お礼を言うのはこちらですわ!~婚約者も財産も、すべてを奪われた悪役?令嬢の華麗なる反撃
不遇をものともせず、華麗に「ざまあ」する貴族令嬢の、マイペースなひとり語り。
ゆるーい気持ちでお付き合いください。
※後半、加筆修正しました(2025/10/29)
みなさま初めまして。
わたくし、リースフェルト侯爵家の長女で、イザベラ・フォン・リースフェルトと申します。
突然ですけれど、ちょっと、わたくしのお話聞いてくださらない?
わたくしひとりの胸の内にしまっておくのが、とても苦しいんですの。
わたくしには一つ違いのリゼという妹がおりまして、と言っても異母姉妹なんですけれど。
これがまた、見た目はたいそう可愛らしい子ですの。
ええ、「見た目は」ね。
もうこれだけお伝えすれば、みなさまピーンと来ていらっしゃると思うのですけれど、もう少しお聞きになって?
この子、わたくしの実母が病で他界した際に、没落寸前の男爵家の令嬢だったお義母様と一緒に我が家に引き取られましたの。
でも、わたくし、身分で人を差別するような了見の狭い人間ではございませんし、初めはこのお二人をとても歓迎しておりましたのよ?
お父様は仕事人間で家を空けることが多くて、(まあ、今となってはお義母様の家に入り浸る口実だったのだろうと思っておりますけれど)一人っ子だったわたくしは、愛情をたっぷり注いでくださるお母様と、気心の知れた使用人たちに囲まれて、それなりに幸せに暮らしておりました。
でも半年ほど前、お母様が病に倒れてあっけなく他界。
悲嘆に暮れていたところに、新しい家族が現われたのです。
そんなもの受け入れる必要はないと、使用人や友人たちは怒ってくれましたわ。
でも、わたくしは受け入れたいと思いましたの。
いつの間にかお義母様と浮気して、別に家族を作っていたお父様には早々に天罰が下ってほしいとは思いましたけれど、男爵家の方が侯爵に逆らえるわけもないですし、ましてや娘のリゼには何の罪もないのですから。
それに、使用人も友人も大好きですけれど、家族ってやっぱり特別でしょう?
お母様を忘れることは生涯ないけれど、この新しい家族とも楽しく暮らせたらいいなと、心から思っていたのですわ。
でも、残念なことに、その願いはすぐに消えてなくなりました。
この母娘、呆れるくらいの曲者でしたの。
笑顔の下に棘を隠したような方たちで、まるで最近流行りの小説の──悪役令嬢もの?にありがちな、陰湿な継母とクズヒロイン……あら、言葉が乱れましたわね、失礼。
それはもう、困ったちゃんな母娘だったのです。
「家のことはすべてカトリナ(お義母様のお名前ですわ)に任せる」とお父様がおっしゃった瞬間から、古くからの使用人たちは次々と追い出され、わたくしの居場所は静かに削られていきました。
リゼもまた、わたくしの物を欲しがっては勝手に部屋へ入って、あれもこれも持って行ってしまうし。
お母様の形見の宝石だけは何とか死守しましたけれど──。
「お姉さまはお優しいから、私に譲ってくださるでしょう?」
と上目遣いで言うあの子の貼り付けたような笑顔を見るたび、氷より冷たいものを感じましたわ。
まあとにかく、こうして、わたくしが夢に見た仲睦まじい家族像は、いとも簡単に崩れてしまったのです。
……あ、みなさま、今「テンプレ」って思いましたわね?
ええ、わかっておりますわ。
でも事実なのですから仕方ないのです。
それに「テンプレどおり」ですから、ここからちゃんと、「ざまあ」が始まりますわよ?
こういうお話、お好きでしょう?
うふふ。
……一気に話して喉が渇きましたわね。
ちょっと失礼してお紅茶を──。
ふう、どこまでお話しましたかしら?
あ、そうそう。
わたくしに起こった悲劇的な出来事をお伝えしたところでしたわね。
で、ここからが本題なのですわ。
わたくし、ここまでされて泣き寝入りするような、大人しい性格ではございませんの。
けれど、表立って反撃することもしませんでしたわ。
だって、それこそ世間に「悪役令嬢」として映ってしまっては、あの方たちに大義名分を与えてしまうでしょう?
だから、わたくし決めましたの。
わたくしからすべてを奪うと言うなら、奪わせて差し上げようって。
反撃はせず、あくまでもか弱い令嬢を装って。
え、どこが「ざまあ」なのかって?
まあまあ、今からそれをお話しますわ。
もう少しお付き合いくださいまし。
わたくし、幼い頃にお父様に決められた婚約者がおりまして。
ヴィンセント・グラハムという公爵家の次男坊なのですけれど。
見た目はそれなりに麗しい殿方。
身分だって我が家より上。
でも、性格はいわゆるモラハラ気質で、こんな方に嫁ぐのはちょっと、いえ、かなり嫌だなと思っておりましたの。
そ・こ・で。
わたくし、この方を心から愛している風を装いましたの。
ヴィンセントは急に熱い視線を送るようになったわたくしに「やっと俺の良さが分かったか」なんて寝言をおっしゃっておりましたけれど。
こうして、わたくしの方からヴィンセントを追いかけるようにして過ごすうちに、リゼがヴィンセントにアプローチしてくるようになったのです。
そしてついに、ヴィンセントから「図々しく鬱陶しいお前との婚約は破棄する! 俺は、この優しく可愛らしいリゼと婚約する!」と宣言していただいたのですわ!
