第66話 侵攻
おまけ話
シアは魔界ではベルザほどではないが名が知られている吸血鬼である。だが、強さというよりは権力や容姿で知名度が上がったらしい。
シアの発言により、男の堪忍袋の緒が切れる。
「舐めたこと言ってんじゃねえぞ!ぶっ殺してやる!」
そう言って男が持っていたナイフを手に取ってシアへと突っ込んだ。
シア「戦闘は好きじゃないの。そこで大人しくしてて。」
次の瞬間、シアが男を血液で拘束する。
「な、なんだこれ。くそ!」
男が必死に抜け出そうとするも、その拘束が解ける気配は全くなかった。
シア「動けないでしょ。あいつのせいで影に隠れがちだけど、私もそこそこ強いんだよ?」
シアが動けない男へと近づき、顔をつかむと口を強引に開けて血を体内に入れ込んだ。
「な、なにを……が!ぐ、ぐるじい。」
次の瞬間、男が苦しみ始めた。少しすると、男の体から罪人の魂が抜ける。
シア「よっと。はい、一兆上がり。」
「く、くそが…」
その後、捕らえた魂をさっきの門番のところに連れて行きそのまま引き渡した。そして気絶した男の体をベルザの家に持ち帰ることとなった。
ベルザ「相変わらず色々巻き込まれるよな。お前。」
シア「私じゃなくて、戦闘バカのあんたが巻き込まれればいいのに。」
ベルザ「というか、こいつ全然目を覚まさないな。もう三日は経つぞ。」
そんな会話をしていた時、男が目を覚ました。
「う、うーん。ここは?」
ベルザ「やっと起きたか。」
シア「気分はどうですか?」
二人の姿を見た途端、男は驚きの顔を見せて布団から飛び上がる。
「なななな、なんだお前ら!」
ベルザ「落着け。何も警戒する必要はない。」
シア「君が気絶しちゃったから、ここまで連れてきたんだよ。」
その言葉を受けて男が冷静さを取り戻し、再び二人を見る。
「あ、あんたはさっきの。」
シア「思い出してくれて何よりだよ。私は吸血鬼のシア。こっちはベルザ。」
ベルザ「よろしくな。」
「お、俺は周防実です。よろしくお願いします。」
そこから軽い自己紹介や魔界についてを話した後、本題に入る。
シア「さて、じゃあ聞かせてもらってもいいかな。君がどうやって魔界に来たのか。」
実「もちろんです。お二人は命の恩人ですし、俺の知る限りのことを教えます。」
そうして実はこれまでの経緯を話し始めた。
実「俺がここに来たのは、今から一週間前くらいになります。俺は現界の方ではBランクバトラーで、魔物の討伐をしていたんです。そして魔物を討伐し終えたとき、突然足元に謎の穴が出現して、そのまま落ちてしまったんです。」
シア「(意図して入ったわけではないんだ。)」
ベルザ「(突然魔界への穴が開いたのか?妙だな。)」
実「どこへ行っているのかもわからず、俺はそのままどんどん落下していって、やっと着いたと思ったら辺り一面荒れ果てた地面とかれた雑草でいっぱいでした。そのまま右も左もわからず辺りをふらふらしてました。いつどこに魔物がいるかわかりませんからろくに眠れず、食料も尽きかけたころ、あの場所で謎の声が聞こえて、何とか助けを求めようと走っていたらシアさんを見つけて駆け寄ろうとしたのですが時すでに遅く、肉体を奪われて今に至るといった感じです。」
シア「なるほどね…(魔界への侵攻の可能性は薄いかな?)」
シアが考えを巡らせてると、ベルザが質問を投げかける。
ベルザ「現界で他に魔界に落とされた人間はいるのか?」
実「いや、少なくともこの一週間はあったことはないですね。ただ…」
その時、実が何か思い当たる節があるのか少し考え始める。
