表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/27

お祭り(4) 

 


 目の前の光景は、一言でいえば地獄だった。



 少し離れたところでは男性隊員が血を流して倒れていて、その片足はあらぬ方向に曲がっている。


 私の目の前、手の届く距離には鬼に吹っ飛ばされて転がってきた女性隊員。

 服も顔も血で汚れていて、意識がないのか目を閉じてぴくりとも動く様子がない。


 そして鬼が、その巨体を揺らしてこちらに近づいてくる。




 ――もし、私に特別な力があったのなら。

 はたして私は、あの巨大な化け物に立ち向うことができたのだろうか。

 

 正義感のある人なら、特別な力なんてなくてもきっと、どれだけ恐ろしい化け物にでも立ち向かっていくのだろう。


 …私には無理だ。だって、ふつーに怖いし。

 


 それにここで私が立ち上がっても、死ぬ順番が私が先になるだけで、何も変わらない。




 だから私は、目の前で大きな鬼の拳がふり上げられても。


 自分の命をかけて私を逃がそうとした、意識のない女性隊員を見つめながら。


 それがふり下ろされるのを待つだけだった。




 ――ただ、待つだけのつもりだったのに。


 視界の端にあった黒い()()を咄嗟に掴んだのは、無意識だった。


 目の前の女性を助けたいとか、守りたいとか、化け物を倒したいとか、そんな気持ちはなくて。


 単純に、私がまだ生きたいと、きっとそう思っていたから。



 使い方は当たり前にわからない。

 安全装置がどうとか持ち方とか全くわからない。

 その時はただ、なんとなくでトリガーに指をかけていた。



 ()()感覚が走ったのはほんの一瞬。

 カイロが直で肌に触れた時のようにお腹が熱くなって、同時にトリガーにかけた指先が熱を持った。

 その熱を動かせる気がして、ぎゅっと指先に集める。


 私の周りから音が消えた。

 指先が火傷しそうなほどの熱を持ち、バチっと火花が弾ける音がして――





 ――バァアン!!



 ものすごい破裂音に、びりびりと空気が震えた。

 何が起こったのか、理解できなかった。


 私は咄嗟に目を瞑って耳を押さえていて。

 台風のような強い風が吹き荒れ、髪が巻き上がるのを感じる。土と煙と焦げた臭い。

 石粒が体のいたるところにぶつかり、濡れた何かが顔にあたる感触。



 しばらくして、風が止んでからも続く耳鳴りに、頭がくらくらした。






「………はは、」


 目の前の光景は、やっぱり地獄だった。



 鬼は姿を消していて、そこには地面が大きく抉れてクレーターができていた。


 薄い黄色のねばねばの液と、黒っぽいどろどろとしたものがクレーターの底に溜まっていて、辺りにも飛び散っている。


 女性隊員と私は髪から足までその液がかかっていて、少し離れた男性隊員にも同じ色がついているのが見えた。



 ……くさい。


 臭いの元はたぶん、液体から。

 数週間も歯磨きをしてない不潔な口臭のような…とにかく臭い。


 臭いによる吐き気に耐えていると、遠くから人の声が聞こえてきた。



「おーい! 大丈夫ですかー! ……!?」


 草むらをかき分け…なくてもこの辺はずいぶん視界がよくなっていて、現れた人の顔はちょっと離れていてもしっかり確認できた。



「えっと……、これはどういう状況?」

「……いったん確認は後にするで。立花と青木が先や」


 最初に私のもとへたどり着いたのは、按田さんと小鳥遊さんだ。

 ちょっと前に見た時は浴衣姿だったのに、いつのまに着替えたのか軍服を着ている。


 二人は周囲を確認するにつれて、顔が険しくなっていった。


 聞きたいことはたくさんありそうだったが、私に事情を聞く前に、倒れた隊員を見た按田さんが後から来た隊員たちに指示を出す。

 徐々に魔物討伐隊の隊員がこの場に集まってきた。


 倒れた二人を移動させたり、担架を用意したり、クレーターを調べたり、忙しなく動く人たちを私はその場でぼうっと眺める。



「未来さん、それ…」


 声をかけられてふり向くと、小鳥遊さんが私の隣にしゃがみ込んでいた。

 視線の先は、私の握っている銃。


「……あ」


 そういや、まだ持ってたんだ。

 握っていた銃を渡そうと手を前に出して、指が固まって動かないことに気づいた。


 私が何を言うまでもなく、小鳥遊さんは無言で私の手を取ると、指を一本ずつ銃から剥がしていく。


 銃が離れた私の手は、震えていた。

 私が手を引く前に、小鳥遊さんはその手を銃を持つ反対の手でぎゅっと握る。

 その手がとても、温かく感じた。


「……もう大丈夫。危ない目に合わせてごめんね。隊員を助けてくれて、ありがとう」



 ちがう。ほんとにそう、なんで私が。そうじゃない。なんで小鳥遊さんがお礼を言うの。そうじゃなくて。


 一気に感情がそのまま押し寄せてきて、あふれた。



「っぅ、ぅうぁぁあああ…!!」



 怖かった、怖かったのだ。

 今までに何度も危ない目には遭っていた。

 だけど今回、とうとう私は死んじゃうんだと感じた瞬間、全身が恐怖に覆われた。

 今までの出来事が、次々と思い浮かんできて。


 元の世界でも、この世界でも、流れに身を任せるだけでやりたい事も見つけられず、ただ日々を過ごしているだけで死んでしまう。

 ――そんなの、嫌だと思った。



 いろいろな気持ちが混ざってぐちゃくちゃで、恥も外聞もなく大声で泣き続ける私を、小鳥遊さんは手を握ったまま何も言わず見守ってくれていた。




 この時、私は初めて自分の人生から目を逸らし続けてきたことに、僅かな後悔を感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