本当に、浅はかで助かりますわね。
リゼはというと、「そんなつもりはなかったの。ごめんなさい、お姉さま──」とか涙を浮かべてしおらしい演技をしておりました。
白々し過ぎて笑いそうになってしまいましたわよ。
お父様もお義母様も「姉なんだから妹に譲るのが当然だろう」とか「殿方を魅了してしまうのは、私譲りかしら? ごめんなさいね、イザベラさん」とか、好き放題おっしゃってましたわね。
わたくしは、少し悲しそうな演技をしながら「可愛い妹のためですもの」と言って身を引きましたわ。
もちろん内心は、「ええ、それはもう熨斗を付けて差し上げます。返品不可です。」でしたけれども。
他にも、家にあるもので価値のない絵画やら宝飾品やら、そんなものもすべて、さも価値があるように扱って、片っ端から奪っていただきましたわ。
うちのお父様、審美眼はからっきしで、悪徳商人の口車に乗せられてガラクタを買ってしまう悪癖がありますの。
お義母様とリゼったら、そのガラクタ全部、所有権をご自分たちに変更してしまわれましたわ。
お父様のことも、いずれは捨てるおつもりかしら?
まあ、わたくしにとってはどうでもいいことですけれど。
最後には、リゼを虐めただの、横領しただの、根も葉もない罪をでっち上げられて、家を追い出されましたわ。
でも、構いませんの。
逆に、本当に価値のあるものはまんまと手中に収めましたもの。
本物の美術品や宝飾類は、奪われる前にこっそり屋敷の外へ持ち出しておいたのですわ。
友人や元使用人たちが協力してくださいましたの。
持つべきものは気心の知れた友と使用人ですわね。
ありがたいことですわ。
あ、それから先日、素敵な殿方にも出会えましたの!
家を追い出されたわたくしを心配して、お屋敷に居候させてくれた友人の家のパーティーに来ていた隣国の辺境伯家のご令息で、テオドール・ド・ブランシェールという方ですの。
辺境伯家ですから、武人としての実力も確からしいのですけれど、決して無骨ではなく、見目麗しく、穏やかで賢くて、とても優しい方ですのよ?
そんな方がなんと、わたくしに一目惚れしてくださったのですって!
わたくしの境遇に同情して、プロポーズまでしてくださいましたの。
うふふ。
一緒に隣国へ帰ろうと言ってくださったので、お言葉に甘えて付いていくことにしましたわ。
もう実家のことはきれいさっぱり忘れて、この方と幸せに生きていきましょう。
……と思っていたら、そこへひょっこり、母方の伯父様が現われたのです。
伯父様は隣国の侯爵で、今は外務大臣をなさっている方ですの。
元々外交官として海外を飛び回っていらした伯父様は、ここ二年ほど遠方の国に滞在していたそうで、つい先日ようやく隣国へ戻られたのだとか。
そしてその時に、お母様の死を知ったのですって。
(ちなみに、その功績が認められて今回、外務大臣に抜擢されたそうですわ。さすが伯父様!)
伯父様はかなりのシスコンで、お母様をそれはもう猫可愛がりしていたそうで……
わたくしも小さい頃に何度かお会いして、とても可愛がっていただいた記憶がありますの。
そんな伯父様が慌てて我が家を訪ねてみたら、わたくしが追い出されていたものですから、烈火のごとくお怒りになったのだとか。
伯父様はまず、わたくしを養子に迎えてくださって、テオドール様との婚約を正式に取り付けてくださいましたの。
国王陛下からの信も厚い外務大臣の養女との婚約に、テオドール様のお父上、ブランシェール辺境伯様もたいそうお喜びになったとか。
一方で、わたくしを冷遇したあの方たちに鉄槌を下されたのですわ。
実は実家の屋敷と土地は、お母様のものだったのですって。
男爵家出身のお父様は、婿養子だったのです。
しかも、お母様は生前、伯父様に遺言書を残していて、そこには屋敷と土地はわたくしに相続させると書いてあったのですわ。
法律に疎いお父様は、その辺りのことが分かっていなかったようで。
貴族なのに情けないですわね。
でも、わたくしはもう伯父様の養女になりましたし、隣国でテオドール様に嫁ぐつもりでおりますから、屋敷も土地も必要ありません。
お母様との思い出はしっかり胸にしまってありますから。
それでも、あの方たちにくれてやるのは惜しいと言ったら、伯父様が彼らを追い出して、別荘として残せば良いと言ってくださったのです。
しかも、解雇された古参の使用人たちを呼び戻し、屋敷と庭の管理を任せてくれたのです!
