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気づけば異世界にいた私の非日常  作者: だいたいぶくふく


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18/27

写真(1) 

 


 どこか様子のおかしい戸坂さんに『本物のお守り』をもらってから二日後。


 私は朝から電車に揺られていた。

 今日は夜勤が休みの日なので、燈ノ万屋に向かっている。


 実は青い防犯ブザーの中身、魔力香の補充をまだしていなかったのだ。赤い防犯ブザーは電池が切れたことがなかったので、何かあればそっちを使う気だった。


 赤色と青色、どっちの防犯ブザーを使っても逃げる時間は稼げると聞いていたので、後回しにしてしまっていた。

 一応、魔物によってはどっちの方が効果が高いなどあるみたいだけど。基本的に少しの差らしい。


 そういえば、ラジオの電池も買わないと。

 購入した日に手動ハンドルを回した記憶はあるが、実はそれ以降は触っていない。

 それでもその時の電気が残っていたのか、警報はしっかり流れていたので電池の購入を忘れていた。


 燈ノ万屋に来るのは久しぶりだった。ラジオとこの防犯ブザーを購入して以来だ。


 初めて来た時と変わらない、怪しげな雰囲気の漂うビルの階段をのぼる。いくつもの植木鉢や花瓶が乱雑に周りに置かれている、開きっぱなしの扉をくぐった。

 どこからか、ちりんちりんとベルが鳴る。


 見渡す限りはベルなんてないのに、この音はどこから鳴ってるのか不思議だ。


「おや、久しぶりだね」

「お久しぶりです」


 ベルの音が鳴ってすぐ、燈ノ万屋のおじいさんがレジ奥の扉から出てきてくれた。


 相変わらずばっちり髪の毛がセットされていて、オレンジのベストに紫の蝶ネクタイの組み合わせがお洒落だ。


「今日はこの中身を補充してほしくて来ました。中身だけ購入はできますか?」

「もちろん。ちょっと時間がかかるから、待っててくれるかい?」


 どれくらいかかるか確認すると、十分くらいとのことだったので、店内で待たせてもらうことにした。


 おじいさんが扉の奥に下がり、手持ち無沙汰になった私は、とりあえず店内の商品を見てまわる。

 前回来た時は目当てのものが決まっていたから、他はあんまり見てないんだよね。


 まずは端っこから…と視線をあげて周りを見渡すと、ふとレジ横の壁に掛けられた写真が目に留まる。


 いくつか飾られている写真のすべてが白黒で、その中でも一枚の集合写真から目が離せなくなった。



 ――【あおなぎチーム】


 赤いカラーペンで直接そう書かれている白黒写真。


 おそらく子どもが書いたであろう文字は、一文字ずつ大きさが違っていて、かろうじて人の顔には被らないようになっている。


 写真に写っているのは全員で二十人くらい。その中の半分が小学生から高校生くらいの子どもだった。

 並んだ子どもたちの顔を見ていると、なんとなく見覚えがある気がする。


 …あ、おじいさんだ。


 一番右に燈ノ万屋のおじいさんが、小さい子どもと手を繋いで立っていた。

 おじいさんと手を繋ぐ子を見ると、笑顔の活発そうな子がピースをしている。隣にはその子より年下の、どこか不貞腐れた顔でカメラを睨む子ども。


 その子どもの両肩には、後ろの人の手が置かれていた。

 左肩の手は、黒髪の中性的で綺麗な顔をした、学ランを着た男の子。

 右肩に手を置いているのは――


「おとうさん…?」


 そこに、私の『父』がいた。



「またせたかい?」

「っ!」


 すぐ隣からかけられた声に、心臓が跳ねた。

 横を向くと、いつのまにかレジを挟んでおじいさんが立っていた。


「補充しといたが、予備にもう一つ持っとくと安心だよ」

「ありがとうございます」


 心なしか綺麗になった気がする防犯ブザーを受け取り、ポケットに入れる。

 お金も支払い終わると、あとは帰るだけ。…なのだが、どうしてもあの写真が気になった。


「あの、この写真って…」

「うん? ああ、『花道ホーム』の子たちだよ。英史と可蓮もそこに写っとる。確か英史が八歳、可蓮が五歳だったかな」


 そう指を差した子どもは、おじいさんと手を繋いでいた子だ。隣の不貞腐れた顔をしているのが小鳥遊さんらしい。


「可蓮は昔は気難しい子だったんだよ。人と関わろうとせんかった可蓮をよく連れ出しとったんが、英史とたまきでな」


 そう言いながら指を滑らせた先は、綺麗な顔の学ランを着た子だ。この子が『たまき』のようだ。


 私は震える指を、そっとおじいさんの隣に置く。


「…この人は?」

「昔から『花道ホーム』を、定期的にボランティアでまわっとった人だよ。子どもたちに料理を教えてくれて、面倒見が良くて、子どもたちからも好かれとったんだが……」

「今は、なにを……?」


 私の声が、思いのほか店内に大きく響いた。数秒の沈黙が流れるあいだ、自分の心臓の音がうるさく感じる。


 私はおじいさんを見つめて、その口が動くのをじっと待った。



「……亡くなったよ」





 --------





 帰り道、駅まで少し遠回りをして歩いた。


 あちこちにあるフェンスや全ての窓につけられたシャッター、見せつけるように銃を持つガードマン。この世界に来て見慣れてきた光景だ。


 燈ノ万屋で聞いた、おじいさんの言葉を思い出す。



『――彼は、十七年前のスタンピードで亡くなったみたいでね。葬儀も親族のみで行ったようで、私も人伝に聞いただけなんだ』



 私がいた世界で生きていても、この世界で生きてるとは限らない。


 この世界の『父』のことはよく知らないはずなのに、なんで私、こんな気持ちになるんだろう…。

 心の中にぽっかりと穴があいたようで、少しだけ胸が苦しく感じた。



 しばらくなにを考えるでもなく歩き続けていたが、ちょうど赤信号で足が止まる。

 ぼうっと目の前の光景を見つめていると、道路を挟んだ向かいの歩道に、見知った顔の人がいることに気づいた。


 ……あれって、戸坂さん?



 なにやら女性と言い合いをしているようだ。

 離れようとする戸坂さんを引き止めようと女性が腕に触れると、それをすごい剣幕で振り払う。


 俯く女性をそのままに、戸坂さんは背を向けて歩いて行った。



 信号が青に変わる。

 歩き出しながら先ほど見た光景が気になり、つい女性へと目を向けてしまう。

 けっこうなガン見をしてしまったが、その女性に集まる視線は私ひとりだけではなかった。


 なぜならその女性は、ものすごく目立つ格好をしていたからだ。


 黒い厚底のローファーに、脚の脛までの長さのふりふりのロングスカート。上半身もフリルがたくさんついたブラウスに、胸元には黒い大きなリボン。頭にはフリル付きの黒いボンネット。

 極めつけは、いくつもの小ぶりなリボンの付いた真っ黒の日傘をさしていた。


 見事に全身真っ黒の、ゴスロリファッションだ。



 さすがに近づくにつれて視線を外した。何も見なかったかのように、少し離れて横通り過ぎる。


「ちょっと、そこの貴女」


 駅までちょっと遠回りしすぎたようで、念のため方向を確認しようと鞄に手を入れて携帯を探す。


「ちょっと、聞こえていまして?」


 携帯を取り出して画面を開くと、


「ちょっと! わたくしの声が聞こえませんの!?」

「わっ!?」



 横から突然、誰かが私の携帯を持つ手首を掴んだ。




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