『私』の親友(3)
瑠美が電話をし始めてすぐ、聞き慣れた三拍子のブザー音が次第に近づいてきたことに気づく。
それからほんの数分で駆けつけた魔物討伐隊は、初めて見る顔ばかりだった。
私たちの事情聴取を担当してくれたのは、黒髪をオールバックにして後頭部でまとめた丁髷の男性だった。
よく見ると若そうだが、堀の深い顔に太めの眉と整えられた顎鬚が、年齢をわからなくさせている。
この人の名前は長瀬さんというらしい。
私と瑠美を見たあと、通報者がどちらか確認されたので、瑠美が手を上げた。
「あなたが通報者の前園さんですか?」
「はい」
「ではあなたは?」
「友人の流田です。る、前園さんと一緒に魔物に遭遇しました」
私が名乗ると、長瀬さんの眉毛がかすかに動いた気がした。
口を動かさずに「流田…?」と呟く。
…もしかして、私のことを知ってる?
長瀬さんの瞬きが長めに、一、二秒くらい目を瞑る。
何を言われるんだろうかと内心どきどきした。緊張する私に、瑠美が不思議そうな表情をする。
しかし、長瀬さんは瞼を上げると、何事もなかったかのように瑠美に話しかけた。
「――――それで、魔物がそこまで近づいた時に、首が落ちたんです」
「は?」
瑠美が魔物と遭遇してからの流れを話し出してから。
河童が斬られたあたりで、長瀬さんは怪しげな顔を浮かべた。
「急に黒い着物を着た人が現れて、こう、刀で魔物の首を切り落として…」
「……その魔物の死骸はどこに?」
長瀬さんの質問に、瑠美は首をふる。
「わかりません。急に風が吹いて大量の葉っぱが舞って、びっくりして一瞬目を閉じたら目の前から消えていたんです。着物の人も、魔物も」
「……」
長瀬さんは無言で指を顎にかけた。
その仕草に嘘だと思われたと思ったのか、瑠美が慌てて口を開く。
「嘘じゃないです、ほんとに刀を持った着物の人が魔物を倒したんです」
「私も見ました」
「…ちなみに、その着物を着た人は何か言っていましたか?」
「いえ、魔物討伐隊の方かと聞いたんですけど何も返事がなくて…」
そう言った瑠美に視線を向けられたが、私も同じように首を横に振った。
「なにも話さずに、目の前から消えました」
「…」
「そうですか…。もし他にも何か思い出したことがあれば、こちらに連絡をください」
そう言って渡された名刺を二人とも受け取る。
名刺には『関東第二十三エリア魔物討伐隊支部 長瀬武蔵』と書かれていた。
武士みたいな人だと思ったら、名前もそれっぽい…。
「あの、私たちを助けてくれた人は、魔物討伐隊の人ではないんですか?」
「違います。私たち魔物討伐隊の隊員であれば、非番であっても討伐後、必ず自ら報告するはずです。今回はそれがありません」
瑠美の質問を、長瀬さんはきっぱりと否定した。
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駅までの道のりを歩くあいだ、二人とも口数が少なかった。
最後に起こった魔物のことはあえて触れず、次の休みはいつかや、最近流行ってる曲など、ぽつぽつと魔物とは関係のない話をした。
駅まで着くと、それまでの話を切り上げて改札前で立ち止まる。
「未来、あの着物を着た人に何かもらってなかった?」
瑠美の質問に素直に頷いて、私は鞄に突っ込んでいたそれを取り出す。
なんとなく、魔物討伐隊の人に知られたら取られそうな気がして言えなかった。
「え…、なにそれ…」
それを見て、瑠美がどん引いた表情をした。それもそうだろう。私も最初、すごく不気味だと思った。
それは真っ黒の人形だった。
黒い布で作られた、十センチから十五センチくらいの人の形をしている。
粗い生地で作られているのか、手触りはがさがさしててあまり良くない。目も鼻もないのに、ふぁさふぁさの黒い髪の毛だけは生えている。
ぱっと見、完全に呪いの人形にしか見えない。
…髪の毛が本物じゃありませんように。
瑠美は気持ち悪がっていたし、私も最初に見た時は同じ感想だったのだが。
理由はわからないが、持っているとだんだん安心感が湧いてきた。
…髪の毛が不気味なのは変わらないけど。
それを瑠美に伝えると、人形に向けた時と同じどん引きした表情になる。
「取り憑かれてんじゃない? ほんとに大丈夫?」
「…………たぶん」
取り憑かれたことないからわからないけど。
人形を見つめて、あの時のことを思い出す。
人形よりも一番気になるのは、着物の人がこの人形を差し出した時の発言だ。
『今のままだと、魔物がよってきて大変なんじゃない?』
着物の人の言うことを信じれば、この人形を持っていれば魔物との遭遇率が下がる、はず。
今まで原因がわからず、対策もわからなくて正直ずっと不安に感じていたこと。
期待半分、疑い半分で、この人形を信じてみることにした。
――人形を信じはじめたところ、だったのだが。




