表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼星のレクイエム  作者: ノザキ千溜
灰燼(かいじん)の星編
3/61

沙羅曼蛇

灰燼の星の朝――いや、時間感覚が狂うこの星ではただの熱の増す時間帯だ。俺、藤原タクヤは、部族の奴隷として長老にこき使われていた。溶岩のそばで鉱石を掘り、毒針の尾が擦れるたび体が軋む。昨日、溶岩獣を倒したおかげで少しマシな目で見られるようになったが、長老の態度は冷たいまま。

「動け、ジチュー野郎!もっと掘れ!」

長老の声は低く、杖を地面に叩きつけるたび部族の奴らがビクつく。皺だらけの鱗に覆われた顔、赤い目が俺を値踏みする。ザルクが近くで槍を磨いてるけど、口を挟む気はないらしい。

「オレ、昨日戦っただろ…!」

文句を言うと、頭にフラッシュバックが走る。――大学の近くのラーメン屋。セイラと並んで二郎系ラーメンをすすり、彼女が「タクヤ、もっとニンニク入れなよ!」って笑う声。あの味が恋しい。生きててくれ、セイラ。俺、帰るから。

仕方なく、汗と灰まみれで掘り続ける。空気は薄く、溶岩の熱が肺を焼く。ザルクが小声で止める。「黙れ、タクヤ。長老は恩を忘れる奴だ。実力で認めさせろ。」

その時、遠くで叫び声。集落の外から、部族の子供が走ってくる。長老の孫娘、10〜12歳くらいのメスガキだ。鱗はまだ薄く、尾も短い。息を切らして叫ぶ。

「蛇!巨大な蛇が!助けて!」

長老の顔が一瞬青ざめる。ザルクが立ち上がり、俺を引っ張る。

「行け、ジチュー野郎。チャンスだ。」

外に出ると、砂漠のような荒地に巨大な影。沙羅曼蛇――体長7メートルはあり、砂と溶岩でできた鱗が光る。口から熱風を吐き、子供を追い詰めてる。子供が転がり、蛇が襲いかかろうとした瞬間、俺は毒針の尾を振り上げた。

「離せ!」

針が蛇の鱗に当たるが、弾かれる。ザルクが飛び込み、溶岩槍で蛇の首を狙う。だが、蛇が尾でザルクを弾き飛ばす。

「くそっ…!」

子供を背に庇い、毒針を再び振り回す。今回は目狙い。針が目に刺さり、蛇がうろたえる。ザルクが立ち上がり、槍を全力で投げる。ズバァッ!首を貫かれ、蛇は砂に崩れた。

子供が泣きながら俺にしがみつく。長老が駆けつけ、孫娘を抱き上げる。俺とザルクは息を切らして立つ。

「お前…ジチュー野郎が…」

長老の声が震える。杖を俺に突きつけ、じっと見つめる。

「お前を認める。アレキサンダー。お前がこの星で生きるなら、その名で呼ばれろ。」

アレキサンダー?立派な名前だ。俺は戸惑いながらも頷く。タクヤは地球の名前。こっちではアレキサンダーか。

「アレキサンダー、受け入れるか?」

「…ああ、受け入れる。」

部族が唸り声で拍手し、ザルクが肩を叩く。

「悪くねえ名だ、ジチュー野郎。」

「アレキサンダーって呼べバカヤロウ!」


その夜、火のそばで長老が俺に近づく。

酒瓶を渡し、初めて穏やかな目で言う。

「アレキサンダー、孫娘を救った恩は忘れねえ。お前を仲間として扱う。」

ザルクが笑う。「ようやく仲間か。ジチュー野郎もやるじゃねえか。」

オレは地球に帰る。タクヤとして、そして、アレキサンダーとして絶対に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