忌み子
灰燼の星の昼、溶岩地帯は戦いの余波で静寂に包まれていた。俺、アレキサンダー(元藤原タクヤ)はザルクと共に、カイラを追い詰めていた。
「一撃奪取」で圧倒的な速度を誇るカイラだったが、俺の毒霧と長老の爆炎に巻き込まれて徐々に衰え始めていた。
長老の命を燃やした爆炎は100名の海賊を半減させ、部族に一息の隙を与えた。だが長老は地面に倒れ込み、リナが泣きながら彼を抱きしめる。
「おじいちゃん…!」
「リナ…そんな悲しい顔をするな……お前には笑顔が似合うんだから……誰よりも優しいお前は……ドラゴノイドの希望だ…!お前が大人になるのを…見届けられないのが残念だ………愛してるぞリナ…死ぬ……なよ」
長老は初めて孫娘に涙を見せた。
老いた体は限界を超え、リナの腕の中で安らかに息を引き取った。
部族のドラゴノイドが海賊と戦い続ける中、俺は拳を握る。長老の犠牲を無駄にしない。
「ザルク、まだ動けるか?」
「あぁ…」
ザルクが炎の分身体を5体作り、さらに煙でカイラの視界を遮る。俺は毒針を振り、足に酸を浴びせる。カイラの動きがさらに鈍り、刀と短刀の二刀流も乱れ始める。
「くそっ…雑魚どもが…!」カイラが吼え、刀で分身体を切り裂くが、俺の毒が彼女の青い皮膚に黒い斑点を増やす。ザルクが尾を大きく振る。カイラはジャンプで避ける。
そこにザルクはすかさず溶岩槍を投げる。カイラは刀で弾こうとするが、
(ドクンッ!)
毒の影響で反応が遅れ、肩に槍が突き刺さる。溶岩が垂れ、彼女の皮膚を焦がす。
「うぅっ…!」
カイラが膝をつき、息を切らす。
彼女の目が揺れ、過去を思い返す。
幼少期、カイラは魔族の惑星カザルドの貧民街で生まれた。青い皮膚と一本しかないツノは「疫病の印」とされ、両親は彼女を捨て、村人から石と汚水を浴びせられた。5歳で3歳の弟を飢えで失い、6歳で家が焼かれ、野犬に追われながらゴミを漁った。8歳、奴隷商に捕まり、鉄の檻に閉じ込められた。鞭と飢えで仲間が次々と死に、彼女は血と泥の中で泣き叫んだ。10歳、片目を失いかけ、感染症で体が腐りかけたが、善良な医者によって治療され奇跡的に生き延びた。だがその直後、善良な医者は人身売買のために治療を施したことが判明。彼女は再び奴隷として売りに出される。だが、彼女の運命が変わり始める。道中、奴隷船が宇宙海賊に襲われ、彼女は保護された。彼女を保護したのは宇宙海賊のリーダー、ガルドだった。粗野だが優しい巨漢の魔族(当時28歳)で、
「お前は逃げ足が速いな。お前を捕まえるのが最後だった。その速さが武器だ」
「お前は俺が立派な宇宙海賊にしてやる」と言われ、その日から訓練を始めた。
ガルドはカイラを娘のように育て、よく夜には一緒に宇宙船から星々を眺めて話をしていた。
月日が経ってある日、「俺は不治の病なんだよ。だからもうじき俺が死んだら、お前がボスだ」とガルドは笑った。
カイラはどうにか彼の役に立ちたいと思い、ただひたすらに戦闘の仕事をした。
15歳、カイラは宇宙海賊のスピードスターとして名を馳せ、ガルドたち宇宙海賊とさらに絆を深めた。
「ガルド!ここから遠い星に医療が発達した地球って星があるらしい!!蒼く輝く宝石のような星だ!その不治の病も治るかもしれない!」
ガルドの不治の病は、地球でいう結核だった。確かに、地球の医療なら治せない病気ではない。
