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第40話 将来のことについての記録

 蓮見達紀(はすみ/たつき)は、納得ができる結論を自分の中で出せたと思う。

 そう自身の心に問いかけ、二週間前に美術の先生に提出した絵について考えていた。


 今は六月の上旬。

 応募した絵に関する結果は三週間ほどかかるらしい。


 彼女らに対して、良い結果を伝えればいいのだが、少々不安な気持ちもあった。


 悩ましく考えていると――


「……達紀くん? ねえ、聞いてる?」

「は、はい」


 少々俯きがちになっていた達紀は顔を上げる。

 テーブルを挟み、正面の席には津城芹那(つしろ/せりな)が座っていた。

 休日の今日は、芹那と一緒に街中の喫茶店に訪れていたのだ。


 現在、おやつの三時頃であり、普段寄りもかなり遅めに合流して今に至る感じであった。


「さっきからボーッとしていなかった?」

「そうかもしれないですね。この前応募した絵の結果がどうなるのかなって。そればかりが気になってしまって」


 達紀は小声で返答していた。


「でも、応募したんでしょ? それなら後は結果を信じるしかないんじゃない?」

「そうですね。緊張しますよね。結果が分かるまでは」

「そうね。達紀くんが応募した絵って、自信を持って他人に見せられるものだったのかしら?」


 芹那から問われ、達紀は少し考え込んだ後、はいと答えた。


「自分の中で納得できる出来だったと思います。ですが……人物を中心に描くのが得意ではなかったので、今になってから前回と同様に風景画でも良かったのかなって」

「そんなに気にしなくてもいいわ。達紀くんの絵を見たけど、しっかりと二人を描けていたじゃない」

「み、見たんですか?」

「ええ、唯花の部屋に入った時、その絵が飾ってあってね。唯花からその事を聞いたの。私の目から見ても出来が良かったし。それで、どの絵を応募したのかしら? もしかして、唯花の部屋にあった絵かな?」

「それとはちょっと違いますね」


 達紀は首を横に振った。


「じゃあ、どんな絵なの?」

「それは後でいいますね。結果が出てから」

「えー、そんなに勿体ぶらなくてもいいのに」


 芹那は笑顔で話しかけてきてくれていたのだ。


「まあ、そういう事なら、後の楽しみにしておくわね」


 芹那は一呼吸をつくためにコーヒーを飲む。


「達紀くんには報告したい事があって。私、先月にあそこのファミレスバイトを辞めたの。今は大学のサークル活動の他に、洋服関係のお店でもバイトし始めたって感じ。私、本格的に将来の事を考え始めてる途中ってところかな。達紀くんは将来の事って決めたのかな?」

「え、それは……芹那さんのようには、まだハッキリとした考えはないですけど」


 達紀は自信無く答えた。


「でもね、そろそろ決めた方がいいんじゃないかしら? 達紀くんはもう高校二年生だし、三年生になってからだと忙しくなるよ」


 達紀は、少し先を生きる人生の先輩である芹那からアドバイスを受けていた。


「そういう意見は他の人からも聞きますね。やっぱり、決めた方がいいんですよね?」

「そうよ。私は三年生になってから進路を決め始めてたから、かなり大変だったわ」


 芹那は困った顔を浮かべていた。


「芹那さんは大学に進学する事が目的だったんですか?」

「いいえ。私、元々は就職する事が目的だったって感じ」

「急に変わったんですね」

「ええ。夏休み中にその当時創刊されたモデル雑誌を見て、自分も洋服とか作ってみたいと思って。それから大学に行こうってなったの。急な進路変更に、担任の先生とかも驚いていたんだけどね。元から服には興味があったから。最初っから洋服店でバイトするより、知識や技術を身につけた方が後々楽でしょ?」

「確かに、技術力がないと今の時代はやっていけないですからね」

「そういうこと。その日から必死に勉強して今に至るってこと。まあ、来週から洋服店でバイトすることになるわけなんだけど。楽しみって感じ。元からそこで働いてみたかったし。私的には、新しい挑戦っていうか」


 芹那は未来を見据えて活動的になっている。

 そんな彼女を見ていると、達紀もこのままではいけないと感じるようになっていた。


「芹那さん、頑張ってくださいね」

「わかってるわ。何かあったら、達紀くんの服をプレゼントするかも。欲しい服があったら、私に言ってもいいからね」


 そう言って、芹那はテーブルに置かれていたケーキをフォークで掬い、食べていたのだ。


「達紀くん。そういえば、この前、警察に届けた被害届があったでしょ」

「ありましたね。あの後どうなったんですかね?」

「他の被害者からの届もあって、結構警察の中でも真剣に調査してる感じらしいの。もう少し時間がかかるみたいだけどね」

「色々と進展があったんですね。なんか、気が楽になった感じがしますね」

「ごめんね。達紀くんにも迷惑かけたし、でも、ひと段落着いて、私も気が楽になったわ」


 津城家が抱える問題もこれで解消されそうである。

 達紀も肩から力を落とし、テーブルに置かれてあったココアを飲んだ。


「達紀くんはケーキとかいる? もう一個頼むなら、その分は私が払うわ」

「でも、今日のお代自体、芹那さんが払うことになってますし、申し訳ないような気が」

「いいの。私の都合で達紀くんを街中まで呼んでしまったんだし、それくらいのお礼はしておくわ」


 達紀は、芹那からケーキの写真が載せられたメニュー表を見せられた。

 今は、芹那の親切を受け取っておこうと思い、一つだけ新しくケーキを頼む事にしたのである。




「今日はありがとね」

「こちらこそ」


 達紀は芹那と喫茶店から出て、奢って貰った事を踏まえ、彼女に頭を下げていた。


「まだ時間があったら、こちらから誘うかもしれないし。今日は色々と会話できて楽しかったわ」

「俺も楽しかったです」


 休日のひと時を過ごせて、達紀も気分転換になった。

 達紀はこの頃、絵を描く練習ばかりに時間をさいており、休日は自宅に引きこもる事が多かったのだ。

 外の空気や街中の景色を見られて、精神的にもリフレッシュできた感じだった。


「達紀くん、また後でね」

「はい」


 二人は街中のアーケード街の出入り口付近で別れる。

 二人は各々の家に向かって歩き出したのだった。


 今日は街中まで来たんだし、本屋に寄ってから帰ろうかな。

 んー、確か、あの配信者の最新刊も出たっていうし、今後のために購入しないといけないかもな。


 達紀は今後の事について、真剣に考えるようになっていたのだ。


 達紀は、高校を卒業したら絵を描ける学校に進学しようかと心の中で思い、人が行き交う夕方頃の街中を歩きながら、未来の事について考え始めていたのである。


 今までの人生は辛かったかもしれないけど、これからは自分の力で切り開いていこうと。今日、芹那と関わり、自信を持った顔付きで目的となる本屋へと進んで行くのだった。


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