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後悔は実りました

作者: 楊咲


 私が後悔していることは、隣の席の男の子に告白できなかったこと。


 片思いし続けてたったの二年。小中一貫で通っていた学校、その小学四年生の時に隣の席になった。


 最初は特に異性として見ていなかった。うるさい人間だなと遠ざけていたのを今でもよく覚えている。


 たまに来るちょっかいはやめてと強く言えば来なくなる。班机にした時もうるさければ、もう耳を塞いでいたような。

 勉強はできないと、遠慮気味に声を掛けられれば教えることもあったが、それまでであった。


 四年は開いた。次にクラスになったのは中学三年生の時だ。


 あの時より顔が大人び始め、背も高くなり、学年の女子はひそひそと彼に注目し始めた。


 そんな人と隣の席になったのは二学期以降だった。

 期間は半年以上。一学期終わりの席替えを機に変わることもなかった。


 久しぶり、あの時では考えられない低い声にドキリとしながら返した。

 授業中に視線が合えば、なぜか笑ってきてはこちらは目を逸らす。問題に躓いていると、こちらが手助けすれば照れくさそうに感謝を伝えてくる。うるさいなんて思っていたはずなのに、話し掛けてくる言葉は笑わせにくることばかり。

 先生に注意されたのはより覚えている。なぜかその人だけが怒られていた。私は例には漏れず笑っていたのに。


 意識しないわけがなかった。嘘偽りなく言えば、気になる人になっていた。


 文化祭は演劇で同じく裏方になれば、体育祭は対抗リレーに同じく選出される。

 濃い秋を大切に歩んで行けば芽生えていた。


 それでも、隣のクラスの友達と帰ってる途中、あの人はすでに彼女が居ると聞いた。

 塾が同じらしくそこから知ったことらしい。それに噂では……そうらしい。


 なぜか苦しくなれば、遠ざける。


 あの人が悲しい顔を浮かべていたような気がしたけど、流石に不味いので素っ気ない感じで相手をした。


 受験生だったから、より溝が生まれた。話すこともなく迎える三学期は友達と迎え、晴れることのない霧は、春風に乗って後悔を生んだ。





 高校に上がれば、いいなと思う人は現れなければ、友人には引きずりすぎとまで言われた。

 ただ、それよりもと勉強に集中していたほうが性に合っていた。


 そんな高校二年生の春、落としてしまった参考書を手に取ってくれたのは……偶然にもあの人であった。


 互いに驚いていた。

 高校も違えば、同じ行き先の電車を利用していたとは思ってもみなかった。


 流れでってことはなければ、後悔はしていない。彼女が居るだろうと。


 それでも、悪さをするかのように偶然が呼ぶ。


 次の日も電車の中で会った。

 そして、その次の日も、そのまた次の日も。挨拶ぐらいはするようにはなれば、話すきっかけとなったのは再び彼からであった。


 勉強を教えてほしい。そんなことから関係が始まり……告白された。


 ずっと好きでした、俺と付き合ってください。


 期末考査を終えたその日真っ暗となった帰宅途中、顔を真っ赤にさせながら彼は言った。


 何かの間違いだろうか、それはなさそうであれば私はこう返した。彼女が居るんじゃないの……? と。


 互いに見合い、頭上に?マークが浮かべば雰囲気というものが掻き消えた。


 彼女なんてできたことがないらしい。途中冷静になったのか、そんなことを言わせるなとまで言われた。


 後日、いろいろ話すことがあった。振り返るかのように言った言葉には全て返されてしまい、心配という名のバカを見る目で私のことを見ていた。


 半ば呆れたかのような彼に目を合わせないでいては……お願いしますと言い、ぎこちなく抱き寄せられる。


 恥ずかしさのあまり、好きの二文字は伝えられず、彼の背中には手は添えるだけとなってしまった。



 付き合いは何年も続いていく。ショッピングモールに水族館、遊園地に美術館と高校時代に連れて行ってもらえば、大学では海に温泉、行き当たりばったりの遠出もし、お泊りもした。


 ただ、こうして付き合うなかでも自分から伝えられなかった後悔は消えるわけではない。

 貰い続けたものを彼にも渡してあげたい。それは日々の暮らしや、彼の誕生日を祝おうとも足りなかった。


 付き合って九年目、同棲している家を飾り付け、いつもより手を振るった食事を共に作る。


 口に運べば満足してくれて嬉しくなる。他愛もない話は、消えてほしくないひとつの日常だと改めて感じてしまう。


 食器を洗えば、心臓の鼓動が止まない。


 彼を呼んで、私の前に立たせれば照れくさくも目を向ける。


 後悔を生む前に、ずっといっしょに居続けていたいから。


 だから、目の前で小さな箱を開けてみせた。


「私と結婚してください」


 呆然とした彼に仕返しができたのは小学生ぶりかもしれなかった。


 ふざけんな、そんな悪態吐く彼は拳を作るもやさしく包み込んでくれた。




 私は、隣の席の男の子に告白できなかった。


 それでも──後悔は、あなたの涙と共に実りました。


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― 新着の感想 ―
中学で久しぶりに関わった時に声変わりしてて低い声にドキッとするのいいですよね。以前はただのうるさい男子だったのが気になる異性になってる感じが好き。 彼女がいるらしいって噂はモテてる人なら誰でも有り得…
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