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第5話 今、二人の妹から挟まれてるんだが?

「これ、美味しいね」


 椅子に座っているロングヘアな妹が言った。


「それさ。昨日、デパートの食材売り場で一〇パーセント引きだったから、つい買ってきたんだよ」

「そうなんだ」


 朝。

 蓮見達紀(はすみ/たつき)は自宅リビングにて、妹と共に朝食を取っていた。

 ダイニングテーブルに広げられているのは、ご飯味噌汁の他に、総菜として昨日購入してきた大きなエビフライである。

 実妹である蓮見一夏(はすみ/いちか)は、ご飯茶碗を片手に、そのエビフライの頭部分からかぶりついていたのだ。


 朝から揚げ物の中で一番美味しいエビフライを食べて嬉しそうに笑みを零していた。


「お兄ちゃんって、この頃は大丈夫な感じ?」

「え?」

「なんかさ、去年色々あったし。大丈夫なのかなって」

「そりゃ、結構きついけど。それなりには」


 一夏が言っているのは、茜と別れた事についてである。

 昨日も街の裏通りで、チラッと(あかね)の姿を目撃していた。

 今も少々心苦しくもあったが、あのクリスマスの大きな出来事からすでに四か月も経過しているのだ。

 昔と比べれば、大分心が落ち着いている方である。


「なら、良かったね」

「ありがと、心配してくれて」

「だって、お兄ちゃんが困ってたら、そりゃ気にするよ。でもさ、少しは顔色が良くなったよね」

「そうかな」

「うん。今年からは私もお兄ちゃんと同じ学校に入学することになったわけだし。お兄ちゃんの暗い顔なんて見たくないからね! でも、困った事があったら、いつでも相談のるよ!」


