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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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それぞれの事情(1)

 



「未来ちゃん! 元気でしたか!?」



 一週間ぶりに出勤すると、私の姿に目を丸くした秋田ちゃんが駆け寄ってきた。


「こないだのお祭りの日に現れた魔物に襲われたって聞いて! すごく心配してたんです!」

「ぜんぜん大丈夫! ちょっと多めに休ませてもらってただけだから!」


 目をうるうると潤ませて、私に顔を近づける秋田ちゃんの肩に慌てて手を置く。

 ちょっと近い…。


「ほんとに大丈夫なんですね!?」

「うん! 怪我も自分で転んでできたものだけで、ぴんぴんしてるよ! 魔物討伐隊の人たちが助けてくれたおかげでね」

「…よかったぁ」


 私が説明すると、やっと安心したのか秋田ちゃんが離れる。

 目尻に溜まった涙を拭う姿に、なんだか胸が温かくなった。


 その後、あまり話すこともなかった百田さんにまで声をかけられてチョコを貰う。休んでいた私の代わりに、百田さんもシフトに入ってくれていた。


 次に出勤する時は、絶対に百田さん…いや、皆に渡せるお菓子でも用意しよう、そう決意した。





「大丈夫なの?」


 百田さんも秋田ちゃんも退勤してから、戸坂さんに声をかけられる。


 今日はたぶん、雰囲気が固いから戸坂さん『本人』の方かな。


「もう大丈夫です! ……あの、戸坂さん。すみません、せっかくもらったお守り、壊れちゃって」


 そう。実は鬼に投げつけたとき、数珠は破裂して粉々になっていたのだ。


 鬼を倒した魔物討伐隊の人が破片を拾ってくれていたらしく、後から沙良木さんに私のものかどうかを確認された。

 ぱっと見は粉々すぎてわからなかったが、状況からして私のだと思ったので頷くと、沙良木さんは曖昧な笑みを浮かべていた。



「…役に立った?」

「はい、とても。ありがとうございました」

「ならよかった」


 そう言った戸坂さんとは視線が合わなかったが、なんとなく、声がいつもより優しく聞こえた。


 無言が続いても、不思議と今日は気まずい雰囲気を感じなくて。

 だからなのか、誰にも相談できなかったことをつい溢してしまったのは。


「……私、魔物討伐隊に、スカウトされました」

「…………へぇ」


 ゆっくりと戸坂さんの顔がこちらに向けられる。

 意外にも、その表情に浮かんでいたのは純粋な驚きだった。


「私、人より魔力が多くて、魔力操作もできるみたいです。この力は、たくさんの人を救えるって言われました」

「……そう」


 聞いているのかいないのか、相槌だけを打つ戸坂さんをじっと見つめる。


「……断ろうと思うんです」

「いいんじゃない」


 すぐに返ってきた言葉に、思わず目を丸くした。


「魔物討伐隊って命懸けなのに、世間からは嫌厭されやすい。よっぽどお金に困ってないなら、それでいいんじゃない」


 そう、あっさりと言われて、ふっと肩が軽くなる。


 魔物討伐隊は、この世界では嫌厭されやすい職業だとしても、なくてはならない仕事だ。


 私が魔物討伐隊に入ることで、大勢の人を守れる力を使えるのに。それなのに私は、他人のために自分の命をかけたくない、と思ってしまった。


 驚きで固まる私の顔を見た戸坂さんは、少し眉を動かすと頭を軽く掻いて口を開く。


「俺さ、これでも跡取り息子だったんだよね」

「…はい」

「俺の家は界隈ではそれなりに有名で、後ろ暗い事に関わることも多くてさ。親父が必死に頭下げてる、権力ちらつかせて偉そうにしてる連中に、俺も同じように接するなんて絶対に嫌だった」


 戸坂さんは、顔を歪めて話し続ける。


「俺が跡継ぎじゃなくなれば、姉貴が代わりになる。それを俺はわかっていても、戻らなかった」

「それが、お父さんと喧嘩された原因ですか?」

「……まあ、大概そう」


 哨子さんのことを話している戸坂さんの表情は、今でも葛藤があるように思えた。


 戸坂さん、哨子さんの話を聞くかぎり五年も家から逃げ続けてるんだよね。


 ……逃げていたのは、私も同じか。


 視線が床に落ちる。

 ふいに父の顔を思い出しそうになり、慌てて頭をふってかき消した。


「なに急に?」

「いえ……あ。そういえば、もう一つ聞きたいことがあったんです」


 戸坂さんの怪訝そうな表情に、ふと思い出した。


「呪術師ってなんですか? 私、哨子さんにもしかしたら呪術師の血を引いてるかもって、言われた、ことが……」


 途中で言葉が途切れてしまう。

 戸坂さんの空気がそれまでとは一変して、鋭く細めた瞳で私を見ていた。


「そのこと、誰かに言った?」

「いえ、誰にも…」


 私がそう答えると、少しだけ張りつめた空気が和らぐ。


「そう、…その方がいいよ。それに、今ならはっきりわかる。流田さんは違うから大丈夫」

「違うって、?」

「……ちゃんと力のある――呪力を持つ呪術師は、同じ呪力を持つ人がわかるんだ。お守りを渡すまで、流田さんは確かに怪しかったけど……」


 突然、話していた戸坂さんの顔が固まった。

 数秒後、何かを思い出したかのように私を見る。


「ねえ、流田さん。五ヶ月くらい前…ちょうど隣の県で雪女が現れた日を覚えてる? …魔物討伐隊が鎌鼬を脱走させてしまった日の方がわかりやすいかな。テレビで何度も取り上げられてたし」


 戸坂さんの質問にこくりと頷く。

 それははっきり覚えている。だって私がその鎌鼬に襲われたから。


「あの日、もしくはその前日、何か変わったことはなかった?」

「……え、と。どうしてですか?」


 あると言えば、ある。鎌鼬に襲われたこともそうだが――そもそもその日は、私がこの世界に来た日だ。


「確かその日からなんだよね。流田さんから、その――呪力を感じたのは」

「え……?」

「まあ、今はもうすっかり消えてるんだけど。初めて聞いた時は魔物かと疑って――」


 そこで、戸坂さんは言葉を切った。

 少しだけ視線をさまよわせたあと、口を開く。


「ごめん。ちょっと話しすぎた」

「いえ…、魔物かと疑ったってどう言うことですか?」


 気まずそうな戸坂さんに悩んだのは一瞬。考えるより先に質問していた。


「……もう今更か」

「?」

「…あー、魔物って発生してからしばらくは、ちょっとだけ呪力を感じるんだよね。そのうち勝手に消える程度の――前の、流田さんみたいな」


 そこまで話すと、戸坂さんはじっと私を見つめた。


「私、みたい……?」





 





 

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