くと、


「ちょっと! わたくしの声が聞こえませんの!?」

「わっ!? ……あ、」


 突然、携帯を持つ手を掴まれる。

 驚いて顔を上げると、目の前には久しぶりに見る、ゴスロリファッションに身を包んだ女性がいた。


「貴女…まさかわたくしの事を忘れていたのではなくて?」


 こんなに個性的な人を忘れるわけがない。

 心の中でそう思いながら、不機嫌そうに眉を顰める哨子さんにはとりあえず軽い笑顔を向ける。


「もちろん覚えてます。…お久しぶりです、哨子さん」

「あらそう。なら、わたくしの聞きたいことはわかっているわよね?」


 片眉を上げて私を見る哨子さんは、今日も日傘をさしていた。

 小ぶりなリボンのついた真っ黒の日傘を、手元でくるりとまわす。


 えっと…、哨子さんが聞きたいのは、戸坂さんのことだよね。


「はい。詳しい答えは聞けていないんですけど…」


 私が答えると、哨子さんの真っ赤な唇の端があがった。


「……そう。…まずは場所を移動しましょうか。ここでは目立つわ」


 外でそのファッションは、どこでも目立つと思う…。


 早朝でもこの道の人通りが全くないわけでもなく、ちょうど今も通り過ぎた若めの男性にも凝視されていた。


 私の視線の先を追って哨子さんが振り向くと、その男性は慌てて前を向いて走って行く。


「……とにかく、さっさと移動するわよ。着いてきなさい」


 そう言うと、厚底のロングブーツで軽やかに歩きだした。


「あの、ちなみにどこへ?」


 初めて会った時は都会で、喫茶店もあちこちにあったが、この辺りには座って話せそうなお店は見当たらない。


 哨子さんはちらりと私を見たが、何も言わずに前を向いたまま歩き続けた。



 しばらくすると、目の前に黒塗りの車が見えてくる。

 その横に、初めて哨子さんと話した時にもいた、スーツを着た喫茶店の店員(?)の人が立っていた。


 目が合ったのでスーツの人――名前を思い出せない――に会釈をしたが、すぐに彼の視線は哨子さんへ向けられる。


「お嬢様、……カサが動いているようです」


 ……かさ? なんのことだろう。


「そう…好都合ね。あいつを呼んだ甲斐があったわ」


 哨子さんはそう返すと、ちらりと私を見た。


 話が読めないまま、スーツの人が車のドアを開けて私を後部座席に誘導する。


 このまま車に乗るか、少しだけ迷った。

 すると、私が迷っているのに気づいたのか、哨子さんから声をかけられる。


「前回、わたくしが言ったことを覚えていて? ()()()()は、すでに用意しているわ」

 

 その言い方は、私が断ることを考えられていなかった。

 哨子さんの中では、今日私と会って話すことが決定してるみたいだ。


 ――()()()()


『――今回の協力の成功報酬に、る力が強い人を紹介してあげる』


 たしか、そう言っていた。

 でも、視る力とはなんなのだろうか。あの時言っていた、呪力がどうのとかはすでに戸坂さんに教えてもらったし……。


 ふと哨子さんを見ると、しっかりと目が合う。

 片眉を上げている哨子さんから、「早く乗れ」と急かされている気がした。


 圧に負けた私は、軽く息を吐き、後部座席に乗り込んだ。




 どれくらい車に乗っていたのかはわからない。数十分かもしれないし、一時間は経ったのかも。

 移動中の車内は無言で、私は眠気で意識が何度か途切れていた。


 車が止まった場所は前とは違い、外観はどこにでもありそうな普通のカフェの前だった。

 特別オシャレでも古風でもないチェーン店のような雰囲気で、店内にはお客さんが一人もいない。


 哨子さんは、分厚いガラス張りの横にあるテーブルに座った。外の景色がよく見える席だ。

 その隣に、スーツの人が無言で立つ。


 あれ、そういえばこのお店、店員さんがいない…?


 そう思った時、哨子さんが口を開いた。


八代やしろ、アイスコーヒーを。貴女は?」

「…同じのでお願いします」


 メニュー表もないのでとりあえず同じのをお願いする。


 スーツの人――八代さんは、軽く頷くと店の奥に消えた。


「さて、もうそろそろだと思うのだけど…」

「?」

「先に、哨悟の話から聞きたいわ」


 私をじっと見つめる哨子さんの言葉に、ぱちりと瞬きをする。


 数秒後、内容に気づき頷くと、今日聞いたばかりの話をした。


 簡単にまとめて、戸坂さんは父親のように力のない人たちに頭を下げてまで家を継ぎたくない、と言っていたことを伝える。



「…………そう」


 目を伏せて、特に反応もなく私の短い話を聞いていた哨子さんは、それからしばらく口を閉ざした。


 広い店内に、沈黙が流れる。




 ――コツ、


 静かな空間に、どこからか乾いた足音が小さく響いた。


 徐々に足音が近づくのを感じ、顔を向けると。


「……あ、」


 そこに立っている人を見て、思わず目を見開いた。





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