トントンとピコと流れ星の川
その夜、空にはいつもよりたくさんの星が光っていました。
「ねぇピコ、今日は流れ星が見えるかも!」
トントンが目をきらきらさせて言いました。
「ほんとに? オイラ、ひとつだけ見られたらいいなぁ」
ふたりは小さなランタンを持って、森のはずれの丘へ向かいました。
でも星を探して歩いているうちに、道を少しまちがえてしまいました。
「あれ、ここどこだろう」
「トントン、あっちに川があるよ」
そこには、ふたりが見たことのない川が流れていました。
「ねぇピコ、見て。川がひかってるよ……!」
「ほんとだ。夜空が流れてるみたいだね」
川の水は月の光とたくさんの星をうつして、ゆらゆらと輝いていました。
その中にひとつだけ、小さな光る石がゆっくりと流れていました。
「お星さまが流れているみたいだね、トントン」
「うん、きれい……」
トントンは思わず水辺にしゃがみこみました。
光る石のまわりの水はほんのり金色に染まり、
あたりの草までやわらかく照らしています。
そっと手を伸ばして水にふれると、
いつもよりぬくもりを感じました。
「ねぇピコ、水が……あったかいよ」
「えっ、ほんと? 夜の川なのに……?」
トントンが手をすくうと、光が指のあいだからこぼれました。
まるで、小さな星をすくったみたいでした。
「あの石もしかして、空から落ちてきたのかな」
「え? 流れ星のかけらってこと?」
ピコが目を丸くすると、トントンはうなずきました。
「うん。だから、川を流れて “空に帰る途中” なのかもしれないね」
ふたりは、ゆっくりと流れていく光る石のあとを追うことにしました。
川べりには古い木の箱が置いてあり、
トントンがそれをひっくり返して小さな舟を作りました。
「のってみよう、ピコ」
「ええっ! 流されたらどうするの」
「大丈夫、川の流れはゆっくりだよ」
ピコがトントンのとなりに座ると、舟は静かに流れはじめました。
川の流れはおだやかで、波が木の舟をやさしくなでます。
前を行く光は、魚のように泳ぎながら、
まわりの木々を金色に照らしていました。
「ねぇトントン、あれがほんとに星のかけらならどこに帰るんだろう?」
トントンは少し考えて、
「きっと夜空のいちばん高いところ。いちばん遠くて、でもいちばんきれいな場所さ」
と答えました。
やがて、川は小さな池へとつづいていました。
その池は、まるで夜空をうつした鏡のようです。
光る石は池の手前でふわりと浮かび上がり、ゆっくりと空へ昇っていきました。
光が反射して、ふたりの顔にもやわらかな光があたります。
「……帰れたんだね」
トントンがつぶやくと、ピコはにっこり笑いました。
「うん。でも、ちょっとさみしいね」
空にはひとすじの流れ星。
そのあとを追うように、川の水がきらめいていました。
トントンとピコは静かに見上げました。
その光は、ふたりの心にも、そっとのこっていました。




