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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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お祭り(5) 

 


「大丈夫?」


 ソファに座り俯く私に、ホットココアを持つ手が視界に入る。

 顔を上げると、沙良木さんが心配そうに私を見ていた。


「…ありがとうございます」


 ココアを受け取った手はかすかに震えていて、カップから立ち上る湯気が私の視界を霞ませていた。


「あいつらが遅くてごめんね! 話はココアでも飲んで落ち着いてからにしよ。飲み終わる前にあいつらが来ても扉を閉めてやるから、任せてね!」


 ぼんやりしていた私の目に映る沙良木さんの明るい笑顔に、自然と笑みがこぼれた。



 ココアを飲みながら、まだざわついている気持ちを落ち着かせようと室内を観察する。


 室内にはベッドが一台と、私の座っている二人掛けのソファ、沙良木さんが座っているパイプ椅子。

 その他にも薬棚やデスクも置かれていて、部屋を見渡していると学校の保健室のような雰囲気で、なんだか懐かしい気持ちになる。


 ここは、『関東第二十四エリア魔物討伐隊支部』の建物の中の一室、扉には【簡易治療室】とプレートが掛かっていた。



 私が鬼から生き延びて大泣きしてしまってから少しして、事情を聞くために場所を移動するよう、小鳥遊さんの上司のような人が声をかけてきた。


 正直、すぐに家に帰ってシャワーを浴びて寝たいのが本音だった。

 それでも、有無を言わせない周囲の雰囲気に断れず、車に乗せてもらい着いたのがこの場所だ。


 ちなみにこの部屋には小さめのシャワー室もあって、すでに新品の服も含めて借りたあとだ。

 あちこちにできた擦り傷なども、沙良木さんが消毒してくれた。


 …とりあえず、あのひどい臭いが消えてよかった。




 私がココアを飲み終えて十分くらい経った頃。

 複数の足音が聞こえ、扉ががちゃりと開いた。


 一番最初に入ってきたのは、あの時場所を移動するよう声をかけてきた、デカくてごつい人だ。続いて小鳥遊さんと按田さんも入ってきた。


 慌ててソファから立ち上がろうとするが、デカくてごつい人にそれを止められる。

 そしてそのまま、ソファに座る私の前で片膝をついた。


「私は関東第二十四エリア支部、魔物討伐隊第一部隊隊長、剛家ごうけ義堂ぎどうと申す」

「は、はい。わた…、」

「この度は、守るべき民間人のあなたを守りきれず危険に晒し、さらに我々魔物討伐隊が民間人のあなたに助けられた。本当に申し訳ない。また、隊員を救ってくれて、本当にありがとう」


 剛家隊長は低く野太い声で言ったあと、立てた片膝に額がつきそうなほど頭を下げる。続けて按田さんと小鳥遊さんにも頭を下げられ、私は焦った。


「いえっ、とんでもないです。むしろ私が助けられてますから!」


 慌てて声をかけると、ぱっと顔を上げた剛家隊長の顔にビクッと肩が跳ねた。

 くっきりと眉間に皺がより、こちらを見つめる鋭い瞳に、無意識にごくりと唾を飲み込む。



 一瞬の静まり返った空気を破ってくれたのは、沙良木さんの一言だった。


「やっぱりなんかせまいんだけどっ!」



 …言われてみれば、確かにこの部屋にがたいのいい大男一人に、成人男性二人が増えたことで圧迫感を感じる。


「……他の部屋を抑えることも考えたんだが、ここが一番他の奴らに話を聞かれづらいだろ」

「この部屋一番端にありますもんね。一応治療室やのに」

「元は沙良木の仮眠室だからな。それよりお前ら、見下ろし続けるのはよくない、怖いだろ。その辺に座っとけ」


 剛家隊長は、按田さんと小鳥遊さんに向けて床を指差したが、自身はちゃっかりベッドに座る。

 小鳥遊さんはそれを見て、無言でその場の床に座った。


「一番圧やばい人は誰やと…いや、もちろん俺か蓮ですよねぇ、わかってますって〜」


 ぽつりと本音が出た按田さんだったが、剛家隊長のひと睨みに、さっと小鳥遊さんの隣に腰を下ろした。



「さて。今回の件、話し合わないといけないことが多くてな。もちろん、隊員を救ってくれたお嬢さんを責めることはない。ただ、いろいろと調整しないといけないことが多いのだ」

