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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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22/26

お祭り(1)   

 



 ビー、ビー、ビー…ビー、ビー、ビー…



 遠くで鳴り響くブザーの音。



 “――午後三時二十六分に、〇〇県××市〇〇区××町で発生した『小鬼こおに』は、現在も東へ移動中。一部地域に魔物警報が発令されています。警報区域内にいる皆様は、不要不急の外出は控え――”



 ラジオから流れる魔物警報。


 今までであれば、この後すぐに魔物と遭遇していたのだが。




 私はそれを、駄菓子屋のおばあちゃんと一緒に、お茶を飲みながら聞いていた。


「未来ちゃん団子食べるかい? ついこないだ買ってきたのよぉ」

「いえ、お気持ちだけで大丈夫です。ここで待たせてくれるだけで助かってますから」


 ラジオから流れる音声は、何度か同じ内容がくり返されている。まだ魔物は討伐されていないみたいだ。



 昨日は仕事が休みだったこともあり、いつもより早起きした私は、以前たどり着けなかった駄菓子屋に足をのばした。


 六畳くらいの広さの店内に、壁一面の棚にも敷き詰められたおやつを見ていると、なんだか懐かしい気持ちになる。

 …小さいころ、駄菓子屋さんでよくお母さんに買ってもらったなあ。


 私がお菓子を選んでいると、ラジオから魔物警報が流れはじめた。

 それを聞いたお店のおばあちゃんが「警報が解除されるまで休んでいきなぁ」と声をかけてくれたので、お言葉に甘えることにしたのだ。



 お店の扉や窓は、おばあちゃんのかわりに私がシャッターポールで全てシャッターを下ろして、鍵もしっかり閉めた。


 おばあちゃんは店の奥からプラスチックの椅子を持ってくると、レジ台を机にお茶とお菓子も用意してくれた。


「はやく討伐されるといいねぇ」

「そうですね…」


 今日の夜のバイトまでに間に合えばいいけど…。


 冷房の効いた店内で冷たいお茶を飲んでいると、背中にかいた汗が冷えて、少しだけ震えた。




 この世界に来て、もう五ヶ月が経つ。

 こうやって、突然魔物警報が流れる日常にも慣れてしまった。


 最初の三ヶ月と少しは、頻繁に魔物と遭遇していた。

 その後いろいろあって、戸坂さんの姉と出会い、気になることを言われて。

 跡取り息子の戸坂さんが、家に戻らない原因を聞き出すように頼まれて。

 戸坂さんに聞くと、「本人に聞くのがいちばん」と謎の発言をされて。


 実はそれからここ二ヶ月近く、戸坂さんとまともに話ができていない。



 ただ、しばらく戸坂さんを観察していて気づいたことがある。

 戸坂さんは、日によって性格が変わるのだ。あと、私の呼び方が違う。


『流田ちゃん』と呼んでくるのは「本人に聞くのがいちばん」と発言したことから、たぶん『流田さん』呼びが戸坂さん本人。

 …でも、どっちも見た目は戸坂さんにしか見えないんだよなあ。

 二重人格とか? それか戸坂さんは双子だった?


 正直『流田ちゃん』呼びの戸坂さんの方が話しやすい。だけどあれからは、関係のない話しかのってこない。それ以外は「ゼッタイ言えない!!」の一点張り。

 なので、『流田さん』呼びの戸坂さんに聞くのが一番だとはわかってはいるのだが。

 …ものすごく、話しかけづらいんだよね。


 話しかければ普通に返事はしてくれる。無愛想ではない。なのにどこか固い空気を背負った感じが、声をかけづらくしていた。

 あれから哨子さんにも会っていない。


 そういえば、今更だが連絡先も交換していないのに、もし家に戻らない原因を聞き出せたとして、どうやって教えたらいいんだろう?