カイラはその頃20歳、不治の病を治すために地球に向かっている最中にガルドが敵艦と戦いになり、敵の中でも強力な連中に孤立無援の状態にされ、最大出力のプラズマを放って応戦するが、抵抗も虚しく駆けつけてきたカイラの目の前で戦死してしまう。
「次はお前がボスになるんだカイラ」そういい残すとガルドから発していた稲妻が完全に消えた。
幹部たちが頭上に輪っかがあり、翼の生えた敵達と争う中、カイラは涙を呑み、刀で騒乱を鎮圧。血に染まった手で女ボスに昇格した。だが、育ての親であるガルドと当時の仲間をほとんど失い、心は空っぽ。速さだけが生きる証だった。だが、その速さでも仲間を守ることができなかった。彼女はなんのための速さか、自分の命よりも守りたかったもの、弟が餓死した日を思い出し彼女は自分を責めた。
いつも自分だけが生き残る運命を恨んだ。自分がこれから救う命に無駄な期待を抱かずに、ガルドの意思を継いで宇宙海賊を続けて再び新しい仲間たちを増やしていった。
「一撃奪取」は、ガルド達を守れなかった悔恨から編み出した技である。
現実に戻り、カイラの目から涙が溢れる。
「ガルド…見てる?」
俺は毒針を構えつつ、彼女の表情に戸惑う。ザルクが吼える。「アレキサンダー、情けは無用だ!そいつは笑いながらオレらの友達を殺しやがったんだ!!」
カイラが立ち上がり、毒と火傷に侵された体で「一撃奪取」を強引に発動。光を超える速度で再び俺に迫る。絶体絶命!!かに思えたが、彼女がアレキサンダーだと思って突撃したものはザルクが発生させた蜃気楼によるダミーだった。隙を突いてザルクが溶岩槍で不意打ちを繰り出すが、間一髪のところでカイラは短刀でいなし、次の瞬間
「ザシュッ」
ザルクの左腕が空を舞った。
アレキサンダー「ザルク!!腕が!」
ザルク「いっ…てぇ………!」
カイラは生じた隙を見逃さず、ザルクの腹部を蹴り、ザルクとアレキサンダーのタッグを崩す。
「まだ…終わりじゃない…!」カイラの声が震える。
アレキサンダー「くそ、くそっ!」
部族が海賊に押され、リナが叫ぶ。「アレキサンダー!ザルク!お願い!はやく助けにきてよ!!」
リナの悲痛な叫びを聞いて俺は奮い立った。
俺は毒霧を再噴射し、カイラの周辺を包む。それでも彼女は踏み込み、刃を向けてくる。
オレは一瞬走馬灯を見た。
前世…地球での日々、セイラの笑顔、そしてここで過ごした日々……ザルクやリナたちの笑顔…長老の勇姿を……
顔の目の前まで刃が迫ったところで彼女の動きが止まり、刀が地面に落ちる。踏み込みで深く息を吸ったため、毒が肺を突き破ったのだ。彼女は膝から崩れ落ちた。ザルクは溶岩槍でカイラを仕留めようとするが、俺が制止。
「待て、ザルク…何か…ある。」
「くそっ…なんでだよ!!こいつは…こいつは!オレらの仇なんだぞ!オレの友達だけじゃない…長老まで死んだ……リナが今どんな気持ちか想像しろアレキサンダー!!だから…こいつは絶対に今ここで殺すべきなんだよ…!」
カイラが下を向きながら力無く呟く。
「ガルド……許してくれ…もう…疲れた…私だけ生き残っても……結局なんの意味もなかった……なんの罪もない人々を殺してしまった……地獄以外ありえないな………」
過去の鎖が彼女を縛り、戦意を奪った。彼女は打ちのめされていた。俺は毒針を下ろし、複雑な気持ちで彼女を見つめる。
地球に帰る道と、カイラの運命が交錯する。