調()()の話はそっちでやってね。ここでは未来ちゃんが関係ある話だけの約束でしょ」

「…ああ、もちろんだ」


 沙良木さんの釘を刺すような言葉に、剛家隊長はしっかりと頷いた。


「お嬢さん。いや、流田未来さん。――魔物討伐隊に入る気はないか?」


 予想外の言葉に思考が止まる。


「――え?」



 その場に数秒、沈黙が流れた。

 突然の言葉に固まっていたのは私だけではなく、この部屋にいる人たちも驚きで目を見開いている。


「ちょ、ちょちょちょっと! それはいきなりすぎでしょ!?」


 私の心の中の声を代弁してくれたのは、沙良木さんだった。


「按田」


 剛家隊長が按田さんに視線を向けると、眉を下げた按田さんが肩を落とし、口を開いた。



「…あー、今回の件ではっきりしてんけど、未来ちゃんは人より魔力量が多い。それに、魔力操作もできる。魔物討伐隊(うち)からしたら、ぜひ欲しい人材やねん。…あとはー、アピールポイントは、給料がっぽりもらえるで! 優しいセンパイからの手厚いサポートつき!」


 なぜかいつもよりぎこちなく話す按田さんによると、私は魔力が多くて魔力操作ができる、らしい。


 …正直、この世界に魔法はないし、そんな才能があっても使い道がわからない私はあまり嬉しさを感じない。


 按田さんが話終わると、剛家隊長は小鳥遊さんに視線を向ける。

 向けられた視線に気づいているはずなのに、小鳥遊さんは私をじっと見たまま何も言わなかった。



「…十分理解されていると思うが、命に関わる仕事だ。答えを急ぐ必要はない。…ただ、あなたの力があれば、多くの人を救うことができるだろう。ぜひ考えてくれ」


 剛家隊長は私が曖昧に頷いたのを確認すると、二人を連れて部屋を出た。


 部屋を出る前、按田さんはなぜか私に申し訳なさそうな顔を向け、そのあとに続いた小鳥遊さんとは視線が合わず、最後まで口を開くことなく部屋を出ていった。




 すでに閉まった扉をじっと見ていた私に、沙良木さんが明るく声をかける。


「…ここだけの話さ! 按田は未来ちゃんが魔力操作ができることに前から気づいてたみたい」

「え? どうして…」


 私ですら自覚がなかったのに。

 驚く私に沙良木さんが見せてきたのは、私がいつも鞄にぶら下げていたラジオだった。


 ちなみに、逃げている時に無くした鞄は魔物討伐隊が回収してくれていて、ちゃんとあとで返してくれるようだ。

 本当にありがたい…。


「このラジオについてる玉なんだけど。その中に赤い渦があるでしょ? これが魔力なんだよ」


 それは、私がこのラジオの購入を決めた玉の部分だった。


 ラジオの玉の部分を指で触れると、銃を持った時と同じ、お腹と指が温かくなる感覚がする。その温もりを玉に向けて流し込むと、玉の中の赤色が増えた。

 私はなんだか不思議な気分で赤い渦を見つめる。


「私がこういうこと言うのよくないとは思うんだけど。世間で言われてるほど魔物討伐隊って悪くないんだよ。魔物討伐隊に関する噂って、一部の人間に都合よく歪めて広められたものばかりなんだ。それだけは知ってて欲しくて」


 沙良木さんのその声色には、少しだけ不満がこもっている気がした。


 ふと時計に目をやった沙良木さんが立ち上がる。


「あっ、そろそろ部屋まで送るね」


 今日は、私はこの建物にある沙良木さんの隣の部屋に泊まる予定になっている。

 明日、また何かしらの書類にサインがいるらしい…。


 部屋を出ようと沙良木さんが扉に手をかけて、「あっ」と突然何かを思い出したかのようにふり向いた。


「未来ちゃん! そう言えば言い忘れてたんだけど、これは忠告として聞いてね」

「? はい」


 沙良木さんと目が合い、私は素直に頷く。



「…呪術師と関わるのは辞めた方がいい。どれだけ善人ぶってても、あいつらの中身はただの狂信者なんだ」



 いつも明るい笑顔の沙良木さんの表情に、私が初めて見る冷たさを感じた。




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