 一夏は、はにかんでいた。

 妹を見ると、達紀も笑顔になれる。

 心強い存在だと思う。


 達紀は時間を気にしながらも、一夏と共に朝食を続けるのだった。




「お兄ちゃん、これでいい?」


 朝食を終え、身支度も終え、達紀が自宅の玄関先で靴を履いている時だった。

 階段を駆け足で下ってきた一夏が玄関までやってくる。


「んー、いいんじゃないか?」


 一夏は学校指定の制服を見せてきたのだ。

 達紀の前で一回転して、全体的に姿を見せつけてきた。


 今の妹は、ロングな髪を双方に束ね、ツインテール状態にしていたのだ。


「問題なさそう? 変じゃない?」

「変じゃないけど、どうして?」


 靴を履き終えた達紀は正面から妹の制服姿を見て、少々考え込んだ顔を浮かべていた。

 どこに違和感があるのか、達紀はわからなかったのだ。

 首を傾げてしまう。


「何となく。お兄ちゃんに見せたかっただけ」

「え? そ、それだけ」

「そういうこと。ただ、それだよ。じゃ、行こう。昨日は入学生と、在校生で別々の登校だったでしょ?」

「そうだな」

「今日からお兄ちゃんと一緒に通えるなんて楽しみって思って」

「そういえば、一緒に登校するのは中学生以来か」

「そうだよ。あとね、まだ、友達とか出来てないから早く友達も欲しいし。なんか部活でもしようかなって。部活に関してはまだ考え中なんだけどね」

「やりたい事が色々とあるんだな」

「そうだよ」


 一夏は玄関で靴を履きながら答えていた。


「そういえばさ、一夏のクラスに友達になれそうな子がいるよ」

「え? なんで知ってるの?」


 靴を履き終えた妹は、達紀の顔を見てくる。


「昨日、妹と同じクラスの子と会ってさ。それで、うちの妹と友達になってほしいって、そんな話をしたんだよ」

「そうなの。お兄ちゃん、気が利いてるね。それで、どんな子?」

「名前は津城唯花(つしろ/ゆいか)だったかな」

「へえー……でも私、全員の名前とかもまだ覚えてないんだよね。多分、今日、自己紹介をやると思うから、その時にわかるかも」


 一夏は今日からの本格的な学校が楽しみなようで、テンションをあげていたのだ。


 達紀は妹と一緒に玄関から出る。玄関扉に施錠してから、一夏と横に並んで学校へ繋がっている道を歩き始めるのだった。




 その日のお昼時間の事だった。

 午前の授業も終わり、達紀は学校の敷地内である中庭にいたのだ。

 学校の購買部で購入したパンと、校舎内の自販機で購入したコーヒー牛乳の紙パックを手に持ち、その中庭の木の下にあるベンチに座っていた。


「今日はありがとね」

「大丈夫だよ、私もそういうことあるから」


 達紀の両隣には、二人の女の子がいる。

 津城唯花と、達紀の妹である一夏だ。


 今日、唯花が授業で使う教科書を忘れてきたらしい。

 そこで、一夏が貸してあげたという話のようだ。


 達紀は購買部でパンを食べながら、その様子を伺っていた。


「えっとさ、俺が真ん中でもいいのか?」

「「え?」」


 二人はハモった感じに言う。


「だって、二人は普通に親しくなってる感じだし。俺が端っこで二人が隣同士の方がよくないか?」

「そうかもだね。唯花さんはどうする?」

「じゃあ、一夏の隣で」


 二人が承諾した事で、ベンチ内での場所移動が始まる。

 座り直してから三人は昼食を取り始めたのだ。


「そういえば、唯花って、どこでお兄ちゃんと出会ったの?」

「あっちの方だよ」


 唯花はベンチに座ったまま、達紀と昨日出会った場所を指さしていたのだ。




「そういえば、唯花は、どんな部活に入るか決めた?」

「全然、まだ決めてないよ。でも、入らないかも」

「えー、勿体ないよ。せめて文化部には入ろうかなって」

「じゃあ、私も一夏と同じく文化系にしようかな?」


 同じベンチに座っている二人は購買部で購入してきたパンの袋を開封し、それを食べながら楽しく会話していたのだ。


「なんか、二人って、もう仲よくなったんだな」

「そうだよ」

「はい、達紀先輩のお陰で」

「ならよかったよ」


 一先ずは一件落着といった感じだ。


「そういえば、お兄ちゃん」

「ん? なんだ」


 達紀の左隣に座っている一夏が問いかけてきた。


「お兄ちゃんの事を振った人って、まだこの学校に今もいるんだよね?」

「あ、ああ……」


 その質問に対し、達紀は食べていたパンを口から離したのだ。

 達紀の事を振った相手というのが今も同じクラスにいる。

 桜井茜の事であり、今日も朝から苦しかった。

 昨日、怪しいホテルに入っていたところも目撃していたからだ。


 教室内で茜の方を見やった時もあったが、すぐに睨まれる事もあった。

 出来る限り関わりを持ちたくない。


「どうするの?」

「どうするって、まあ、それに関しては色々と考えがあって。放課後にな」


 嫌だったとしても、達紀は一応、茜に話しかけようとしていた。


 昨日、津城芹那から話を聞き、茜も男性に騙されている一人だと知ったからだ。だからといっても同情しているからではなく、ただの忠告として伝えるだけである。


「でも、困ったことがあったら、ちゃんと話してよね!」


 一夏は購買部で買ってきたパンを左手に持ちながら、達紀の左肩に右手を添えるのだった。


「ああ、わかってるよ。でも、気にしてくれてありがとな」

「私は、いつでもお兄ちゃんの味方だからね」

「私もですから!」


 一夏に続き、妹の左隣に座っている唯花も笑顔でかつ、親指でグットサインを見せて言ってきたのだ。


 心強い存在が沢山いれば、精神的にも安心である。

 でも、いつまでも、悩んでばかりはいられないのだ。


 少しでもいいから前へと進んで行こうと、達紀はコーヒー牛乳を飲みながら思うのだった。


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