 …会っていないと言えば、魔物討伐隊の人たちとも会わなくなった。これはいい意味で。

 実は戸坂さんからお守りをもらってから、近くに魔物が現れても遭遇しなくなったのだ。

 おかげですごく生活がしやすい。



 ――ザザッ


 “――午後三時二十六分に、〇〇県××市〇〇区××町で発生した『小鬼こおに』は午後四時四十分頃、無事魔物討伐隊に討伐されました。これにより、魔物警報が解除されます――”



 私がこの世界に来てからを思い出していると、ラジオから魔物が討伐された知らせが流れた。


「おや。討伐されたみたいだねぇ、よかったよかった」


 おっとり笑う駄菓子屋のおばあちゃんにお礼を伝えて、購入したお菓子を持って家に向う。

 歩いていると感じる、蝉の声と熱気で歪む視界。乾いた汗がまた流れだした。


 途中、携帯でメッセージが届いた通知音が鳴る。

 開いてみると、瑠美からだった。



【お祭りいこーよー!】



 ……もうそんな季節かぁ。


 短い返事を送る。

 家に向かう足取りが、少しだけ軽かった。





 --------





「未来ー! こっちこっちー!」



 ざわざわと喧騒の中、聞き覚えのある明るい声が聞こえる。


 きょろきょろと辺りを見渡していると、手をふりながら近づいてきたのは、私の唯一の親友の瑠美だ。


「瑠美! ひさしぶり!」


 私も小走りで瑠美に近づく。

 瑠美は私の手を取ると、ぶんぶんと上下に揺らした。


「浴衣じゃないじゃん!」

「えーと、着るつもりだったんだけど…家に見当たらなくて」


 私の記憶では、去年も瑠美と浴衣を着てお祭りに行ったことがあった。

 それから、アパートの襖の奥に直した覚えがあったのだが、見つからなかったのだ。


「えー!? 早く言ってくれたら私の貸したのにぃー!」


 そう頬を膨らませた瑠美は、淡いピンクの浴衣を着ていた。

 髪の毛はハーフアップにしていて、おろした部分は綺麗に巻かれている。


「ごめんね。瑠美、浴衣似合ってる。可愛いよ」


 素直に感想を伝えると、瑠美は一瞬目を丸めてからにこっと笑った。


「まあね。ありがとう! …でも次は未来もぜったい浴衣着ようね!」




 去年は瑠美の地元のお祭りに行った。そのため、今年は私の住む町のお祭りに行きたい、と瑠美が希望したのだ。

 二人ともこの町のお祭りに来たのは初めてだ。


 普段は子どもたちが走りまわっている広めの公園。周囲はいっそう頑丈そうな分厚いフェンスに囲われている。

 公園の敷地いっぱいには出店が並んでいて、すでに人もそれなりに集まっていた。


 それから、公園の隣には人二人分がならべる石畳の階段。その上には小さな鳥居が見えた。

 階段を登りたい気持ちはあったが、階段前はしっかり太めのロープで塞がれていて、登れないようになっている。


 なんとなく鳥居が気になって見上げていると、そこに数人の人影が見えた気がした。


「未来〜、何見てるの?」

「え? ……ううん、なんでもない」


 瑠美に横から覗き込まれ、そこから目を離す。また見上げると、今度は何も見えなかった。


「私、わたがし食べたいー!」

「私も食べたる! あとミルクせんべいと!」

「いいねー! ベビーカステラも買って帰らないと…って、食べものばっかじゃん!」


 二人で笑いながら目当ての食べものを探すため、人混みの中に進んでいく。


 食べものを見つける前に、途中で瑠美が輪投げをしたり、くじ引きを引いたり、二人でお面を選んで頭につけた。


 ちなみに、お面の種類はすごく豊富だった。…主に魔物の種類が。

 初めて知った魔物も多かった。魔物には見た目が恐ろしいものしかいないと思っていたのだが、お面はデフォルメされている効果もあるのか、可愛らしい魔物もいたみたいだ。


 瑠美はほとんど兎にしか見えない灰色のお面――お面を売ってるおじさんが『岩兎いわうさぎ』と言っていた――に、私はベタだけど狐のお面を選んだ。

 『妖狐ようこ』って、この世界では魔物として実在するんだ…。


「未来、狐のお面似合いすぎ!」

「それは褒められてるの?」

「うんうん! なんかちっちゃい子みたいで可愛い!」

「…」


 唇を尖らせた私に気づいた瑠美が、慌てて謝る。さっき挑戦した輪投げの景品の飴を目の前で揺らす姿に、ふっと笑ってしまった。


 前が見えるように頭の右側にお面をずらして、また二人で食べもの探しを再開する。


「りんご飴食べたくなってきたかも」

「あっ、あれ! あそこりんご飴売ってるよ!」


 瑠美に手を引かれてやっとたどり着いた食べもののお店。

 そこで、二ヶ月ぶりにその人を見かけた。



「「……あ」」




 お互いに目が合う。

 気づいたのは、ほぼ同時だった。





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