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第七章:新しい夜明け


 その夜から、私たちの関係は新しい段階に入った。それは恋人同士の関係というよりも、深い魂の絆で結ばれた二人の関係だった。智也さんは私に愛を教えてくれる師であり、私は愛を学ぶ生徒だった。


 「愛の第一歩は、自分を愛することから始まります」


 智也さんは静かに言った。


 「あなたは今まで、自分を愛したことがありますか?」


 私は首を振った。


 「では今日から始めましょう。毎日、鏡の前で自分に『おはよう』と言ってください。まるで大切な友人に話しかけるように」


 それは最初はとても恥ずかしく、ばかばかしく感じられた。でも智也さんの指導の下、私は少しずつ自分との関係を改善していった。


 「自分を愛するということは、自分の完璧でない部分も受け入れることです。あなたの傷も、恐怖も、それら全てがあなたという人間を形作っている大切な要素なのです」


 智也さんとの時間は、私にとって生まれて初めての安全基地だった。どんな醜い感情を吐露しても、どんな弱音を吐いても、彼は決して私を見捨てなかった。


 「今日はどんな一日でしたか?」


 毎晩、智也さんは私の話を聞いてくれた。仕事でのちょっとした出来事、道で見かけた花のこと、読んだ本の感想。どんな些細なことでも、彼は真剣に耳を傾けてくれた。


 「あなたの感じたこと、考えたこと、全てに価値があります。あなたという存在そのものに価値があるからです」


 そして三ヶ月が過ぎた頃、私は初めて智也さんに質問をした。


 「智也さん、どうして私なんかを……」


 「その質問はもうやめましょう」


 智也さんは優しく微笑んだ。


 「『私なんか』ではありません。『私を』と言ってください」


 「……どうして、私を愛してくれるんですか?」


 「それが愛だからです。理由はありません。ただ、あなたが存在するから、愛している。それだけです」


 その言葉を聞いた時、私の心の中で何かが大きく変わった。愛に理由は要らない。私が私であることそのものが、愛される理由なのだと、初めて理解できた。


 そしてある夜、私は生まれて初めて、心から愛の言葉を口にした。


 「智也さん」


 私は彼の目をまっすぐ見つめて言った。


 「愛してます」


 それは計算も、恐怖も、条件もない、純粋な愛の告白だった。


 「私も愛しています、紗月さん」


 智也さんは涙を浮かべて答えた。


 「君がそう言ってくれるまで、僕はずっと待っていました」


 私たちはその夜、初めて深く口づけを交わした。それは肉体的な欲望からではなく、魂と魂が触れ合うような、神聖な瞬間だった。


 愛とは奪い合うものではなく、与え合うものだった。傷つけ合うものではなく、癒し合うものだった。そして何より、愛とは相手を完璧に変えることではなく、その人のありのままを受け入れることだった。


 私はようやく、本当の愛を知ったのだ。



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