第58話 刺客と闇
碧の父親、そして国からの派遣メンバーの実力とは。
仙石綿谷。その名を聞いた隼司や観月、椎名の顔が青ざめる。
隼司「おいおい、まじかよ。」
観月「強敵……相対するのも運命か。」
椎名「これはやばいかもね。」
咲「ど、どういうこと?」
状況を理解しきれていない私が、碧に質問する。
碧「こいつは国直属の部隊の隊長の一人なの。ランクはSS。噂だと、八聖人が最も信頼している奴らしいよ。」
そういう碧の顔は怒りと憎悪で満ちていた。
綿谷「碧。大人しくそいつを渡せ。お前ならわかるだろう?俺に挑むことの無謀さが。」
碧「悪いけど、あんたから教えてもらったことなんて一つもないの。お引き取り願える?」
碧がその誘いを断ると、綿谷さんは深くため息をついた。
綿谷「はぁぁぁぁぁ。こんなに物わかりの悪い奴だったとは。やはりお前は失敗作だ。ここで始末しよう。」
次の瞬間、綿谷さんが能力を発動する。
綿谷「憑依、ぬらりひょん。」
その言葉と同時、綿谷さんのあたりを灰色の布が覆い、彼の姿を変えた。その姿は、髪色は白くなり謎の杖を持ち、着物のような服装をしていた。
綿谷「さあ、任務開始だ。」
次の瞬間、綿谷さんの頭上に大量の火球が出現する。
隼司「おいおいおいおい!」
観月「なんという攻撃。」
椎名「ちょっ、やばやばやば!」
碧「くっ!」
その火球が私たちの方へと向かって放たれた。それは私たちに直撃し、辺りは煙に包まれた。
綿谷「……ほう、そこまで開放していたか。」
碧「これでも成長してるからね。」
だが、間一髪碧が間に入り、雪女を憑依させて冷気を放つことで、何とか直撃を避けることができた。
碧「咲。知鶴たちのところに急いで。こいつは私が相手するから。」
咲「えっ、でも!」
隼司「ここは言葉に甘えるしかないね。行くよ、咲ちゃん。」
そういって隼司くんが私の手をつかみその場を離れようとする。
観月「我は残る。武士として、背中を見せるわけにはいかぬ。」
椎名「私もそうする。隼司、咲ちゃんのことよろしくね。」
隼司「ああ、任せろ。」
こうして三人が、綿谷さんと向き合う形となった。
綿谷「無駄なことを。」
碧「そのセリフ。後で心の底から後悔させてやるよ!このクソ親が!」
鉄郎「おらおら!あんだけ言っといてこんなもんか?」
湊「ふん。(こいつ、めんどくさいタイプか。)」
杉下鉄郎。その能力は【合金】。体を金属に変えたり、金属そのものを結合したり操ることができる。だが、金属を生みだすことはできないため彼は戦闘時はいつもネジなどの小さい金属を所有している。
湊「(しかもこいつ、戦闘スタイルは金属をぶつける圧倒的なごり押し。なのにその一つ一つが重く、鋭く、精確だ。流石国直属の部隊って言ったところか。)」
鉄郎「どうした?まさか本当になすすべなしか?なら早く楽にしてやろう。」
鉄郎はそういうと、金属を結合して、まるで釘バットのような形となった金属を武器にして湊に突っ込んでいった。
鉄郎「これで潰れろ!」
湊「うおっ!なんちゅうもん振り回してんだよ。」
湊はその攻撃をバックステップで躱し、そのままの流れで影を放ち、鉄郎を拘束しにかかる。
鉄郎「うお、これはなんだ?」
拘束は成功し、鉄郎の腕は封じられた。かに思われたが、
鉄郎「腕が動かせなくても、何の問題もないぞ!」
次の瞬間、鉄郎は金属を操り、自身の腕の代わりとなる巨大な腕を作り出した。
湊「まじかよ。めんどくさいな。」
その場では、もう一つ激しい戦闘が行われていた。
匠「私の時間の価値は、貴様らの何倍もある。私に時間をかけさせるな。」
誠一郎「ちぃ。いちいち癪にさわる和郎だな。」
千歳匠。その能力は【振動】。空気の振動を操ることで、見えない斬撃を放つことができたり、自身を守る防御壁を作ることもできる。
誠一郎「(幸いにも、あいつの攻撃は動物たちの本能で躱せる。でも、俺も攻め切れねえな。どうにかあいつの予想外を作れればいいんだが。)」
匠「こんなもの、時間の無駄にしかならない。戦闘法を変えるか。」
そう言った途端、突然匠が宙に浮いたのだ。
誠一郎「げっ、まじかよ。お前も飛べるのか。」
それに続いて誠一郎くんも背中から羽を生やし空を飛んだ。
匠「ほう、貴様も飛べるのか。」
誠一郎「空中戦を選んだこと、後悔させてやる。」
次の瞬間、誠一郎くんが無数の羽を飛ばし、匠さんへと放った。