もう他の家に奉公している者もおりましたけれど、ほとんどの使用人が帰ってきてくれましたわ。
うちは元々使用人も住み込みで働いていましたから、古巣に帰って来られて、みんなそれは喜んでおりました。
逆に家を追い出される形になったお父様たちは、散々恨み言を言っていましたけれど。
お父様とお義母様との仲もこじれて破局したようですわ。
それでも、お父様に関しては、伯父様の口利きでなんとか自分の実家に戻れるようになったらしく。
父方の祖父母は既に他界し、お父様の弟である叔父様が跡を継いでいるのですけれど、後のことは叔父様が何とかしてくださるそうですわ。
お父様、まだプライドを捨てきれないのか、始めは「今更、弟の世話になどなるものか! 自分の身くらい自分でなんとかする!」と息巻いていらしたようですけれど、結局、頼った友人知人は誰一人助けてくださらなかったのですって。
隣国の外務大臣の圧力がかかっていることもあるのでしょうけれど、そもそもの人望の無さが原因な気がしますわね。
それに比べて、わたくしは本当に良い友人に恵まれましたわ!
ああ、そうそう。
リゼはヴィンセントとの仲を確実にするために、彼を誘惑して婚前交渉した挙句、妊娠したと嘘をついて早々に入籍したものの、ひどいモラハラに耐え兼ねて、出戻って来たとか。
社交界でちょっとした噂になっているそうですわ。
なんともまあ、想像通りですわね。
身代わりになっていただいて、ありがたい限りですわ。
でもあの方、結構しつこいですから、きっと連れ戻しに来るなり、嫌がらせに来るなりしますわよ?
今はまだ、噂のせいでご両親に大目玉を食らって謹慎中らしいですけれど。
お気をつけあそばせ?
で、そのリゼとお義母様はと言うと、家を出ていくように伝えた伯父様とわたくしに「無一文で寒空に放り出すなんて、あなたたちは悪魔なの!?」と、食って掛かっていらしたので、所有権のある芸術品や宝飾類は当然持って行って構わないと言って差し上げたら、一転して大喜びでしたわ。
何とも単純な方たちですこと。
伯父様も呆れていらっしゃいましたわね。
リゼが「ありがとう、お姉さま!あなた案外良い人だったのね!」と、何気に失礼なことを言っていましたけれど、お礼を言うのはこちらのほうですのよ?
だって、アレ──。
全部、有名芸術家の作品の贋作なんですもの。
わが国では、贋作を作るのも売るのも所有するのも犯罪なのです。
お父様が贋作を次々に買ってしまった時は、どうやって処理しようかと、お母様と頭を悩ませていたものですわ。
お父様にそれとなく「贋作では?」と伝えても、「そんなわけはない!」と聞く耳を持ってくださらず、勝手に処分もできなくて。
売りつけた悪徳商人は事実を知っておりますから、売買を証明するような書類は残しておらず、物さえ見られなければなんとかなる。
そう考えたお母様とわたくしは、知人に見せびらかそうとするお父様を「こんな素晴らしいお宝、噂が漏れて盗まれてはいけません。これはお父様おひとりで楽しむべきですわ!」と説得し、贋作一式を、とりあえず人目に付かないように、屋敷の一番奥の一室に集めておいたのです。
もちろん、使用人たちにも箝口令を敷いて。
それを、あの方たちが全部持って行ってくださったのですわ!
うふふ。
風の噂で聞いたのですけど、あれからお義母様とリゼは、犯罪者として捕まったらしいですわ。
例の贋作を売ろうとして、詐欺罪で投獄されたとか。
わたくしに罪をなすり着けようとしたみたいですけれど、お門違いでしてよ?
だって、所有者はお二人なんですもの。
「贋作なんて知らなかった。住んだ時には既に屋敷にあって、それを譲り受けただけだ」なんて言ったところで、それを証明するものは何もないのですから。
わたくしを冷遇した使用人たちには伯父様が制裁を与えてくださったから、証言はしないでしょうし、古参の使用人たちも、わたくしを裏切ることはない。
もちろん、お父様だって、あれらが贋作だと分かった今、わざわざ証言なんてしないでしょう。
捕まってしまいますもの。
だから、物的証拠も証言も、ありませんの。
それに、少なくとも、所有の罪と転売の罪は確定しているのですもの。
諦めるしかないですわよね。
審美眼を持たなかったことをお恨みになって?
モラハラ婚約者も贋作も、我が家の悩みの種を全部持ち去った上に自滅してくださるなんて。
本当に、「お礼を言うのはこちらですわ!」でしてよ?
さて、みなさま。
ここまでお話にお付き合いくださって感謝いたしますわ。
ね、ちゃんと「ざまあ」でしたでしょう?
楽しんでいただけたかしら?
どなたかと共有したくてムズムズしておりましたの。
口の堅い友人数名には話したのですけれど、社交界の噂話になっては困りますから、貴族のみなさまには話せなくて。
お陰様で、わたくしは今、愛する夫に大切にされながら、とても幸せに暮らしておりますわ。
みなさまも、どうぞ幸多き人生をお過ごしになられますよう。
あ、念のため、審美眼は磨いておかれるとよろしくてよ?
イザベラ・フォン・リースフェルト
改め
イザベラ・ド・ブランシェール




