沙羅曼蛇
灰燼の星の朝――いや、時間感覚が狂うこの星ではただの熱の増す時間帯だ。俺、藤原タクヤは、部族の奴隷として長老にこき使われていた。溶岩のそばで鉱石を掘り、毒針の尾が擦れるたび体が軋む。昨日、溶岩獣を倒したおかげで少しマシな目で見られるようになったが、長老の態度は冷たいまま。
「動け、ジチュー野郎!もっと掘れ!」
長老の声は低く、杖を地面に叩きつけるたび部族の奴らがビクつく。皺だらけの鱗に覆われた顔、赤い目が俺を値踏みする。ザルクが近くで槍を磨いてるけど、口を挟む気はないらしい。
「オレ、昨日戦っただろ…!」
文句を言うと、頭にフラッシュバックが走る。――大学の近くのラーメン屋。セイラと並んで二郎系ラーメンをすすり、彼女が「タクヤ、もっとニンニク入れなよ!」って笑う声。あの味が恋しい。生きててくれ、セイラ。俺、帰るから。
仕方なく、汗と灰まみれで掘り続ける。空気は薄く、溶岩の熱が肺を焼く。ザルクが小声で止める。「黙れ、タクヤ。長老は恩を忘れる奴だ。実力で認めさせろ。」
その時、遠くで叫び声。集落の外から、部族の子供が走ってくる。長老の孫娘、10〜12歳くらいのメスガキだ。鱗はまだ薄く、尾も短い。息を切らして叫ぶ。
「蛇!巨大な蛇が!助けて!」
長老の顔が一瞬青ざめる。ザルクが立ち上がり、俺を引っ張る。
「行け、ジチュー野郎。チャンスだ。」
外に出ると、砂漠のような荒地に巨大な影。沙羅曼蛇――体長7メートルはあり、砂と溶岩でできた鱗が光る。口から熱風を吐き、子供を追い詰めてる。子供が転がり、蛇が襲いかかろうとした瞬間、俺は毒針の尾を振り上げた。
「離せ!」
針が蛇の鱗に当たるが、弾かれる。ザルクが飛び込み、溶岩槍で蛇の首を狙う。だが、蛇が尾でザルクを弾き飛ばす。
「くそっ…!」
子供を背に庇い、毒針を再び振り回す。今回は目狙い。針が目に刺さり、蛇がうろたえる。ザルクが立ち上がり、槍を全力で投げる。ズバァッ!首を貫かれ、蛇は砂に崩れた。
子供が泣きながら俺にしがみつく。長老が駆けつけ、孫娘を抱き上げる。俺とザルクは息を切らして立つ。
「お前…ジチュー野郎が…」
長老の声が震える。杖を俺に突きつけ、じっと見つめる。
「お前を認める。アレキサンダー。お前がこの星で生きるなら、その名で呼ばれろ。」
アレキサンダー?立派な名前だ。俺は戸惑いながらも頷く。タクヤは地球の名前。こっちではアレキサンダーか。
「アレキサンダー、受け入れるか?」
「…ああ、受け入れる。」
部族が唸り声で拍手し、ザルクが肩を叩く。
「悪くねえ名だ、ジチュー野郎。」
「アレキサンダーって呼べバカヤロウ!」
その夜、火のそばで長老が俺に近づく。
酒瓶を渡し、初めて穏やかな目で言う。
「アレキサンダー、孫娘を救った恩は忘れねえ。お前を仲間として扱う。」
ザルクが笑う。「ようやく仲間か。ジチュー野郎もやるじゃねえか。」
オレは地球に帰る。タクヤとして、そして、アレキサンダーとして絶対に。