匠「そんな攻撃、何の意味もない。」
しかしその攻撃は振動の防御壁によって防がれてしまった。
誠一郎「んなことわかってたよ!」
しかし、その行動を読んでいた誠一郎くんは既に匠さんの頭上にいた。
匠「(何をする気だ?いや、考えるよりも先に始末しなくては。)」
誠一郎「最近埋もれがちだけど、俺も強くなってんだ。見せてやるよ。俺の進化!」
次の瞬間、誠一郎くんの体からすさまじい熱が放たれる。そのまま誠一郎くんの姿は赤い羽毛で覆われ、生えていた羽も紅に染まる。
誠一郎「俺の現時点での最強の力。中国の神獣、朱雀だ。」
次の瞬間、誠一郎くんがすさまじい熱風を放つ。
匠「くっ!」
匠さん防御しようとするが、その攻撃は振動の防御壁を貫通した。
匠「がぁぁぁ!」
そのまま匠さんが地面に打ち付けられる。
誠一郎「さあ、反撃開始だ。」
誠一郎くんも飛行をやめ、再び地上戦をしかけようと、誠一郎くんが凄まじい踏み込みを見せた。
匠「(先ほどより速い。だが目で追えないほどじゃない。)」
匠さんは再び振動の防除壁を展開するが、
誠一郎「そんなもの、もう意味をなさない!」
誠一郎くんはそのままパンチを放った。確かに誠一郎くんのこぶしは止められたが、こぶしの形状をした熱がその防御壁を貫通した。
匠「何!?ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
匠さんはその攻撃を食らい、たまらず距離を取ろうとする。そのほんの一瞬、防御壁が解除された隙を誠一郎くんは見逃さなかった。
誠一郎「やっと隙を見せたな。この野郎。」
誠一郎くんは匠の懐に入ると、腕をゴリラに変形させありったけの力でこぶしを放った。
匠「がはあああああああ!」
匠はそのまま激しく後方へ吹き飛んだ。
匠「くっ!そ、そんな馬鹿な。」
誠一郎「ふう。何とか勝てた。」
匠を一瞬の焦りが隙を生み、誠一郎くんは勝つことができた。
誠一郎「(もう一人は湊に任せて、俺は咲たちのところに。)」
誠一郎くんが私たちのところに向かおうとしたとき、
?「全く。期待外れもいいとこだな。」
誠一郎「!!!!!」
突然どこからか声が聞こえた。辺りはすっかり夜になっていて、そいつの姿はまだ見えていなかった。
?「君、意外と厄介な能力持ってるね。ここで始末しておこうか。」
そういってそいつはゆっくりと歩み寄ってきて、徐々にその姿があらわになる。そいつは、口元に牙のような物があり、目は紅に染まっていた。
誠一郎「(体中の動物の細胞が恐怖している。こんなの初めてだ。)……何者だ?お前は。」
?「名乗る気はなかったけど、まあいいか。俺はべラス。四天王の一人だ。」
同時刻、別の場所ではとんでもない大惨事が起きていた。
人々「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」「た、助けてくれ―――!!」
辺りの家はすべて燃え上がり、周りの住民の悲鳴が辺りに響く。
?「悪く思うな。全てはこの世を正すためだ。」
その人物は、これまで出会ったどんな奴よりもすさまじいオーラを放っていて、向かっていったAランクバトラーですら、相対しただけで気を失うほどだった。
Sランクバトラー「くっ、この化け物が!(俺の攻撃が全く通用しないなんて。)」
?「さらばだ。せめて美し散らせよう。」
その男が、Sランクバトラーにとどめを刺そうとしたとき、
Sランクバトラー「……え?」
突然Sランクバトラーの目の前に、氷のドーム状の囲いができていた。その囲いにより、とどめの一撃を防ぐことができた。
氷華「早く逃げろ。」
Sランクバトラー「は、はい!」
そこには、氷華の姿があった。Sランクバトラーはその指示に従い、何とかその場から逃げ出すことができた。
?「……随分、懐かしい顔が見えるな。」
氷華「久しぶりだな。夜闇。」
夜闇と呼ばれる男は、氷華の方を見つめ、どこか懐かしげな表情を浮かべた。
夜闇「まさか、ここに来るとはな。」
氷華「俺の目のこと忘れたのか?見たいものが見えるんだ。それは未来も例外じゃない。ま、今はそんなに遠くは見れないけどな。」
夜闇「そんな状態で、俺に勝てるとでも?」
氷華「負けるつもりは毛頭ない。」
次回
衝撃の展開が待っている。果たして結末はいかに……




