軌石祭(きせきさい) 前夜
ヴェルティスの夜空に、月のような衛星が静かに浮かんでいた。俺、アレキサンダー(元藤原タクヤ)は、宇宙船の甲板に立ち、緑豊かな陸地と青い海が混ざり合う景色を見下ろしていた。ヴェルティスは交易で栄えた惑星だが、資源争奪戦が絶えなかった。約500年前、種族間の和平を祝うために始まった輝石祭が、争いを最小限に抑える効果をもたらし、今も続いている。輝石——光を反射する希少鉱石は、交易の象徴として神聖視され、ギルドが主催する祭りは交易の掟を再確認する場だった。毎月1日の満月時に3日間開催され、今夜がその初日だ。
この惑星は、地球の半分ほどの面積を持ち、海と陸地の比率が5:5。四季はないが、極めて地球と環境が近く、前世の記憶を持つ俺にとってどこか懐かしい感じがした。風が頬を撫で、故郷の地球を思い出し、感傷に浸っていると、背後から声がした。
「なぁ、この星って緑豊かで海もあって、いいところだよな。地球はこれよりももっと凄いのか?」ザルクが赤い翼を広げ、俺の隣に立っていた。溶岩槍を肩に担ぎ、ドラゴノイドらしい野性が滲む彼の声に、俺は微笑んだ。「あぁ…きっと、見たら感動するさ…オレもお前も」と答えた。ザルクが目を細め、「そうか…楽しみだ」と呟き、しばらく黙って海を見続けた。