シア「何か心当たりがあるの?」
実「……聞いたことがあります。国からの依頼で魔界に攻め込む計画が練られていると。」
その言葉を聞いた二人が驚きの表情を見せる。
シア「侵攻!?噓!」
ベルザ「詳しく。」
実「あくまでも噂ですが、現界の魔物の発生率を抑えるために魔界も統べるべく攻め込む気でいると。その為に魔界へ通じる道を作り出す研究がされているとか。」
ベルザ「……そうか。」
その話を聞き終えると、ベルザが凄まじいオーラを放つ。
ベルザ「自己中心的すぎる。共存の可能性を捨ててすぐに攻め込むとは。」
シア「信じられない。人間ってこんなに血気盛んなの?」
実「あ、あの…」
あまりのオーラに実が怖気づく。
シア「あ、ごめんごめん。つい取り乱しちゃった。」
2人がオーラを抑えて冷静さを取り戻す。
ベルザ「いい情報を聞いた。感謝する。礼と言っては何だが、お前は責任をもって俺らが現界へ帰そう。」
実「あ、ありがとうございます。」
その後、実をセロに任せて二人は情報を整理し始める。
シア「どうする?もしあの話が本当なら、いつ攻め込んでくるかわからないよ?」
ベルザ「とりあえず、この情報を上の奴らに伝えるか。今回の俺らの仕事は、魔界に入り込んでくる人間たちの調査だ。後のことは本職の奴らが何とかしてくれるだろ。」
シア「それもそうだね。にしても、あの子に対して随分優しいね。どういう風の吹き回し?」
ベルザ「別に。ただ無関係の奴を巻き込む必要がないってだけだ。」
こうして、情報を伝えることで任された仕事を完遂したことになったのだった。
翌日、早速ベルザは実を送るべく魔界を歩き回り、現界への穴を探していた。
実「わざわざありがとうございます。」
ベルザ「気にするな。情報の礼だ。」
実「そういえば、今日はシアさんはいないんですね。」
ベルザ「ああ、なんか親に呼ばれたらしい。」
そんな会話をしていると、目の前に現界への穴があるのを見つけた。
ベルザ「着いたな。この穴に入れば現界へ戻れるだろう。」
実「ありがとうございます。お世話になりました。」
実は別れの言葉を告げて、その穴へと入っていった。
実「(魔界にもいい人はいるんだな。俺ができることは少ないけど、また会えたら何かの役に立ちたいな。)」
実が現界に戻り、自宅へ帰る途中
?「裏切り者には、死を。」
実「!?(気配がなかった。誰だ?)」
次の瞬間、実の体を何者かが剣で貫いた。実はそのまま前のめりに倒れ、腹部から血が大量に流れる。
?「これで駆除は完了だ。いい見せしめになってくれ。」
その言葉と同時、背後の気配が消える。実は意識が朦朧としていて、もう立ち上がることも出来なかった。
実「ゴフッ!(ベルザさん。助けて貰ったのに、すみません。)」
その頃、魔界でもとんでもない事が起きていた。
魔人「ぐっ!くそが!(なぜ突然こんなことが!)」
「オラオラ!どけ魔人共!今日から魔界は俺らのものだ!」
突然魔界と現界を繋ぐ穴が大量に出現し、武装した人間が続々と攻め込んで来たのだ。
セロ「これは一体。」
ベルザ「セロ!大丈夫か!」
ベルザも異変に気づき、すぐに家に戻る。辺りには人間がどんどん攻めていて、護衛の吸血鬼達が応戦するも、多勢に無勢なのか少しずつ押され始めている。
セロ「内部に入られるのも時間の問題です。どうしたら.....」
ベルザ「......セロ。アルドフとジークレインを連れて父様のところまで行け。」
セロ「え、ベルザお兄様は?」
ベルザ「決まってるだろ。こいつらをまとめて殲滅する。」
次回
最悪の展開へ....
 




