第63話 再びの後悔
5章最終話
咲「(何こいつ、急に雰囲気が変わった。)」
ベルゼブブ「さあ、ここからが本番だ。」
そう言ってベルゼブブは再び眷属を出現させた。しかし、昆虫の種類は蟻だけではなく蜂やカマキリなどと増えていた。しかし、その中で一種類だけ明らかにオーラが違う昆虫がいた。
咲「(どの昆虫もさっきより強いけど、あの蠅型の奴だけとびぬけてる。)」
ベルゼブブ「やれ。」
その言葉と同時、ベルゼブブの眷属たちが一斉に襲い掛かる。
咲「ぐっ!(これはやばいかも。)」
一体一体の強さも上がり、数も増えたため徐々に咲が押され始める。
ベルゼブブ「油断してると、足元すくわれるぞ?」
咲「くっ!(対応しきれない!)」
咲が眷属に集中しているところをつくようにベルゼブブが背後に回り込む。そしてそのまま凄まじい速さの突きが飛ぶ。
咲「あっぶな!」
流石に双頭槍の攻撃をもらうわけにはいかず、咲はギリギリでその突きを躱した。だが、眷属達とベルゼブブの攻撃を同時に捌けるわけもなく、
咲「(流石に無理か。)」
無情にも蠅の体当たりが咲の懐に突き刺さる。それにより咲が後方に吹き飛ぶ。
咲「がっ!(なんて威力だ。)」
その勢いのまま咲が距離を離し、体制を整える。
咲「寄ってたかって一人の女子をいじめるなんて、恥ずかしくないの?」
ベルゼブブ「生きるか死ぬかの戦闘にそんな生ぬるいこと言ってられるわけないだろう。これも立派な戦術だ。」
そう言っても戦況は変わらず、咲はどう対処すべきか考えていた。
咲「(どうしよう。ベルザを出す?でも召喚中に倒せなかったら詰んじゃう。)」
ベルゼブブ「いいのか?攻めてこない限りどんどん眷属は増えていくぞ?」
その言葉の通り、ベルゼブブの眷属たちは増え続けていた。それは、ベルゼブブの能力が原因だった。
ベルゼブブの能力は【虫の王】。様々な種類の昆虫の魔物を眷属として召喚することが出来るというものだ。
ベルゼブブ「さて、そろそろ終わらせよう。食い散らかせ、お前たち。」
次の瞬間、蠅の魔物が一斉に襲い掛かってきた。
咲「くっ!(やっぱりこいつらだけ段違いに強い。)」
一度に相手する量が減ったのにもかかわらず、さっきよりも咲が押され始める。しかもさっきよりも攻撃の勢いが激しく、まるで咲を食らおうとして入りるようだった。
咲「ぐっ(このままじゃやばい!)」
咲も能力を最大限活用して対応していくが、徐々に対応しきれずこのままでは食われてしまうという状況になったとき、
湊「っと、医者はどこにいる!?」
誠一郎を抱えた湊が影から飛び出してきた。
咲「み、湊!」
ベルゼブブ「くっ、流石に時間をかけすぎたか。(丁度こっちも限界が近いな。)戻れ、お前ら。」
次の瞬間、突然ベルゼブブが眷属を引き上げさせた。
ベルゼブブ「サタン!そろそろ引き上げるぞ!」
サタン「あ?ったくこっからが面白いところだったんだがな。」
隼司「ぐっ、がぁ。(た、助かった。)」
隼司の方に目をやると、その場に膝をつき、吐血しているところが見えた。
サタン「おっ、湊じゃねえか。ったく、もっと早く来てくれよ。あいつはもう飽きちまって殺しちまうところだったぞ。」
湊「なんだと?」
その言葉を聞いた湊からの殺気が強まる。
ベルゼブブ「ほら、そろそろ行くぞ。」
サタン「はぁ、わーったよ。」
そう言って二人は魔界への穴の中に入っていった。
隼司「が、がぁ。」
それと同時、隼司がその場に倒れこんだ。
咲「隼司くん!しっかりして!」
湊「咲!早く医者の所に!」
そうして私たちは二人を医者の所まで運びに行ったのだった。
べラス「ただいま戻りました。」
エドラ「おお、帰ったか。ってその姿…」
べラスの姿を見た他の四天王が驚いた表情を見せる。
べラス「主はまだか?」
ローザ「うん、まだ帰ってきてないよ。にしても久しぶりだねその姿。そんな強い相手だったの?」
べラス「まぁそうだな。何せ相手は雷神だったからな。殺せはしなかったが、しばらくは戦線離脱だろうな。」
そんな会話をしていた時、部屋に入ってくるものがいた。
?「今帰った。」
それは用を済ませてきた主がいたのだ。四天王は瞬時に膝をつく。
べラス「お帰りなさいませ。」
?「おお、お前も帰ったか。サタンたちは来てるのか?」
べラス「先ほど帰ってきました。しかし、よろしかったのですか?他の七大悪魔も引き入れてしまって。」
?「かまわないさ。俺らの戦力になるなら都合がいい。」
その時、謎の違和感を感じたセレスが質問を投げかける。
セレス「主、僭越ながら一人称がお変わりになっています。」
?「え?ああ!すまんすまん。いやぁ、昔を思い出すとついこうなってしまてな。」
そう。四天王を従え、この組織のトップとして君臨している人物は…
