私のプロフィール
流田未来。二十三歳。
私は、料理人の父と保育士の母のあいだに生まれた。
小さい頃は両親の仲も良くて、家庭環境は比較的安定していた。
特に、いつも優しくて芯の強い母のことが、私は大好きだった。
私が八歳になる頃、父が鬱で休職した。
しばらくすると、家で毎日テレビを見ながら酒を飲み、母の作ったご飯を食べて寝るのが当たり前になった。
家計を支えるために母は仕事を掛け持ちして働き始めたが、私が十六歳の時に交通事故で亡くなり、父のお酒の量がさらに増えた。
父の中では、一緒に住んでいる私の存在がないのか、絡まれることもなければ暴力を振るわれることもなかったので、まだマシだったんだと思う。
亡くなった母の補償金で酒を飲み、私が作ったご飯を食べて寝る父を、私は冷めた目で見るだけだった。
高校卒業後、特にやりたいこともなかったので、小さな個人経営の工場に就職した。
もともと社員と社長との距離感が近く、働く人の年齢層も高めだったため、十代の私は周りから可愛がられていた。
社長との距離感もだんだん近くなり――社長からのセクハラが始まった。
まわりは見て見ぬ振りで、日に日にエスカレートしていく社長の言動に限界を迎えたある日、私はキレた。
あの時、何を言ったのか細かいことは覚えていない。
怒りにまかせて「キモいんだよクソジジイ」と口悪く言い放ち、社長に直接退職届を叩きつけたことだけは記憶に残っている。…私も若かったのだ。
その後、居酒屋やスーパーなど掛け持ちでアルバイトとして働く日々を過ごし、気づけば二十一歳になっていた。
そして――葉の色が変わりはじめる、夏が終わる季節に、それは起こった。
その日、バイトを終えて家に帰ると、いつものようにリビングで父がテレビを見ながら、こちらに背を向けて酒を飲んでいた。
私がリビングに足を踏み入れると、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
目が合うのは何年ぶりだろうか。目が合っているはずなのに、その瞳の焦点はどこか揺れている気がした。
父の口が動いた。
「未来、夢はあるか」
父の声は、こんなに低かっただろうか。
咄嗟に言葉が出ず、しばらく沈黙が続く。
その間、私は吸い寄せられるように、じっと父の口元を見つめていた。
再び、口が動く。
「――未来、やりなおそうか」
何を言っているのか、理解できなかった。
ふと父の座っている座布団に目を向けると、すぐ隣に錆びた出刃包丁が置いてある。
――あ、これはまずいかも。
それは直感だった。
再び父と目が合った瞬間、反射的に身体が動き、気づけば玄関を飛び出して走っていた。
その後はホテル暮らしを一ヶ月ほどしていたが、そろそろ家を借りようかと親友に相談すると、不動産関係の知り合いを紹介してくれた。
せっかくだから地元から離れて、田舎の方で一人暮らしがしたいと言うと、今のアパートを勧められた。
バイト先も無事見つかり、夜勤のコンビニ店員として働き、気づけば二年以上経っていた。
父があの後どうしたのかは分からないが、たぶん、生きてるとは思う。
父のことが気にならないといえば嘘になるが、会いたいかというと……分からない。
生きているのなら、それでいいとも思っている。
それに今、異世界にいる私は、私が逃げた父と会うことはないだろう。
……そういえば、この世界の『父』や『親友』は、どうしてるんだろう?




