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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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写真(3) 

 


『わたくしが原因を教えて差し上げます。その代わり、わたくしに協力してくださいな』


 そう言った哨子さんは、ゆっくりと両手の指を組み、その上に顎を軽く乗せると艶やかに微笑んだ。



「えっと…。先に、何に協力をすればいいのか聞くことはできますか?」

「それを伝えると、原因の答えに近づくのだけど。…まあいいわ」


 哨子さんは少し不満そうに眉をよせたが、コーヒーをひと口飲むと話しはじめた。


「哨悟が家に帰るように、協力して欲しいの」



 どういうことかと言うと、なんでも戸坂さんはとある名家の跡取り息子だそうだ。

 しかし、五年前に父親と大喧嘩をしてから、誰にも何も告げずに家を飛び出した。

 それきり、家族の誰も戸坂さんと連絡が取れなくなったらしい。


「あの子は天才だから、わたくしたちから隠れるのが上手くて…。わたくしがやっとあの子を見つけたのも、一年くらい前になるわ」



 なんとか戸坂さんを見つけた哨子さんは、家族の他の誰にも居場所を教えず、一年ほど密かに戸坂さんを見守っていた。

 …大量の盗撮をしながら。本人いわく、ただの記録らしいが。



 家族に戸坂さんを見つけたことを伝えなかったのは、無理矢理にでも戸坂さんを連れ戻そうとする可能性が高かったからだ。


 そして、哨子さんが戸坂さんに一年間話しかけなかった理由は、頑固な性格の戸坂さんは一度決めたことを変えたことがなく、哨子さんが説得したところで絶対に戻ってこないかららしい。



 それは私がどう協力しようと、戻らない気がする。

 私の微妙な顔を見て、哨子さんはふっと息を吐いた。


「ただ哨悟と職場が同じだけの貴女に、家に戻るまでの説得はあまり期待していないわ」

「なら、私は何を協力するんですか?」


 私の質問に、哨子さんが瞼を伏せる。

 一拍置いて視線を上げた哨子さんは、まっすぐに私と目を合わせた。


「簡単なことよ。哨悟が家に戻りたがらない原因を聞き出してくれればいいの」

「それは……戸坂さんが家から出て行った理由は、親子喧嘩が原因ではないってことですか?」


 また視線を伏せた哨子さんは、かすかに唇に力を入れ、首を横にふった。

 その様子は、ただ弟を心配する優しい姉の姿に見えた。


「喧嘩の原因も、父と哨悟にしかわからないわ。二人とも、母にもわたくしにも話す気はないんだもの。ただ……」

「?」

「哨悟は自分の居場所がバレる可能性があるのに、それを貴女に渡したでしょう」


 そう言ってテーブルの上に置いた白い数珠を、少し押して私の前によせた。


「わたくしもつい焦ってしまって、本人に直接話しかけてしまったのだけど……やっぱりまともに話しもしてもらえなかったわ」


 俯いた哨子さんの顔を、さらりとストレートの綺麗な髪が覆った。


 しばらく、その場がしんとした空気に包まれる。

 少し溶けた氷が、からんっと音を立てた。



 数秒後。ギシ、と木の床の軋む音を立て、八代さんが哨子さんに近づき耳元に顔をよせた。


「お嬢様、そろそろ戻りませんと…」

「ええ、そうね」


 八代さんの言葉にぱっと顔を上げた哨子さんは、最初に見たお人形さんのように綺麗な顔だった。


「思ったより時間をいただいてしまったわ。わたくしは事情を話したのだから、貴女はもちろん協力してくれるわよね」


 黒いレースの手袋をした指が口元に添えられる。赤い唇はゆったりと笑みを浮かべていて。

 鋭い瞳でこちらを見るその姿は、どこか不気味で、断ることが許されないほどの圧があった。



 気づけばその表情に向けて、首が縦に動いていた。

 哨子さんは、私のその様子に満足そうに頷いて席を立つ。


「ここはわたくしの店だから、お会計は必要ないわ。それと、魔物がよってくる原因については――」



 私も席を立とうとテーブルに手をつくと、目の前に来た哨子さんが、私の肩に手を置いた。



「貴女、呪術師の血をひいているのではなくて?」

「え……?」



「まあ、貴女を視るかぎりそれは可能性の一つにすぎないのだけれど。だから、そうね……今回の協力の成功報酬に、()()()が強い人を紹介してあげる」





 --------





 家に帰ると、私はどろのように眠った。



 ――ひさしぶりに夢をみた。


 魔物のいない世界で私は、大好きな母と、優しい父と、家族三人で笑い合っていた。


 無事就職が決まったそのお祝いに、瑠美が一番に駆けつけてくれて。

 小鳥遊さんや按田さん、魔物討伐隊の人たちや、戸坂さんや秋田ちゃんたちバイトメンバーまでもが周りに並んでいた。


 色んな人にお祝いされながら、大好物のバスクチーズケーキを食べる。


 そんな幸せな夢だった。






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