夜闇「しかし氷華は相変わらずだった。我とあそこまでやり合えるとは。」
氷華と凄まじい戦闘を繰り広げた、夜闇だったのだ。
夜闇「あいつと戦闘した以上、もう正体は隠せないだろう。お前らも今後は名前で呼んでくれてかまわないぞ。」
べラス「心得ました。」
夜闇「さて、次の策を考えるか。」
咲「……」
湊「咲、大丈夫か?」
咲「ああ、うん。大丈夫だよ。」
雰囲気が悪かったのを悟ったのか、咲へ湊が話しかける。
咲「(私がもっと強かったら。)」
咲は後悔していた。自身の弱さ、無力さを再び痛感していた。
咲「(私、何にも変わってないじゃん。)」
その時、手術室から医者が出てくる。
湊「!先生。どうですか。」
医者は少しの沈黙を置いていった。
医者「一応二人とも、一命はとりとめた。だが…」
咲「何かあったんですか?」
医者「とりあえず詳しく話すからついてきてくれ。」
そう言われ二人は先生についていき、話を聞くことになった。
医者「まず、元宮隼司くんだが、数か所骨が折れていた。内臓も少し傷ついていたが、何とか一命はとりとめた。だが、当分は動けないだろう。」
咲「そうですか。」
咲はそれを聞いて少し安堵した。
湊「それで、誠一郎は。」
医者「…彼も一命はとりとめた。だが、脳への負担が凄まじかったのか、意識が戻る目途が立たない。いわゆる植物状態だ。」
湊「そ、そんな…」
その言葉を聞いた湊がこぶしを握り締めながら歯を食いしばる。
咲「どうにかならないんですか?」
医者「回復魔法は失われた部位を治したり、体力を回復させたりはできても、機能が停止した部位を再び再開させることはできない。こればかりは本人次第なんだ。」
咲「そうですか……」
しばらくの沈黙の後、二人を病室に運んだという報告を受けて、私たちはその病室へと向かった。
咲「誠一郎くん、隼司くん…」
ベッドで寝たきりになる二人を見て、咲は言葉が出なかった。
湊「くっ、畜生が…」
いつもは冷静な湊も口調が荒くなり、怒りを抑えられずにいた。その時、
碧「咲、湊。」
綿谷との戦いを終えやってきた碧達が病室に入ってきた。
観月「なっ、隼司。」
椎名「嘘…」
そしてベッドに横になっている隼司たちを見て、二人は怒りや悲しみの混じった顔を見せた。
碧「そんな……」
碧はその場に膝から崩れ落ちる。そして目から涙を流した。
咲「(私が、弱いから。)」
咲はもう二度とこの気持ちを味会わないために強くなることを誓っていた。だが、今再び仲間を失いかけ、その時のトラウマがよみがえる。それと同時、自身に対する怒りが膨れ上がり、病室に凄まじいオーラが放たれる。
湊「ぐっ(なんだこのオーラ。意識が飛びそうだ。)」
咲が今にでも暴走しそうになっていた時、
氷華「落ち着け、咲。」
突然咲の後ろに氷華が現れ、咲の頭に手を置く。
咲「氷華…」
それにより咲のオーラが落ち着いた。
氷華「恨むなら俺にしてくれ。今回の件は全部俺の責任だ。」
氷華はそう言って拳を強く握る。手からは血が出ているのが見えた。
湊「氷華、雷斗さんは?」
氷華「お前らが来る前にこっちに来て今は寝ている。他の三人は国からの刺客を預けた後、八聖人のところに行った。しばらくは戻らないかもな。」
氷華はそう言って寝ている二人に近寄る。
氷華「俺はしばらくこの病院に残る。お前らも休むために今日のところは帰れ。」
湊「……わかった。頼む。」
湊はそう言って泣いていた碧を支えながら病室を後にする。観月と椎名もそれに続くが、咲はその場に立ち尽くしていた。
氷華「咲?」
咲「………」
咲はただ何も言わずそこにいた。
氷華「……俺の事は気にしなくて大丈夫だ。だから、自分の気持ちを優先しろ。」
咲「!!」
氷華は何かを悟ったのか、咲にそう声をかける。その言葉を聞いた咲は、氷華へ近づき胸元に顔を当てる。
咲「…うぅ、なんで…」
そして咲は涙を流した。今まで我慢していたのだろう。咲は辛さと苦しさが混じったような声で泣く。そんな咲を氷華は黙って抱きしめた。
咲「(もう二度とこんな思いしないって決めてたのに。)」
今回の襲撃で、誠一郎、隼司、さらには雷斗までもが戦線離脱した。さらに、咲たちの心にも深い傷を負わせる結果となった。そしてここから、戦局は激しさを増していくことになるのだった。
<予告編>
咲「教えてほしいの。昔何があったのか。」
ついに明かされる……明かされてこなかった過去。
ベルザ「はははは!どいつもこいつもくたばれ!」
各々の後悔、そしてトラウマ…
氷華「何が神だ。ふざけるな!」
彼らの謎に包まれた正体が、明かされる。
咲「なんで、私なの?」
そこにいたのは、ただ一人の人物だった。
?「ほら、行くよ。」
第6章 過去編の開幕
次回
6章開幕。そして語られる…知られざる過去が…




